【理絵子の夜話】空き教室の理由 -032-
木にイタズラ?
否、子供達が登ったり降りたり。靴の土が付いた。
容易に映像が浮かぶ。野球帽に汚れたTシャツ。ズックを履いて木の上は秘密基地。
それはずっと前、理絵子が生まれた平成の世からはずっと以前の話。
少し歩いてみる。田んぼと、その向こう、関東山地の山並みと。
夕刻になれば一帯は水面が照り返す夕日で金色に染まり、風に吹かれた青苗がキラキラ光る。
子供達は完全に陽が落ちるまで、真っ黒になって遊んだ。
ここは子供達の楽園だった。
“死”に直結するイメージは、ここには残存していない。
昼だから?マスターの思い出のイメージを引き金に過去を見ているから?多くの子どもの楽しい記憶の方が多くて上書きされた?
じゃぁ夜になったら?…理絵子は太陽を見る。重なって見えてくる男の子と女の子のシルエット。向かい合い、互いに手を握る。
誓う。そんなイメージ。幼いがしかし純粋な恋の記憶。
死の辛さとは正反対。
「しかしりえちゃんどうしてそんなに一生懸命なの?」
イメージに埋没していた理絵子に、マスターの声は、就寝中にサイレンを鳴らされたくらいの衝撃を与えた。
思わずびくりと身体が震える。
「脅かしちゃったかい。ごめん。はいどーぞ」
マスターが差し出す缶コーラ。
「あ、どーも」
「何か“捜査”って感じだぜ。お父さんの影響かい?」
その問いに理絵子は答えを迷った。確かに普通なら都市伝説で済ませるところ、自分の入れ込み様は不自然に見えるだろう。でも理由を言っていいものかどうか。
「その女の子って、可愛らしくて、人気があったそうですね」
とりあえず、理絵子は言った。
川沿いでコーラの蓋を開ける噴射音が二つ。
マスターが苦笑する。
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