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2025年4月

2025年4月26日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -052-

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 他のクラスの見知らぬ女子。朝の廊下で展開された教頭との半イザコザを見ていたらしい。
……いい子ぶりっこらしいけど、教頭に目を付けられたらダメだね。でもマジで4階行ったのかな。
 いつの間にか自分が4階へ“行った”という過去形で、ゆえに教頭がトサカに来た、ということになっているようだ。今後どんなウワサに発展して吹聴されるやら。
 足が止まった。
 強いイメージ。左方は寺である。こんもりとした小山であり、石段が上へ続いて門が見えている。受けたイメージは、傷だらけの男の子を、女の子が両腕広げてかばっている、というもの。
 良くあるパターンと男女逆の構図、だが、その女の子こそあゆみちゃんであると逆にすぐ判った。
 寺から住職が出てきて一喝。男の子に暴力を振るっていた一団が退散し、記憶の事件は終了を見た。
「あんた、中学の子かい?」
 訝しげに問う男性の声に、理絵子は現実に戻った。
 気が付けば階段を上がった寺の境内であり、すっかり歳を取った住職が、竹ぼうきで清掃中。イメージを追ううちに門をくぐったようだ。
「あ、はい。すいません勝手に入り込んで」
「オバケなら出ないよ。帰りな」
「は?」
「違うんかい?」
 理絵子はピンと来た。
「それってひょっとしてあゆみちゃんって女の子の……」
「なんだ、やっぱりそうかい」
「私自身は彼女の幽霊を探しているわけではありません。ただ、悲しい話だなと思って、人ごととは思えなくて、そうしたらこちらが目に入って、よろしければちょっと菩薩様にお目に掛かりたいと思いまして……」
 すると住職はほうきを動かす手を止めた。
「よく知ってるね。……ウチに以前来たことがあるのかな?」
「いいえ」
「ではなぜウチが菩薩様を祀っていると」
 しまった。

(つづく)

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2025年4月23日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -09-

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 3

「どうぞ」
 姫子は内開きになっている木のドアを開いた。猫が出入りするので少し隙間を開けており、ノブを回す必要はなく、押すだけ。
「失礼しますね……あら、さっきの猫ちゃん」
 調度はシンプル、というか、14の娘の部屋としては何もないと言った方が良いかも知れぬ。押入れ引き戸はドアと同様木目で、床もフローリングですなわち木。天井と壁紙は白。部屋の過半を塞ぐベッドと、丸テーブルにイス。ベッドの向こう、北側に出窓があって、小ぶりな銀色のオーディオ装置と、その両脇を挟むスピーカーシステム。銀色装置に座っている件の猫。
「寒いなり暑いなりあんたアンプの上好きだねぇ」
 姫子が言ったら猫は口だけ開いた。ニャァという口まねをしているかのよう。
「これで本人は声を出してるんですよ。超音波領域になっているので人間には聞こえないだけ。親愛の情です……」
 姫子は振り返って奈良井に説明しようとし、その瞠目に気がついた。
「殺風景だって驚かれてますか?日本の“カワイイおへや”を知らないんです私。どうぞ、そちらの椅子に。あ、パソコン邪魔ですね」
「あ、ええ、ありがとう」
 姫子はテーブル上のノートパソコンをベッドに動かし、奈良井に着席を促した。
 奈良井は椅子に腰掛け、テーブル上にノートを広げた。
「ごめんなさい。お母様にはお手間を」
「いいえこちらこそ。まぁガキの分際で看護師言うなら、当然成人したらガチ看護師になりたいと答えるのが普通ですからね。なのに何故か説明した方がいいですかね」
 奈良井は気を取り直して、とばかりにペンを持つ。
「そう……ですね。えっとまず、医師となると大変な学力を要求されます。勉強の計画はどの程度?」
 姫子はベッドを立つと、その下に格納されていたキャスター付きの物入れをガラガラと引き出した。
 英語背表紙の専門書がズラリ。
「こっちは先に現物色々見てきたので、医師はどこを見て何をしていたのか、その補填をしてます。基礎学力については、日本語喋れますけど教科書で習ったわけではないし、数学と理科は弱いと自覚があるので、クラスの得意な人に教えてもらいの塾に通いので水準を高めようとしています」

(つづく)

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2025年4月19日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -051-

