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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -024-

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 経験の及ばない現象。
 だから最初“怪談”を知った時、触れるなという意識が働いたのか、と理絵子は理解する。中学に入り、多感にして不安定な思春期を過ごすことにより、いろんな心の動きを知ることが貴重で大いなる経験になったと認識している。
 友と共に歩み、衝突し、同意と嫌悪と、本音と建て前。
 過去この事件を導いた事象の内容上、理解するには自分自身、それ相応の経験を求められたのだ。
 そして今のタイミングで触れることになった。
 すなわち。
 これは叩き付けられた挑戦状なのだと洞察が訪れる。経験の全てを持ってしてこの事件を解決して見せよ。
 その認識に高らかな笑い声が応じる。いや、そういう概念が意識に浮かぶ。自分でも、訪れていた15の人格でもない。高飛車で人を小馬鹿にした嘲笑であり、例えるなら寝ている虎が小猿を尻尾で弄ぶ、そんなイメージ。
 イメージの大元は目の概念を送ってよこした抽象存在。
 同じ“波長”を有する存在を理絵子は記憶の裡に見知る。ぞろりと剥き出された歯列。暗渠の覗く双つの空洞。
 髑髏の映像イメージを伴う存在。
 死神。
 異様にまで白い骨の顎(あぎと)が開いて笑ってみせる。
 その、骸骨の形作る表情に浮かぶ不敵さ。
 お前には負けない。お前には……
 全てを引き裂いて携帯電話が着信音を鳴らしたのはその時である。
“死神髑髏”の映像イメージが雲散霧消し、窓ガラスの自分が映る。
 理絵子はハッと気付いた。
 自分は今、死神の画像に注意を奪われ、引きずり込まれそうになっていた。
 一種の催眠術である。携帯電話よアリガトウだ。しかし今頃誰か。
 着信音が途絶えた。
 メールである。開くと桜井優子。
“たこぶえ”の連中と近くの峠道を走っていたようだ。

(つづく)

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