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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -033-

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「俺にも捜査かい?参ったな、親子して……」
「え?いえ、そんな捜査だなんて……」
 理絵子は慌てた。
「うそうそ、冗談」
 マスターが頭をポリポリ掻きながらコーラをあおる。優等生と言って良いであろう理絵子と、珍走団も一目置くマスターとの接点はここにある。
 理絵子が物心付く頃、よく父親が家に連れてきていた青年がこのマスターだ。過去は知らぬ。ただ、次第に表情が穏和になり、やがて自分と遊んでくれるようになったことは憶えている。
 追って店を開き、以降理絵子は“無料”だ。そのかわり、新料理とコーヒー新豆のモニターを頼まれている。だから理絵子はPTAに何言われようと店に来る。
「そうな。りえちゃんみたいに可愛かった……」
 マスターは言い、当時田んぼと山並みから転じて住宅と電柱だらけになった一帯に目を向けると。
「と、聞いてるぜ。伝説の美少女だな」
 マスターは残りのコーラを全部飲んだ。
 そのまま、住宅がなければ山が見える方向へ目を向ける。理絵子が見たイメージの子供達を、遠くの時間を見つめるように。
 少しの時間。
「担任って優子と同じだったよな。朝倉だっけ」
 マスターは、訊いた。
「はい」
「……直接聞いた?」
 それはマスターが、教員朝倉の過去と怪談の接点を知っていることを意味する。
「ええ、それでちょっと気になって」
「そうか」
 マスターは缶を握り潰した。
 その仕草と、会話の“間”と、遠くを見つめる動作。
 何か躊躇しているのだと理絵子は気付いた。
 言いたいことがある。だけど口にするのは憚られる。

(つづく)

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