【理絵子の夜話】空き教室の理由 -044-
こういうのは、自分で納得して口にしないと、副作用の方が大きい。
「先生、先生の抱えてらっしゃること、お話しいただけませんか?」
理絵子は寝ている担任に話しかけた。
その髪を、頬を、優しく、撫でながら。
「誰にも言いません。私たちだけの秘密です。学校も知りません。彼女と、最初に出会ったのは、いつだったんですか?」
理絵子の問いに応じるように、担任の口から吐息が漏れる。
理絵子は、担任の手を、そっと握る。
「……先生、岩村君のことなんだけど」
担任は少女のトーンで、まるで劇の脚本を読んでいる様な口調で言った。
理絵子が眠っている担任の意識に接触し、働きかけたのである。一種の催眠術と言って良い。
以下担任朝倉の一人舞台の様相を呈したのでまとめる。まず“たこぶえ”の連中は、全ての事の始まりとなる男の子の転入を小学5年と言っていたが、朝倉が二人を知るのは彼らの中学入学当初から。あゆみ達の担任となり、彼のことで相談を受けるようになっていった。男の子の名は岩村正樹(いわむらまさき)。みんなと遊ぶというよりは、ひとりで本を読んでいるのが好きなタイプであったらしい。しかしそれが、よそから来たくせにいい子ぶりっこ、という反感を周囲に抱かせた。
よそ者いじめである。これに彼女……あゆみちゃんが攻撃の矢面に立つ。ここまでは良かった。
男の子に不幸が訪れる。両親が借金苦で自殺したのである。そもそもこの地へ引っ越して事自体、夜逃げ同然であったらしい。今に言う多重債務だ。当時サラ金地獄などと言ったが、理絵子はそんな語は知らぬ。
なぜオレばっかり……自暴自棄になった彼は暴走を始める。虐げられた人間は、他を虐げたり、頂点に立つことによって、心の傷を補おうとするが、実際彼は、周囲が自分を避ける様を、離れ始めるのを、心地よいとすら思っていたようである。ただ、彼女だけは、それはいけないと言い続けた。彼も、彼女だけは裏切ろうとしなかった。
そして、事件は起こった。
台頭する彼の組織に対抗する他校の組織が、待ち伏せ攻撃を仕掛けたのである。
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