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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -06-

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 玄関から真っ直ぐ廊下の奥の突き当たり、リビングのドアがわずかに開いており、手のひらが出ている。
“手が離せない”の意味。
「あ、おじゃま、します」
 神領美姫がぺこり。
「どうぞー」
 インターホンで応対した“母”の声がし、手のひらが“OK”の形に変わる。
 そこで神領美姫が小さく笑った。
「……何か面白い」
「やっと笑ってくれた……2階へどうぞ」
「え?」
 手を引いて階段を上がって行くと、まるでされるがままの幼子のように後をついてくる。自分のすることが予想外過ぎて対応できないから、という側面はあろうが、それより明らかなのは、お高く止まった占い少女というのは、この娘の実の姿と大きく異なるということだろう。
「はい。フィアンセが元々使ってた部屋なので、男臭くて殺風景かもだけど」
 木製のドアを開いて中へ入れる。照明を付けるとフローリングで白い壁紙。押し入れは木製の引き戸。結果として木目と白のシンプルな色調。
 彼女はそこにベッドと丸テーブル、イス二脚を持ち込んでいる。道路方に出窓があって、アルマイトの弁当箱を思わせるオーディオ装置と、その両脇にセットされた木目の小型スピーカーシステム。
「ごめんねまだ自分の部屋としてチューニングできてなくて。女の子呼ぶには殺風景だよね。荷物はベッドの上に放っていいよ。何か飲み物持ってくるから座ってて」
 通学リュックをベッドに投げ出し、テーブル上のリモコンを手にしてオーディオにピッして一旦部屋を出る。
 と、母親、正確にはフィアンセの母親と出くわす。
「はいお紅茶」
「わーいありがとうございます」
 お盆の上のティーセットと、小皿に盛られたクッキー少々。
 彼女は受け取ってテーブルの上に置いた。
 一連の動きの間、神領美姫は立ったままポカンと見ているばかり。
 オーディオ装置が音楽を奏で始める。神領美姫はそこで正気に戻ったようにスピーカーに目をやった。
「不思議な音色……」
「アヌーシュカ・シャンカール(Anoushka Shankar)。演奏しているのはシタールってインドの楽器」
「あ、シタールって聞いたことあるかも……ギターみたいな奴だよね」
「そうそう。音楽好きなの?」

(つづく)

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