【理絵子の夜話】空き教室の理由 -040-
「次を右折すると、ナチュラルに左に曲がっています。そのまま道なりに走ってミラーのあるY字を右へ」
理絵子は言った。もう面倒くさいので超感覚にモノを言わせた。
「黒野さん、あなた、お宅におじゃましたことが……」
「ありますよ」
理絵子は答えた。隠すようなことではない。
タクシーを降り、無人の様相を示すアパートの階段を上がる。
ここで理絵子として注意すべきは、超自然的な何かが、担任の部屋で生じていないか。
が、そんな様子はない。超常感覚は何の異変も感知していない。あの世の虫達……陰鬱な心理に寄りつく有象無象の気配もない。
横須賀がドアをノックする。
「横須賀です。朝倉さん、大丈夫ですか?」
返事はない。ないが、アーとかウーとかいう低いうなり声が中から聞こえる。
……それは野犬が中で威嚇していると考えれば、イメージ的には近い。しかし、状況としてはあり得ない。
横須賀がドアノブに手をかけ、回す。
「カギが……」
施錠されている。ガチャガチャ回すが、当然開くわけもなく。
「朝倉さん。開けて頂けますか?」
無反応。
「どうしよう。警察を呼んだ方が……」
理絵子は答えず、横須賀に代わってドアノブを握った。
ここで恐らくは念動力が理絵子にあれば、話は早いのかも知れぬ。しかし修験者の見立てでは理絵子に念動力はないそうである。理由は“おなごだから”であるらしい。ただ、スプーン曲げくらいは、訓練すればできるのではないかと思う。
確信が訪れた。
根拠もなく、論理の因果律をも無視しているが、結論はいきなりそこにある。この突然性が超感覚の超感覚たるゆえん。
このドアは開く。
理絵子はノブをひねる。がちゃりと音がし、ノブを引くと、ドアは開いた
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