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 その目線に、理絵子はオーバー気味なため息を返した。確かに朝倉は、自身の発作を心配した挙げ句“空き教室”に行き着き、死に至った例があると話した。その点では“空き教室に行くと死ぬ”というだけより、真実に近い伝承。
 だがしかし、朝倉が殺したわけではないので、彼の発言は失礼。
「今夜枕元に出てもいい?」
 理絵子は表情を変えず、両手を“うらめしや”の形にして彼に言った。
「まじで?まじで?来る?黒野が俺んとこ来る?」
 目尻が下がっておふざけモード。教室の氷は一気に溶けた。何も担任の過去を周知させたり、笑いものにする必要はない。
 授業が終わって下校する。一旦帰宅し、カーディガンを羽織り、Gパンポケットに携帯を押し込み、再度外出。セーラーをクリーニングに出して向かった先は、土日に断念した二宮あゆみの旧居。
 普通なら夜まで待つところだが、担任が“発作”を起こした以上、急いだ方がいいと強く感じる。事の始まり……心霊写真……からの経過をさらうと、担任に対し現出する事象は、明らかに悪い方へと転がっている。
 バスと徒歩で跡地に向かう。ちなみに、不意にイメージが飛び込んできた場合に危険なので、こういう時に自転車は使わない。
 駐車場にたどり着く。整地され、跡形もないこの場所に、超感覚で拾えるようなものは何もない。そこまでは判っている。
 通学路に沿って、中学校へ向けて歩く。帰宅時間中であり、生徒達の存在によって、通学路を比較的正確に辿ることが出来る。
 川沿いの松並木。週末はここを少し歩いただけ。
 もう少し進んでみる。思春期の男女の通り道であり、いろんな思いが風景と一体化し、十重二十重に織り込まれている。夢や希望、挫折、破れた恋。木陰で誰もいないことを重々確認して、初めての口づけ……。
 かと思うと、男の子がずらり並んで川へ向かって“自然トイレ”。男子中学生は時代を問わずバカである。
 そこで理絵子は突如現実に引き戻される。すれ違った帰宅途中の生徒が、自分に対して何か言っているのを鼓膜が捉えたのである。

(つづく)

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2025年4月12日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -050-

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 学校に戻った二人は、職員室へ報告に行った。
 教頭が何か絡んでいる、と、判った以上、教頭には連絡しづらいのだが、この調査行の責任者が教頭だから、どうにもしようがない。
 最も、朝倉が教頭をかばう以上、教頭が朝倉にその辺の口止めをした可能性があるので、二人は電車の中でさんざ考えて“報告書のシナリオ”を作っておいた。
 だが。
「教頭先生は会議で外出されましたよ?」
 現・学年主任である、志村という女性教諭のこの一言で拍子抜け。
 理絵子は保健室にあるという予備のセーラーに着替えた。……と書くとご都合主義的だが、汚れたり破れたりした際に予備が無くて困ったという卒業生達が寄贈したものだ。保健担当の教諭は、「クラスの女子が困ったらここにあると教えてあげて」と理絵子に伝えた。ちなみに、男子が着ている詰め襟の予備はない。
 4限目途中から授業に復帰する。昼休みには当然質問攻め。
「生きてた?」
「ちゃんといたか?あいつ」
「なんだ生きてるのか」
 口さがない。
 その中で男子が1人。
「あいつの“発作”だろ?」
 その男子は朝倉に“奇行癖”があると、得意に話した。
……内容は恐らくムチャクチャだが、彼の言を否定するとかえって火に油。
「うん。確かに精神的に非常に不安定な状態だった。あんたの言ったことはすごく失礼だけどね」
 理絵子はそれだけ言った。
「お前、気をつけろよ」
 男子はケロッとしてそう言い返した。
「何を?」
「あいつの発作に関わると死ぬんだってよ」
 その一言に、昼休みの教室は、凍り付いたように静かになった。
 理絵子に集まる幾つかの目線。

(つづく)

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2025年4月 9日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -08-

