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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -026-

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 そちこちから声が掛かる。サングラスや特攻服など、威圧感第一と評すべき服装外見の男達から出てくる声は、滑稽なほどポップで穏和である。猫なで声を更に越え、ホットケーキ上のバターの様相。
「おう」
 一人そっけなく片手を挙げて応じたのは青いワンピース……否否デニム地のつなぎ服を着たその桜井優子。比較的大柄なせいもあり、男達の中にあっても違和感はあまりない。傍らでひげのマスターが串焼きをほおばっている。
「お前の」
 取り置いてくれたのであろう、桜井優子が紙皿を出してくれる。たっぷり2人前はある山盛りの肉と野菜。
「え、こんなには……」
「だめだよ学級委員さんは食べなくちゃ」
「そうだよ脳みそ一杯使うんだから」
「脳まで筋肉の奴に言われたくねーってよ」
 少しの嫌みと、明らかな好意と、多少の憧れもあろうか。
 理絵子は苦笑するだけ。マンガならさしずめこめかみ辺りに汗の粒でも描かれるところだ。いつも思うことだが、連中との会話はギクシャクしがちでどうにもコミュニケーションの形成に困る。悪意は感じないし、嫌いではないのだが。
「はいはいそれではいただきますです」
 食べていた方が楽。油がギラギラしてるし、所々おコゲの黒い粒が見えるし、味付けは濃いが、柔らかくて食べやすい。
「そうでなくちゃ。イッキイッキ……」
「ビールじゃねーよ」
「え?でも“安斉亭(あんざいてい)”のジャンボチャーシュー麺をおかわりしたって優子が」
「それは私自身だ」
 桜井優子は言った。言って、肉に噛みついて力任せに串を引き抜く。
「なんだ。じゃぁいいや」
「フライドチキン80本の男に言われたくないね」
「低レベルだ。チョコボール1万個食ってこそオトコだ」

(つづく)

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