« 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -06- | トップページ | 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -047- »

2025年3月15日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -046-

←前へ次へ→

「先生大丈夫、私です。黒野です」
「くろのさん……」
 理絵子に目を向ける。まるで親に出会えた迷子の幼女である。担任は見る間に穏和な表情になり、人形の空気が抜ける様に弛緩し、再び眠りに落ちていった。
 横須賀が大きなビニールを抱えて戻ってきた。
「教頭先生には問題ないと電話しておいた。まだやすんでらっしゃる?」
「ええ」
 理絵子は着替えとして差し出されたジャージの上下に手早く着替えた。赤紫色で白線三本、特価980円。値段相応にダサいしダブダブだが、選り好みはできない。セーラーは学校へ着て行ける状態ではない。
 ジャージの入っていたビニールにセーラーを押し込み、横須賀の買ってきたペットボトルのお茶を手にする。
「朝倉先生の発作っていつからかご存じですか?」
「私が転任してきて最初の職員会議」
 横須賀は即答した。
「ショッキングな出来事だったからよく覚えてる。4階に監視カメラをつけようかどうしようかという話でね。突然立ち上がって、まるで亡霊から逃げるみたいに『やめて、来ないで』って。爪で顔を掻きむしって血が出たわ……」
 理絵子はそこで横須賀を制した。
 担任が目を覚ますと判ったからだ。
 静かな朝の目覚めさながらに、担任がまぶたを開けた。時たま父親が大音響で鳴らしているベートーベンの「田園」だ。
「お加減いかがですか、先生」
 理絵子は担任の顔を覗き込み、横須賀の顔が見えないようにして、努めて柔らかい口調で言った。
「黒野さん……さっきはありがとう。助けてくれて……」
「え?朝倉先生覚えてい……」
 言いかける横須賀を理絵子は後ろ手で制する。朝倉は“夢の中の助けに現れた黒野理絵子”と目の前の理絵子がごっちゃになっているのだ。
「横須賀先生とご様子を伺いに参りました。学校にお見えにならないので」
 理絵子は言ってから、ゆっくり朝倉の眼前から顔を引っ込めた。

(つづく)

|

« 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -06- | トップページ | 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -047- »

小説」カテゴリの記事

理絵子のスケッチ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -06- | トップページ | 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -047- »