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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -016-

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 とりあえずもう少し安心させて、今日は辞することに決める。無論最短ルートは直接担任から詳細を聞き出すことだが、今の担任の心身はそれに耐えられる状態では恐らくない。もし実行すれば担任の心理に回復不能なダメージを与える可能性が高い。
 もちろん、当事者である以上、いつかはまっすぐに問わねばならないのだと思う。それは予感というより確信。でもその前に、まっすぐに問えるだけの情報と、問うことに耐えられる“強い心の回復”が必要である。
「先生がそうおっしゃるなら私としてもうれしい限りです。あの手の写真は心霊写真といいますが、実際には撮影者の心理状態や、それによる無意識な行動が、カメラにブレを与えたり、レンズの特定部位を指で隠してしまったりといった形で現れることもあるようです。先生は私がその、あゆみ、さんと似ているとおっしゃった。辛い記憶を隠そうとする心理が、ファインダーの中の私を無意識に指で覆ってしまったのかも知れない」
 この言い方に担任は目を少し見開いた。
「……なるほど」
「まずはお気になさらず。そのお気持ちのまま今日はおやすみ下さい。写真はこのまま、私が持って行きます。それですっきり寝られたなら、そういう程度のものだった、ということです」
 理絵子は言い、カバンを手にして立ち上がった。
 担任が感心したような目で見上げる。
「……あなたは私より遙かに人の心が判っているのかも知れないわね」
「とんでもない。恋愛経験ナイの一言で説得力まるでナシです」
 理絵子は笑って、締めた。

 理絵子の中学は携帯電話持ち込み禁止である。
 従って、予定通りの行動を子供が取っていない場合、親から連絡の取りようがない。これが昭和だ20世紀だという時代であれば、サボってどこかで遊びほうけて…という方向に親の推定が向くが、子供に対する犯罪が増えた21世紀以降、親としては腹を立てるより心配が先に立つ。

(つづく)

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