【理絵子の夜話】空き教室の理由 -005-
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理絵子は担任の家まで付き合うことにした。
怯え縮こまったその姿は、とても“先生”という感じではなかった。他愛ないものに恐怖する幼子を思わせた。見ちゃいられない。それが正直なところ。
とはいえ学校近くで待ち合わせは人の目が有って憶測を生むため、駅までどうにか来てもらって落ち合う。傍目には親子のように見えるだろうが、心理状態はほぼ逆転状態と言って良い。
ICカードを改札機にかざしてホームへ降りる。塾はワヤになってしまうかも知れないが仕方あるまい。“とり殺される”という顔つきをしているのを放ってはおけない。このままでは、誰かに呼び止められただけで気絶する勢い。
ちょうど到着のオレンジストライプを巻いた銀色電車に乗り込み、東京方面へ向けスタートする。担任の家は隣の市にあり、川沿いの駅が下車駅。乗車10分強という距離。夕刻の東京方向であり、加えて途中で特別快速に抜かれる列車。車内は空席もチラホラ。
発車して加速する。その直後であった。
電車が長々と警笛を鳴らし、床下から空気の吐出するプシャーッという音が聞こえた。
急減速に身体が倒れる。
『急ブレーキです。何かにおつかまり下さい』
車掌の放送があり、がくん、と電車が止まった。電車が前のめりになり、反動で後ろに揺り戻し。そっちの方の衝撃で人々がバランスを崩し、数名が倒れた。少々の悲鳴と悪態。
『ただいま線路上を人が横断したため急停車しました。安全を確認します。そのままでお待ち下さい。なお、お怪我をされたお客様がいらっしゃいましたら、車内のボタンで乗務員までご連絡下さい』
放送があり、程なくして、線路の砂利上を人が走って行く音。車掌であろう。
「またかよ」
誰かが呟いた。
「ここ自殺の名所なんだろ?」
びくり、と担任が身体を震わせる。
“自殺”というフレーズに敏感に反応したのだ。確かにこの駅を出てすぐのカーブは自殺の名所だ。ゆえに踏切を陸橋に変えて防止を図ったが、線路際から柵を乗り越えて線路内に立ち入り、が、まだあるという。電車からは見通しの悪いカーブで、線路脇には竹藪があって人通りも少ない。“見つかりにくい”からコトに及ぶわけで橋だの柵だの物理的な問題ではないと思うが。
(つづく)
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