【理絵子の夜話】空き教室の理由 -020-
続いて手紙の処理。はがきは洋服屋のDM。クーポンが付いているので、クローゼットにマスキングテープで貼っておく。
封書。グリーンの封筒に可愛らしい文字。
男の子……ではない!?
『りえぼーってねぇ、女子の間でも人気があるんだよ』
同じクラスの友人に言われた言葉。
手紙からは香水めいた匂いがしている。コロンを振ったか、そういうレターセットか。
封を切る。
取り出す便せん。
開く。
『ごめんなさい』
1行目はただそれだけ書いてあった。
空き行を作って、小さい字で本文が始まる。
予測通り、差出人は“とある女子”としてある。
ひょえ~。率直な感想を言葉にすればそうなるか。
曰く自分は“花”だそうである。但し、ヤマユリのような大きな花でなく、草むらで埋もれてしまいそうに小さいのに、ハッと引きつけられる可憐な花だと。
不自然でいけないことだと思っても忘れられない。気が付けば理絵子の笑顔を、後ろ姿を追い求めている自分がいる。理絵子には差出人にない物が全て備わっていて、学級委員としてみんなに気を配り、みんなが知らないところで地道な努力をしている。嫌なことも断らないし、むしろみんなが拒否していることを察してそれとなく引き受ける。そんな女の子他にはいない。そうした姿がなおいっそう理絵子を輝かせる……。
褒めちぎりも度が過ぎて虫唾が走るというのが正直だが、真剣な気持ちならキチンと返事・回答をすべきであろう。理絵子はそのまま読み続ける。
こんな気持ち、理絵子に伝えるべきですらないことは判っている。伝えても届かない気持ちであることは判っている。迷惑そうにしている理絵子の姿が目に浮かぶ。でもこのまま押さえ込んでいるとどうにかなってしまいそう。だから申し訳ないけれど気持ちを伝えることにした。返事もいらない捨ててもいい。ただ理絵子は素敵な女の子であると伝えたい。
誰かが理絵子を悪く言うなら、それはあこがれの裏返し。どうか今のままの理絵子でいて。
以上本文要約。返事はいらないのでと、差出人の記載は無し。
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