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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -010-

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 しかし実態は見ての通りであるようだ。小さく縮こまっている。生徒に対する態度は虚勢であるのかも知れぬ。
 沈黙の時間。担任はしきりに涙を拭っている。
 張りつめていた物が一気に解けて涙となって流れ出てきたようである。
「大丈夫ですか?」
 理絵子はハンカチを差し出した。担任はそれを受け取り。
「あなたは……優しいのね……」
 ぼろぼろ涙をこぼして泣く。
 逆だ。それが理絵子のまず思ったこと。親にも言えないことを教員に打ち明ける生徒…なら、マンガなどで良くある場面。今目の前で生じているのはその丁度逆。
 次いで思ったことは。
 この、自分より4倍も長く生きてきた女のひとは、優しくされたことがないのではないか。
 心理学の素養があるわけではない。だが、経験上、抱え込んできた辛いことを人に聞いてもらうのがココロの薬になることを知っている。そして、それは、超常識的手段で言い当てられるより、本人の口から、本人の意志で、口にしてもらった方が良いことも知っている。
 ただ背景を知っておいた方が良いとは思う。顔を覆う担任の頭部をじっと見つめる。生い立ち、決して裕福とは言えない家庭環境。それを両親は自分たちの学歴によるものと断じ、娘に、第2子をもうけることすらも断念して将来を託した。彼女は期待されて鍛えられ、難関といわれた高校へと進む。
 しかし挫折する。勉強に全てを費やしたことによる精神的疲弊……今に言う“燃え尽き症候群”で学力競争から遅延、それでもどうにか教員免許を獲得、都内の小中学校を点々とし、8年前より現職。
 と、そこで理絵子は気付く。強い不幸を持つ人に良くある記憶の空白。それは心の傷であるがゆえに、思い出したくないと自ら封じ込め、“無かったことにしよう”とする心理が働いた痕跡。
「頼りない担任だよね。自分でも判ってるの」
 まるで理絵子がその部分を知ろうとしたのを察知し、遮るかのように、担任は言った。
 そして続けて。
「そのせいで、あなたが『依怙贔屓されてる』と思われてるのも判ってるの。ごめんね、全部私のせい……」

つづく

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