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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -009-

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 超常の視覚が捉えたのは、天井をびっしりと埋め尽くす“虫”の姿。
 昆虫ではない。無数の脚を有する節足動物であり、一般に女性が忌避するタイプの連中である。ムカデ、ヤスデ、ゲジ……益虫害虫はともかく、見た目が悪いという理由で嫌われる“不快害虫”だ。但しこの世のモノではない。陰々滅々な雰囲気の場所に好んでわき出るあの世の存在である。憎悪とか怨恨といったマイナスイメージを有する“気持ち”が、そうした虫の姿を取るのでは、というのが理絵子の認識。
 理絵子は睨んだ。“害虫”共が気付き、巣穴に逃げ込むクモのように、その場からバッと姿を消す。
 めりっ、と、梁が軋んだ。その筋の用語で“ラップ音”と呼ばれる音だが、子細はどうでもいい。
「閉めっぱなしだと空気が重くなります。こうやって少し開けてから、入るといいですよ」
 理絵子は声のトーンを明るくして言った。
「あらホント」
 担任は雰囲気の変化に気付いたようである。
 だがしかし、絶対的な暗さは変わらない。それは何か光を吸収してしまうというか、届かないようにベールをかけるものが存在するというか。
「どうぞ、上がって。ごめんなさいね。散らかってるけど」
 担任は理絵子を招き入れた。
「お邪魔します」
 板張りの玄関……脱靴場の隣は小さなキッチン。タイルの壁にガステーブル。小ぎれい、というよりも使用している形跡がない。蛍光灯のカサにはサビが浮き、スイッチ引き紐にはホコリが付着。それでも北向きではあるが窓があるだけまだマシ。安ホテルでよく見る小型の冷蔵庫がぶーんと唸っている。
 襖の向こうが居間なのだろう。“ちゃぶ台”が一つあり、部屋の2方向はそそり立つようにタンスと本棚があって、本はぎっしり。教育関係の著作や組合か何かの会報誌。但し整理されている風ではなく、普通に並べて入らなかった分は隙間に押し込みました。そんな感じ。
「あんまりそうジロジロ見ないで。座って」
 担任は言いながら、ちゃぶ台の上に垂れている引き紐を引いて電灯を付け、自らも腰を下ろす。
「ごめんね。でもありがとう。あなたにいてもらうだけでこうも違うとは」
 開口一番担任は言い、涙ぐんだ。
“はずれババァ”……担任に対するクラスが付けたあだ名である。口やかましいが何か微妙に論点や視点がずれている。“よく怒るけど、観点が何か違わないか?”という違和感からの命名だ。言いがかり・八つ当たりの意を含んでいよう。もちろん、担任を慕う者は少ない。

(つづく)

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