【理絵子の夜話】空き教室の理由 -042-
……自分に、その亡くなった少女“あゆみ”の面影を見ていると理絵子は知った。
まずい。
その表情今まさに恐怖の絶叫へ変形せんとする朝倉を、理絵子は抱きしめに行った。
間断なく震える身体。冷汗に濡れた肌。
「先生大丈夫。黒野です。何も怖くない。怖くありませんから。誰も先生に手を出そうとなんかしていない……」
理絵子は力の限り抱きしめ、囁いた。
激しい恐怖。これ以上あろうかと思われるほどの深淵にして深刻な恐怖。
恐怖に重なり、フラッシュバックでもたらされる少女の姿。
朝倉の恐怖の根源は、その少女“あゆみ”が仕返しに来るのでは……という、一瞬たりとも途切れることのない強迫観念にあったのだ。慚愧の思いが“亡霊”を生み、よく似ているらしい自分によって連想想起され、責めて(誤字ではない)来るのだ。
名実ともに“発作”である。
かわいそうな先生。理絵子はぐらりと、身体まで動いたかと思うほど心揺さぶられ、こみ上げるような同情と愛おしさをこの女性に感じた。誰にも何も言えずに、恐らく十年を超える時間であろう、一人でずっとそんな恐怖と戦ってきたなんて……。
解きほぐさねばならない。そう思った途端、腕の中の力が抜ける。
受け止められたこと、によって、恐怖に立ち向かう“最後の手段”としての怒りを消滅させたのであろう。スイッチが切れたように失神している。
「救急車呼ぶ?」
横須賀が携帯電話片手に訊いた。
「だめです。先生は恐らく自分がこういう状態になったことを自覚してません。却って病院で目を覚ました時の反応が恐ろしい」
理絵子は言った。この惨状は恐らく担任の潜在意識のなしたこと。つまり、顕在意識が押し殺している内容の権化。
従って、病院で目を覚まし、その理由を知ることは、意識したくないモノを意識させることになる。
そんなことしたら、何が起こるか。
このビリビリネグリジェの意味するところは。
「わかった。あなたの言う通りだ」
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