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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -008-

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 昭和の産物と理絵子は断じた。木造モルタル。部屋は1階・2階とも4室ずつ。間取り1K単身者世帯向けの賃貸アパートだ。
 ブロック塀で囲われた中に入り、階段脇にしつらえられた集合ポストを覗く。
 ステンレスの無地なのだろうが、薄汚れて光沢が失せてしまっている。何もなし。内部の汚れからして新聞の類いも取っていないようだ。
 鉄板階段をコンコンと上がって行く。廊下に蛍光灯があるにはあるようだが、球切れして久しいようだ。
「電気切れてますね」
 理絵子は言った。話題が欲しい。
「2部屋しか人いないからね。点けるだけ勿体ないからって」
 あきらめたように担任は言う。
 これは良くないと理絵子は思った。雰囲気が陰々滅々なら担任も陰々滅々なのだ。こういう後ろ向き、縮こまるような気持ちは、ココロから元気を奪う。
 2階に上がる。
 担任がスカートのポケットに手を入れ、カギを探す。風が渡り、少し反った玄関ドアがガタガタと音を立てる。残照も赤みは失われ、わずかにブルー。河川敷の木がシルエットで揺れ、遠く雲取(くもとり)山系の山並みが寒々しい。
「お待たせ」
 担任はドアを開けた。
 油ぎれしてます、という感じのギィという音。
 理絵子は、ギョッとした。
 暗いのだ。まるでブラックホールの入り口を垣間見た。そんな感じ。
 そして、そういう雰囲気を与える原因を理絵子は知っている。
 だから。
「先生は、いつも、ここに入る時、ためらいませんか?」
 理絵子は訊いた。
「え?」
 担任が驚いているのが判る。肯定の意であることは明白。
 どんよりと沈滞した室内に向かい、理絵子は視力を切り替える。
 それは網膜で捉えて脳で結像する生物的な視力ではない。
 心で直接見る能力。
 ESP。超常感覚的知覚。
 理絵子は息を呑む。

(つづく)

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