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2024年9月

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -022-

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 その筋の活動が最も活発になる時間帯であり、眠りに落ちた人々が夢を見ている時間帯だからである。夢とは意識のみが活動している状態であり、それはいわゆる霊体のみが活動している様相と相似形といって良い。要するに夢の中には真意や深層心理が顔を出すのである。関連してか、彼女の能力……超常感覚的知覚もこの時間帯に最も感度が高くなり、まるで高性能のラジオのように夥しい数の“夢の放送局”をキャッチすることが可能となる。一般に今回の写真のように、その筋の物体現物を手に出来た場合は、事象の中枢が近所にある場合が多く、然るに関連する“放送”があれば、容易に深夜2時に拾うことが出来る。
 はずなのであるが。
 感度無し。
 理絵子は学習机の椅子をくるりと回転させて背後に身を向け、“見えない連中”に意識を向ける。但しこの連中は担任宅の“虫”とは違い、超常感覚で捉えてみても形をなさない。感覚的には雰囲気や気配に近い。多くは“放送”によって解き放たれた強い気持ちの断片であって、言ってみれば単一の感情のみで形成された人格のような物だ。“情念”という語に概念的には近いか。ちなみに怨念だけでできあがった人格が怨霊である。首無しが理絵子に対するある種の予告や布告であれば、ラジオがキャッチする相手は間違いなく怨念であろうし、どころか、今背後にすーっと立って視覚化……幽霊さんでもおかしくないのであるが。
 集まっている“連中”は15人格。彷徨い続ける古い感情や後悔の念などであり、写真とつながる存在どころか、同情を覚える悲しい存在だ。後で話を聞いてあげたいと思う。連中もそれ……愚痴聞いてもらいたい……が目的でここに来ている。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -021-

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 ため息をつくなという方が無理であろう。よく観察されてるなというのが理絵子の印象。“美少女”としか書いてこない男子の手紙と違って繊細で心を打つ。変な話だが、“女の子同士”の世界が判らぬでない気もしなくもない変な感じになってくる。お互いに観察し合って相互理解に至っているのではないかと思うのだ。判ってもらえる心地よさ、う~んなるほどなぁである。ただ単に好意を伝えられるだけ、とはグレードが違うと認めざるを得ない。なおちなみに理絵子はマンガであれノベルズであれ、それをテーマに置いた作品は持たない。
「はぁ」
 短くため息付いて手紙を封筒に戻す。内容からして返事を書いて心理的にフォローした方がいいように思うが、差出人が名乗らない以上書きようがない。調べれば判るのだろうが、それは超自然にして不自然という奴だ。
 階下から階段の壁をノックする音。
「理絵子。出たよ」
 母親である。曰く次はあなたが入浴しなさい。
「はーい」
 理絵子は残りの紅茶をあおって席を立った。

 深夜2時に心霊写真を眺めている少女が一名。
 照明は机上のスタンドだけで、室内灯は用いない。暗闇に顔だけ白く浮かび上がらせ、首無し写真を見つめる様は、恐怖マンガの冒頭シーンさながらである。
 しかも実際、背後に“見えない連中”が集まっていることを理絵子は感じている。能力上この種の写真に対して、恐怖に直結しない彼女であるが、そういう写真であるという意識を持ったことで、連中が集まっているのである。
 彼女はこの種の物体を調べる際には、この時間帯を多く用いる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -12-

