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2025年2月 8日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -041-

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「黒野さ……」
 施錠されていたドアが開く。一般的には超常現象と認識される。
 横須賀は何か言いたくなったのであろう。しかし、それを口にする前に、深刻な事態が二人を迎える。
 内部が真っ暗であり、詳細な描写を躊躇う臭気が充満している。
 横須賀が臭気に対して当たり前の生理的反応を訴え、後ろを向いた。
 その時。
 野獣の雄叫びのような声が聞こえ、暗闇の中から金属光沢が矢のように突き出されて来た。
 それはぼろ布のようなモノを身体に纏い付けた、担任朝倉とおぼしき人物。よく見れば、布のようなモノは、ビリビリに引き裂けたオレンジの水玉模様のネグリジェ。
 血管が子細に見えるほど赤く腫れた目を見開き、それこそ野獣のように大口を開いて、包丁もろとも突進してくる。
 まるで鬼。
 それは朝倉が錯乱し、体当たりの要領で刺し殺しに来たと書けば、端的な表現になるか。
 今度こそ念動が欲しい、と理絵子は一瞬思った。しかし、まだ十分に時間はあるとも思った。ちなみに、このように一般にパニックになりそうな状況でも彼女が冷静なのは、そういう“予感”がしないから。
 黒い革の学生カバンで左から右へ薙ぎ払う。
 包丁が弾かれ、宙を一閃して、玄関脇の壁面へ突き刺さる。
 鋭い金属音が響き、虚を突かれた表情で“鬼”朝倉が立ち止まる。ちなみに字面で一連の動きを書くとこのようになるのだが、横須賀には“目にもとまらぬ早業で”理絵子が何かした結果、包丁が壁に刺さった、としか見えていない。
 騒ぎ立ててはいけない。同じくいきなりもたらされた結論で理絵子がまず思ったこと。
 室内を見て取る。想像を絶する状況を呈している。散乱している……排泄物と吐瀉物。
 横須賀を振り返り、声を立てるなと唇に指。
 顔を戻して。
「先生。大丈夫ですか?私です。黒野です」
 理絵子はまずは尋常に声をかけた。
 朝倉は理絵子を見返した。鬼の様相のその目が泳ぐ。瞳が動揺する。

(つづく)

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