« 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -011- | トップページ | 【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -08- »

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -012-

←前へ次へ→

 よくあるパターン、理絵子はその話を耳にした時はそう思った。立ち入り禁止の“理由付け”が創作を生んで伝説化、はあり得ると思ったのだ。
 だが、そうではないらしいとすぐ訂正した。超感覚が囁いたのである。内容は変わっているが出発点は事実であるらしいと。
 そして同時に、だからって首を突っ込むべきではないとも知る。この辺一連の心理情動は、良心による自制、に感覚的には近いと書けようか。自分がその筋の能力を持つが故に、好奇心を起こしてはならないと悟ったのだ。ただこの時点では、自制した理由が“既に済んだ話”であり、人の死を弄ぶようなことは慎むべき、であるからか、
 まだ触れるべきではないからなのか、判らなかったが。
 今言えることは、その答えはどうやら後者であり、その自制の封が今、この教員によって切られようとしている、ということだ。ちなみに、4階への表向きの立ち入り禁止の理由だが、遊びに適する広いスペースに、イタズラされると困る高額或いは危険な備品を揃えた部屋が並んでいるから、である。音楽室のグランドピアノ。理科室のガスバーナー。確かに目が届きにくい場所だし、個々に見張るよりは4階自体に行くなとした方が管理はしやすい。それはそれで理屈として成り立つ。ただ、教頭がシャカリキになって監視しているので、4階へたどり着くことをゲームに仕立てようとした向きも過去にはあったようである。現在ではwebカメラで監視しており、カメラが何か動きを拾うと、教頭の携帯にメールが飛ぶらしい。
「私、生徒を死なせたことがあるの」
 担任はまず、そう言った。
 しかし、続く言葉がなかなか出てこない。
 重すぎる、あまりにも重すぎる内容の告白である。急くものでもないし、かといってこちらから拒否するべきものでもない。
 ただ、それを話す担任の心理は、自分を責めての挙げ句であり、決して良い状態ではない。要するに思い詰めすぎなのである。
 少し変えたい。理絵子は室内を見回し、キッチンの棚にコーヒーメーカと豆があるのを発見し、立った。

(つづく)

|

« 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -011- | トップページ | 【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -08- »

小説」カテゴリの記事

理絵子のスケッチ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -011- | トップページ | 【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -08- »