【理絵子の夜話】空き教室の理由 -045-
その時、あろうことか、彼はあゆみちゃんを伴っていた。ターゲットとその手段は当然。その結果……。
「彼は私を守ろうとして刺してしまった。彼が悪いんじゃない。のこのこついて行った私が悪い」
担任は髪を振り乱し、責任を自己に帰そうとするあゆみちゃんを表現した。
その後担任はあゆみちゃん、岩村少年、岩村少年の家族を交えて、善後策を協議しようとしたようである。
だがそこで担任の記憶の演劇は進まなくなる。麻酔でも打たれたように、台詞が紡がれなくなり。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私が……すべては私が……」
一瞬の空白の後、担任はそう言ってぼろぼろ泣いていた。しゃがみ込んだ目の前には……あえて書こう、校舎前アスファルトの上、どぎついほど鮮烈に赤い、そして花びらのように広がる、血の海に横たわる少女。
後頭部より落下したらしく、耳朶がアスファルトに接触している。すなわち、耳朶より後方の頭部は挫滅した状態。当然、血の海の中には脳と思われる灰白色の組織塊が幾つか確認できる。瞳は見開かれたままで、その拡大状態の瞳孔の奥は闇が支配している。水晶体に映る担任の姿を、感情無く見つめ返しているかのようだ。血液が失われて真っ白になった顔と相まって、変な表現だが、リアルすぎる人形のように生々しい。
「あの時……私が……しなければ……しさえしなければこんなことには……ごめんなさい。ごめんなさい……」
担任は泣き、叫び、苦悶の表情で自分の手指の爪を立て、自らの顔を掴もうとした。
放っておけば再度“発作”に進行し、自傷行為になり、ネグリジェならぬ自分の身体を引き裂くことになろう。真相は“一瞬の空白”にあるのだろうが限界である。理絵子は担任の額に手を当てた。
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