【理絵子の夜話】空き教室の理由 -030-
ガンマと呼ばれたそのバイクは、レース用として名を馳せたマシンの一般市販品であり、マスターは所有するそれで幾らかの名声を勝ち取り、もってして“たこぶえ”メンバーがマスターを慕いここに集うこととなった。それは、理絵子にとって興味のない、与り知らぬことであるが、この集まりが形成された経緯の説明として付記しておく。
「じゃ、勝手に」
マスターはヘルメットをかぶり、庭から公道へ続く鉄扉を開いた。
キーを回し、ペダルキックでエンジンをスタートし、乗るように理絵子を促す。おっかなびっくり理絵子はまたがる。
ジーンズで来て正解。ヘルメットの首紐はしっかり掛ける。
「悪いけど抱きついてくれるかなぁ」
「あ、はい……」
バイクの加減速がクルマの比ではなく、そうしていないと振り落とされることくらいは、理絵子も知っている。
しっかりしがみつく。そんなコアラのイラストの描かれたスナック菓子を思い出してクスッと笑う。
「ん?大丈夫?」
「はい。いいです」
理絵子がマスターに抱きついて笑う様は、たこぶえの一部メンバーに垂涎と憧憬をもたらしたようである。
「いいなぁ……」
スロットルを緩やかに開き、まなざしの幾つかをそこに残して、バイクが発進する。
7
担任アパート前の川の、支流の支流に当たるであろうか、“二級河川”に掛かった短い橋を、バイクはそれこそ一またぎ。
左に折れ、堤防の下へと坂を下りる。
マスターはそこでバイクを止め、エンジンを切った。
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