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 “捏造”しながらなので、姫子は目線を外して話していたのだが、昨日の作戦と辻褄が合ったな、と思って顔を戻したら、奈良井は涙ボロボロであった。
「先生?」
「ごめんなさい取り乱して。ご両親と離れてなんて初めて聞いたので動揺してしまって……」
 みんなを笑わす日常の言動は、無理して気丈に振る舞っているのではないかと心配、と奈良井は付け加えた。要するに『可哀想な境遇ね』ということなのだが、作り話なので悲壮感は無くて当然で気丈もへったくれもなく。要するに先生嘘つきでごめんなさい。でも本当の素性をお話しするわけには行かない。
「今は大丈夫です。香お母さんがいて、クラスにたくさんの友達も出来ました」
 ニッコリ笑う。わざとらしいが仕方がない。
「本当に?」
「ええ。そんなわけで人間関係は逆に恵まれています」
「本当ね。じゃあ、時間もないので次に行かせて下さい。卒業後の進路ですが、今聞いたお話しだとやはり看護師さんかな。14歳の密かな欲望ってところを教えてくれるかな?」
 奈良井は少し軽い調子で尋ね、湯呑みを手にした(なお、密かな……が、昭和年代の歌のタイトルをもじったものだと姫子が知るのはかなり後のこと)。
 合わせて、“母”香がこちらを見る。え?決まってるの?ああ、そういう先のことは話したことはなかったか。後で謝って説明しなきゃ。
 姫子は奈良井を真っ直ぐに見、
「心臓外科医」
「え!」
 それは奈良井に取って非常な驚きを与えたようだ。手元ビクリと大きく動き、湯呑みの茶をひっくり返した。座卓からお茶が流れてキュロットスカートに染みを作って行く。
「ああ!すいません!」
 奈良井と姫子は同時に言った。
「お母さん雑巾は」
「そんな相原さんが謝ることでは……」
「先生それアイロンをサッとやっちゃうので脱いでらして。姫ちゃん、私の部屋に野暮ったいジャージがあるから先生に穿いていただいて。確かこの後生徒の部屋に入って秘密のお話、ですよね」
 母親がテキパキ指示。
「え、ええ、でも……」
「そのままじゃオシッコ漏らしたみたいですよ」
 かくして、白い三本線の入った青いジャージのズボンを穿いて、奈良井は階段を上がっていった。生徒の部屋に入るのは学習環境の確認がお題目。“秘密のお話”は学校側が把握している生徒の素行や評判に基づき、より伸ばすところと改善すべきところを“こっそり”伝える場で、二人きりで行うのだという。

(つづく)

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2025年4月 6日 (日)

信じる?信じない?

ここのお話はプロットを立てて肉付けをして、という教科書的な製作過程に則っていません。勝手に動くので追いかけて書いてるだけというか、示唆・託宣に近い物があります。自動書記という現象が知られますがそう書くとおこがましい気もします。

さて今回書いてた話は途中で「ちょっと待て」とばかりに進行が止まりました。そのタイミングで起こった出来事がこれ。

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そう。彗星(C/2024G3 ATLAS)。ただしこの子、日本でも「スマホ彗星」として話題になった紫金山・アトラス彗星(C/2023A3)

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(自撮り)

と、見え方がちょっと違う。わかりますか?

そして待たされていたお話はまた動き出したのです。ナニイッテンダオマエって?まぁそれは当該のお話を載っけた時に判るでしょう。レムリアのお話とだけしておきます。年の単位で随分先の予定。

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2025年4月 5日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -049-

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 朝倉は少し考え、涙を、一筋、流した。
「……主任であった教頭に相談したのは私。学校に連れて行きますと電話して、子どもたち連れて行ったらパトカーがもういたわ」
 溢れ出す。後悔の涙が、朝倉の目から大粒の滴が、ぼろぼろと流れ出す。
「そう。私が主任に相談などしなければ、一人で対応してあげてさえいれば、あんなことには、あんなことには……」
 泣き伏せる。
 理絵子は朝倉の肩に手を回した。
 判ったが違う。それが理絵子の感想である。当初聞いたのと違うのは、朝倉が自身の判断で警察に電話した。のではなく、現教頭に相談したら勝手に警察を呼ばれた、と言うこと。それが真実の告白であるとしたら、朝倉は教頭をかばっていることになる。
 対し、教頭の異様なまでの“空き教室”への執着。出がけのトラブル。
 キーパーソンは教頭か?
 朝倉と、当時学年主任だった教頭との間に何かあったのか。
 しかし、ここで言葉で訊いても出てくると思わない、と理絵子は知る。朝倉が隠しているのは明らかなのだが、超能力で誘導してすら隠すのだから、朝倉の人格根幹に関わるような内容であり、容易に出てくるものではない、という感覚が強くある。これ以上聞き出すのは今の朝倉には心理的負担が重い。“教頭が絡んでいる”という大きな告白だけで今は十分。
「先生、今日は私たちこれで失礼します。大変お疲れになっていらっしゃると感じます。ごゆっくりお休み下さい」
 朝倉の嗚咽が収まるのを待ち、理絵子は言った。
 朝倉はゆっくり顔を上げ、腫れた目で理絵子を見た。
「ごめんなさい。ありがとう……」
「もし、一人で不安をお感じになる様でしたら、私の携帯に電話をください。飛んで参ります」
 理絵子は番号を伝えた。朝倉が自らの携帯電話に番号を入れようとしたが、震えるのかうまく入らないので、代わりに理絵子が入れる。一度発呼させ、すぐ切れば、次掛ける時はリダイヤル一発。
「重ね重ねありがとう。あなたには、あなたには……救われる……」
 またぞろ泣き出す朝倉を理絵子は布団に寝かせた。カーテンを開けたままにしておくよう指示して部屋を辞する。
 なお、朝倉の一人芝居で登場した男の子の名に理絵子は引っかかるモノを感じたが、その理由が現時点では判らなかったことを記しておく。

(つづく)

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