【理絵子の夜話】空き教室の理由 -052-
他のクラスの見知らぬ女子。朝の廊下で展開された教頭との半イザコザを見ていたらしい。
……いい子ぶりっこらしいけど、教頭に目を付けられたらダメだね。でもマジで4階行ったのかな。
いつの間にか自分が4階へ“行った”という過去形で、ゆえに教頭がトサカに来た、ということになっているようだ。今後どんなウワサに発展して吹聴されるやら。
足が止まった。
強いイメージ。左方は寺である。こんもりとした小山であり、石段が上へ続いて門が見えている。受けたイメージは、傷だらけの男の子を、女の子が両腕広げてかばっている、というもの。
良くあるパターンと男女逆の構図、だが、その女の子こそあゆみちゃんであると逆にすぐ判った。
寺から住職が出てきて一喝。男の子に暴力を振るっていた一団が退散し、記憶の事件は終了を見た。
「あんた、中学の子かい?」
訝しげに問う男性の声に、理絵子は現実に戻った。
気が付けば階段を上がった寺の境内であり、すっかり歳を取った住職が、竹ぼうきで清掃中。イメージを追ううちに門をくぐったようだ。
「あ、はい。すいません勝手に入り込んで」
「オバケなら出ないよ。帰りな」
「は?」
「違うんかい?」
理絵子はピンと来た。
「それってひょっとしてあゆみちゃんって女の子の……」
「なんだ、やっぱりそうかい」
「私自身は彼女の幽霊を探しているわけではありません。ただ、悲しい話だなと思って、人ごととは思えなくて、そうしたらこちらが目に入って、よろしければちょっと菩薩様にお目に掛かりたいと思いまして……」
すると住職はほうきを動かす手を止めた。
「よく知ってるね。……ウチに以前来たことがあるのかな?」
「いいえ」
「ではなぜウチが菩薩様を祀っていると」
しまった。
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