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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -07-

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「クラシックが好き……って言ったら、引く?」
 恐る恐る、という感じで、神領美姫は幼女のように小首を傾げた。“引く”の意を彼女は一瞬理解しかねたが、しらける、お断りします、距離を取りたい、身を引く……的なニュアンスだとすぐに判じた。
「いいえ別に。無駄に耳が敏感なのでピアノやバイオリンの倍音がキリキリ乗っかった音が好きです。フィアンセが“はいれぞ”って奴を構築しているので、パソコンで呼び出してこれにたたき込めるようにしてあります。クラシックだとコレッリとかヴィヴァルディとか、バロックに偏ってるかな。シューベルト、モーツァルト、小編成ものをダラダラ流すの好き。シャンカールも取り込み済みだから、CD貸してあげるよ」
 テーブル上のノートパソコンを開き、オーディオの再生リストを切り替える。
 弦楽。
「“和声と創意の試み”」
 神領美姫は当たり前のように言い当てた。いわゆる“ヴィヴァルディの四季”は協奏曲集“和声と創意の試み”の前半12曲を指す。彼女はいま、その続きに当たる13曲目をスタートさせた。
「正解、と言うだけ野暮みたいだね。後はランダムだから適当だよ。はいはい立ってないで座って」
「ああ、うん」
 色々抱え込んで潰れそうになっている娘だな。それが彼女の印象。それに抗うべくハリセンボンのようにトゲを立てて膨らんでいるのだ。
 紅茶にグラニュ糖を混ぜるのを待ち、切り出してみる。
「実はあまりいい噂を聞きません」
 すると神領美姫はティースプーンを回す手を止め、しおれた花のように肩をすぼめた。
 カランと音を立てて止まるスプーン。
 彼女は指をパチンと鳴らしてテーブルの上にカードを横一列に並べる。タロットフルセット78枚。
 神領美姫は目を見開いた。
「古そうなカード。アンティーク?」
「500年ほど前のもの。親から譲ってもらった私の宝物の一つ」
「ごひゃく!?」
「ヴィスコンティとか言ったかな。さて午前の占いの続き」
「えと、あの……ごめんなさい」
 神領美姫は頭を垂れ、彼女はカードに添えた手を止めた。
「私のは……うそ、です」
「カードにマーキングしてあったしね」
 意図したカードを引くために、傷、汚れ、折れ目で目印。
 78枚から一枚引く。“カップの王”。

800pxcups14

(Wiki)

(つづく)

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