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2024年6月12日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -05-

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 そして、そういう経験がこの娘には過去にないことも。
「友達なら普通だよ」
「友……」
「ほれほれ……」
 きょとんとなった瞬間に手を引いて歩き出す。姫子は神領に比して小柄であるうえ、白いTシャツにデニム地短パンというスタイルなので、まるで妹が姉を引っ張っているが如し。
「え……ちょ……あいはら……」
 スーパーがあるのは住宅街、路線バスが通る交差点の脇。信号を渡ると造成前の雑木林をそのまま残した公園があって、遊歩道が斜めに横切る。
 “夜は暗いので女子生徒は不用意に通るな”なのだが、姫子の家まで最短ルートなので構わず跋渉。
「ここって……」
「だから誰も付いてこられない」
 ゆえに尾行すると誰もいないので目立つ。すなわち尾行までされる心配は無い。
 ただ、この先、中学校のそばにある四阿は談笑場所として知られているので、待ち伏せの懸念がある。今日そこは使えないだろう。
 以上の判断から“自分の家”なのだと姫子は歩きながら神領に話した。
「いつもこの時間ここを一人で?」
「一人じゃないよ」
 スッと二人の前に現れる黒猫。
「仲良しなんだ」
「え?」
 二人の前に座り、尻尾をくるりと体にまとってにゃぁ。
「この子“いるけど触れない”って有名な……」
「ニジェルアレスヒロス。この子の名前。黒い翼のヒーローってな意味のラテン語。ヒロスで通じるよ。ありがと。今日もカッコイイよヒロス」
 姫子がそう言って手を振ると、黒猫は立ち上がり、尻尾の先端を神領美姫の足首に軽く触れて去った。
「今のチョットさわる、が彼の挨拶。あなたは私の友達なので、彼もあなたを友達と認めて下さると。シャイなんだよ。はい、学校まで着きました。ここからこっちの“コーポランド”へ入って5分ほどです」
 コーポランド。彼女の家がある、正確には帰化して居候している家のある住宅街のこと。プラザとかニュータウンと同じ類いの通称。
 南向きの斜面を造成したちょうどエリアの真ん中当たり、児童公園を支える高いコンクリ擁壁の下。
 インターホンをピンポン。
「姫子です。お友達連れてきちゃった」
『あら。お菓子と飲み物何か出すわね』
「はーい……どうぞ神領さん」
 門扉を開き、道から数段の階段を上がり、玄関ドアを開いて招き入れる。昭和の造作になる木造モルタル2階建て。

(つづく)

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