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3

 翌日。
 姫子が登校し、教室に入ると、級友達が一斉に恐怖心を備えた目で見つめてきた。粗暴で無敵な不良少女でも見るかのようだ。
 男子の一人が手招き。
「ミキミキをボコり倒したって?」
「はぁ?」
 ミキミキは美姫ちゃんのことであろう。ボコる。暴力を振るう。誰が、自分がか。
「あたしが?」
「そう」
 彼女は自分を指さしてみた。級友達は頷いた。
 何がどうしてそうなった。すると。
「おい、相原って来てるか」
 廊下方より聞き慣れぬ男子生徒の声。かなり高圧的で怒気を孕む。
 級友達の目が一斉にそちらを向いた。
 美姫のクラスの学級委員。男女揃って。
「はい、何か」
 彼女姫子はまずは顔を向けて尋常に応じ、次いでゆっくり身体をそちらに向けた。想定外の何かが進展しているに相違なかった。
 するとツカツカと入ってきたのは女子の方。
「あんた女の子の顔殴りつけるなんて酷くない?」
「はあ?」
「とぼけんじゃねえよ!」
 大声は男子の方。
「ボッコボコじゃねえかよ!」
 何が起こった。逆に私に見せてくれという所だが、
「私が?神領さんを殴ったと?」
「そうだ」
「ボコボコに?」
「そうだ!」
「殴ってなんかないけど?家で親に会わせてお茶飲んで、CD貸してから、ボコりつける?」
「ウソつけ!神領呼び出して引きずって行ったって聞いたぞ!」
 男子委員の声がヒートアップして来る。何某かウソを吹き込まれて義憤に駆られてであろうから、こちらの言い分は凡そ聞き入れられまい。が、首肯するわけにも行かぬ。
「呼び出し?確かに彼女とは話がしたいと言いました。ただし彼女にしか判らない方法で伝えました。ってか、一緒に走って行ったことが何で伝わってるんですかねぇ。つけ回して覗いてたってことじゃん。それこそ女の子を。そんな犯罪まがいのご注進を信用するわけ?」
 彼女は手を腰に反駁した、その時。
「待って……」
 弱々しい美姫の声がし、衆目がサッと集まる。
 廊下のドア脇から顔を出した包帯と絆創膏。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -020-

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 続いて手紙の処理。はがきは洋服屋のDM。クーポンが付いているので、クローゼットにマスキングテープで貼っておく。
封書。グリーンの封筒に可愛らしい文字。
 男の子……ではない!?
『りえぼーってねぇ、女子の間でも人気があるんだよ』
 同じクラスの友人に言われた言葉。
 手紙からは香水めいた匂いがしている。コロンを振ったか、そういうレターセットか。
 封を切る。
 取り出す便せん。
 開く。
『ごめんなさい』
 1行目はただそれだけ書いてあった。
 空き行を作って、小さい字で本文が始まる。
 予測通り、差出人は“とある女子”としてある。
 ひょえ~。率直な感想を言葉にすればそうなるか。
 曰く自分は“花”だそうである。但し、ヤマユリのような大きな花でなく、草むらで埋もれてしまいそうに小さいのに、ハッと引きつけられる可憐な花だと。
 不自然でいけないことだと思っても忘れられない。気が付けば理絵子の笑顔を、後ろ姿を追い求めている自分がいる。理絵子には差出人にない物が全て備わっていて、学級委員としてみんなに気を配り、みんなが知らないところで地道な努力をしている。嫌なことも断らないし、むしろみんなが拒否していることを察してそれとなく引き受ける。そんな女の子他にはいない。そうした姿がなおいっそう理絵子を輝かせる……。
 褒めちぎりも度が過ぎて虫唾が走るというのが正直だが、真剣な気持ちならキチンと返事・回答をすべきであろう。理絵子はそのまま読み続ける。
 こんな気持ち、理絵子に伝えるべきですらないことは判っている。伝えても届かない気持ちであることは判っている。迷惑そうにしている理絵子の姿が目に浮かぶ。でもこのまま押さえ込んでいるとどうにかなってしまいそう。だから申し訳ないけれど気持ちを伝えることにした。返事もいらない捨ててもいい。ただ理絵子は素敵な女の子であると伝えたい。
 誰かが理絵子を悪く言うなら、それはあこがれの裏返し。どうか今のままの理絵子でいて。
 以上本文要約。返事はいらないのでと、差出人の記載は無し。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -019-

