【理絵子の夜話】空き教室の理由 -004-
理絵子は首無し写真を自分のカバンに収めた。
「え?でも…」
「私のは、訊かれたら、後ろの照明が入って変になった、とでも言っておけばよろしいかと……訊く人がいれば、ですが」
「そ、そう?」
担任は言うと、おどおどしながら、分けた写真の普通の方に手を伸ばした。
怖がりすぎている。理絵子は思った。この場合、普通なら怖がるのは自分の方だ。
だから気にするなのつもりで言ったのだが、逆に心霊写真と断定して恐怖を深めたか。
“黒野さんが言うなら本物なのか”。
「先生大丈夫ですか?カメラのメモリも消しましょう」
と、デジタルカメラに再び手を伸ばすと、会話を邪魔するようにムッとする風が室内に吹き込む。写真が飛ばされ、カーテンがめくれ上がり、棚の上の空の花瓶がそこから倒れ落ちようとする。
「あっ!」
担任が声を出す。理絵子は棚の下へ自分の学生カバンを投げた。
数瞬早くカバンが花瓶を受け止める。
「いやっ!」
担任は悲鳴を上げ、胎児のように両腕を胸元に引き寄せ、ガタガタと震える。
尋常じゃない。理絵子は担任の肩を両腕で掴んだ。
「大丈夫ですよ。風が吹いただけ、大丈夫です」
次いで担任の頬を手のひらで包み、小さく微笑んでみせる。伝わる鼓動の激しさが、彼女の抱いた恐怖の大きさを物語る。
「大丈夫」
理絵子はもう一度言った。鼓動が徐々に落ちついて行く。
廊下を走ってくる音。
「どうしました!?大丈夫ですか?」
ドアの向こうから、激しくノックする音と共に聞こえてくる声は教頭。
「突風で資料が飛んだだけです。大丈夫です」
理絵子は答えた。
「……ん、そうか、判った」
理絵子は教頭が去るのを確認すると、腕の中の担任に目を戻した。
その顔は涙でボロボロであり、化粧が落ちてしまっている。
何かあるのだ。理絵子は確信した。
「ひょっとして、この手の写真が撮れることに何か心当たりが?」
担任は、頷いた。
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