【理絵子の夜話】空き教室の理由 -048-
横須賀の顔色が変わり始める。“空き教室の理由”がそれであると知ったのである。
ただ、理絵子としては今ひとつ納得が行かない。端的に言って朝倉が見ている二宮あゆみの“亡霊”は、朝倉自身が保有する恐怖の象徴表現であり、意識中の擬似人格であって、実際の幽霊ではない。無論、実際には二宮あゆみ本人で、朝倉の……自分で言うのもなんだが“お気に入り”の生徒を死に至らしめ、もって朝倉を苦しめることによって復讐をしているのだ、という理屈は成り立つ。
成り立つがしかし。自分が彼女を感じないのはなぜか。
感知されるのを避けて出てこないのか。それは“午前2時の訪問者”たちが好んで自分の周囲に出てくることと矛盾する。気付いて欲しいから“見える”人のところに現れる。のが普通である。実際、朝倉にも有象無象が憑いていた。
横須賀が恐る恐る訊く。
「朝倉先生はお一人で抱えてらしたんですか?誰かに相談などされたことは……。そういえば教頭先生ってこの件すごく厳しくていらっしゃいますけど、教頭先生には何か?」
朝倉は肩をびくっと震わせた。
理絵子は急いで朝倉の手を握る。
「当時、教頭先生は学年主任でいらした」
朝倉はぼそっと呟いた。
「……だから、よ」
この言い回しが不自然と感じた向きは多かろう。理絵子も最前見た“一人芝居の空白”と同じ“無意識による隠蔽”を感じた。心理学に言う抑圧だ。
そこで朝倉は理絵子にゆっくりと顔を向けた。
「そういえば黒野さんのお父様……この事件、担当してらしたわね……」
その言に理絵子は頷き、
「ええ、ですから、父に訊けば、先生がご存じない部分も判るかも知れません」
少し挑戦的なカマ掛け。
(つづく)
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