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「ふぅ」
 ため息のひとつも出ようという物である。自己完結を見たところでティーバッグを引き上げてケーキ皿の脇に移動、勉強机に座る。机の上には葉書と封書。母親が置いていった物だ。友人の多くが自室に親が入るのを嫌うが、理絵子としては別に秘密も隠す物も無し、気にしたことはない。むしろ親は味方にしておいた方が後々絶対に良いと思う。
 親なしで生きていける状態ではないからだ。
 その結論に囁く声がある。……その辺が、合理的な考え方が“男の子っぽい”んじゃないの?
「……しょぼーん」
 脱力してひとりごちたところで後回し。ケーキを口にし、机の傍らの携帯電話を取る。理絵子も持っていないわけではない。学校へ持って行かないだけ。画面に触ってスタンバイから復帰、パスワードで通知がワラワラ。
 SNSのメッセージ6通、5通は部活である文芸部の仲間から。文化祭上がってのねぎらいである。1通は級友である桜井優子(さくらいゆうこ)。彼女は級友だが年齢はひとつ上。“2度目の2年生”である。行動や交友関係に対しPTAが眉をひそめる存在であり、ゆえに疎外されがちだが、理絵子は逆に彼女と親しくしている。そんな理絵子に桜井優子は最初とまどっていたが、今では心を開いてくれた。メールは合唱サボってごめんの由。まぁ、徹底的に学校のやることなすことに反する彼女である。いかにも学校的内容の合唱では……というところであろう。ちなみに、彼女はサボった挙げ句“友人”達が所属する珍走団“たこぶえ”の連中と共に、三浦半島の先端へ走りに行ったという。マグロのカマ料理の画像付き。
 返信する。内容は別に濃い物ではない。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -11-

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「辛い言い方をしたかも知れない。でも、占いに頼るほど追い込まれた心の有様(ありよう)とあるべき姿をあなたは知っている」
 レムリアはアンスールを美姫の手のひらに載せ、握らせ、そしてもう一度開かせた。
 紐が通ってペンダントの出来上がり。それも手品。美姫はしかし、驚くと言うより“当たり前の結果”を受け入れている表情。
「あたしひとりで占い希望者背負い込んだら忙しくてトイレにも行けない。あなたには占いを引退しないで欲しい。私じゃ嫌だという人も必ずいるし。彷徨う心の受け皿は幾らあってもいい。大アルカナの回答に良い言い回しが思いつかなかったら、小アルカナを引きなさい。そこに答えが啓示される。それはお守りがわりに首にかけて。西方に過去あった魔法国家アルフェラッツの術式Coegi magicae Lunae(こえじ・まじけ・るなえ)に従い」
 レムリアは人差し指を立ててくるくると宙に円を描き、そのままパチンと鳴らした。
 美姫はペンダントを首に通した。
 そこでレムリアは革製のカードケースを手のひらに出して差し出した。
「一式入っています。お持ちなさい。差し上げます。傷だらけのカードでは、めくる前に判ってしまう」
「え?」
 美姫はボタン留めされた蓋を開いた。絵柄は19世紀から20世紀にかけて活躍したデザイナーの手になるもので、ネット辞書で類型の絵柄として取り上げられているほか、現在流通している絵柄の中でも最も一般的なもの。だが。
「羊皮紙……これって」
「ヨーロッパ王侯向けの特注品。ふさわしくない者の元から自ら離れ、ふさわしい者の手元にたどり着くと言います。私があげられる手元のタロットは今はこれだけ。なら、あなたに持てと言うことでしょう」
「でも……」
「値段?希少性?そんなこと気にする人にこれを持つ価値はないと思います。逆に道具とするなら可能な限りよい物を。私の父の教えです。少し裁いてみて」
「え?……あ、うん」
 美姫は78枚を取り出し、シャッフルし、積み上げ、崩して時計回りに混ぜる。
「凄い滑らか……」
 横一列にずらっと並べ、1枚抜き取る。
 羅針盤のような文様“運命の輪”。
「チャンスにせよ」
「私の占いは以上です」

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(wiki)

(つづく)

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