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2025年3月26日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -07-

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 キッチンに向かうと客間で談笑する香と奈良井の声が聞こえる。家庭訪問で先生をお迎えするとか何年ぶりかですわ。息子の時はあのバカ宇宙飛行士になりたいとかほざくもんだから親と先生二人で阿呆馬鹿間抜けととっちめたもんです。……姫子は聞きながら笑った。彼が、自分と、本当に宇宙に行ったことがあるなんて、誰にも話すことはあるまい。
「お待たせしました」
 姫子は客間に入ると膝に手をしてスッと正座し、窯変ようへんで黒みが付いた常滑とこなめ焼の茶碗を乗せたお盆を置き、奈良井と、香と、自分の座る位置に並べた。
「お楽になさってください」
「はい。って、……えーと、オランダにいた、だっけ、そんな風に見えないわ。どこでそんな大和撫子の作法を身につけたの?」
 本日最後、および、この場にいるのが全員女、という気楽さも手伝っていようか、奈良井は足を崩して横座りになった。
「あら、欧州で日本のカワイイは大ブームなんですよ。髪の毛のお姫様カットとか。見た目こんなナリですから、出来て当然みたいに言われましたので」
「なるほどね。……で、言い出しにくいんですけど、本題に入りますね。その、家庭環境について、進路指導や、提出する資料にも関わりますので、少し詳しくお伺いしないといけなくて。あら、凄いお茶碗」

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(スゴイお茶碗)

 奈良井が調書と思しき書面を取り出し、お茶を手に取ったところで、香が彼女に目配せ。その説明は任せて。
「姫子ちゃんの父親は相原隆(たかし)と申しまして……」
 それは本当は香の夫、学の父親である。但し、交通事故で他界。なので“ダシに使った”と彼女は理解した。
 証券マンとしてアムステルダムに在し、欧州そこかしこを飛び回っていた。が、客死して一人残った彼女を従妹である香が引き取ることになった……。
「え?じゃぁご両親とも存命でない……」
 香は“しまった!”という顔をしたが。
「母は知りません。家にいない父とそりが合わなかったようで、物心ついた時にはいませんでした。その流れで現地の日曜学校を通じて孤児院を手伝うようになって、まぁ応じて看護師が必要な場面が出てくるんですよ。で、あっちの医療ボランティアに所属して看護師の資格を取りました。なのでボランティア活動もやってたんですが、最近戦役災害が多くて出動出動になってしまって。学業に支障を来すからもう来るなと。金なし居場所無しで頼ったのがおばさま、という次第です」

(つづく)

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