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2025年7月

【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -20・終-

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「大丈夫。もし気付いた時、私が抱えていることに意味があるから。彼女のカバンを探してあげて。ムク」
 ムクがわんと答え、姫子はリードを大桑に渡した。
「大桑さん彼に付いてって。平沢君」
「おうよ」
「頼みがある。骨折野郎に添え木を。その辺の枝切れをその辺の蔓草で結びつければいいから」
「ほ、骨は……」
「放置でいいよ。ブラブラ動いてちぎれないようにするのが目的だし」
 平沢は目を剥いた。足がちぎれる……ちょっとどぎついか。
「わ、判った」
「ありがとう頼むね」
 ちぎれるってなんだよぉ……知るかバカ。
 そこで取り巻きの一人はギャッと叫び、動かなくなった。どうやらカマドウマが顔までピョンと飛んできて失神したようだ。
「奴は……どうしよう……わーカマドウマだっけ。いっぱいだー」
 と、棒読み調は宮越。
「あたし虫怖いキャーってだけだから、殴るか足踏むかキンタマ蹴り上げれば起きるよ。あと誰か救急車を。以上、みんな頼んでいいかい?」
 おう!という男の子達の声が返る。強い返事に後は任せることとし、カバンを見つけてきてくれた大桑に藪をラッセルしてもらって散歩道まで戻る。
 そこに、心配顔の溝口の母が相原香と、担任奈良井と共にあった。遠巻きに近所の方々も。
「大丈夫ですから」
 アルミポンチョのフードを開いて顔を見せる。すると溝口の母親は涙を流しながらへたりこんでしまった。
「姫子さん……ああ、傷だらけで……汚れてしまって……もう、なんとお詫びして良いやら」
 ブレザー着用のちえちゃんに比して既に夏服半袖ブラウスであるから、藪を切り裂け走れば応じて葉で肌を切ろう。泥濘を歩いて土埃をかぶれば応じて髪も制服も汚れよう。
 髪は泥はねまみれで薄茶色、顔から腕から傷だらけ。ただ、澄んだ瞳で友を抱えて、姫子は笑った。
 久々に全身汚れた気がする。ただそれは、これまでいくらでも、何度でも、あったこと。破傷風や緑膿菌の心配がないだけ〝クリーン〟だ。ちえちゃんが無傷ならどうでもいい。
「友達ですから。今朝、迎えに来たと称した者たちに見覚えはありますか?」
「それが……智恵美が飛び出して行ったからてっきりあなただと……」
「録音した私の声を編集して呼び出し、睡眠薬入りの健康飲料を飲ませたようです。正直、犯罪です」
 ボイスレコーダを渡すと、救急車のサイレン。かなり早いが、ご近所さんが呼んでくれたか。
 自分達から見て正面より入って来たので手を振って呼ぶ。トリアゾラムなら短時間で効き目を失うはずだが、ここまでの音と振動で起きない辺り、効き目を上げるためオーバードーズされたと見られ、副作用が怖い。
 骨折?私の意思が及ぶ範囲にいると〝妨害〟されるから少し待つんだね。
 
 14歳の密かな欲望/終

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -65-

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 次のバスまで40分。今の担任に“長い時間1カ所にとどまる”というシチュエーションはいかがなものか。
「母を呼びます」
 理絵子は家に電話し、クルマでの出迎えを要請した。
 が、母親はとんでもないことを言った。
『それがねぇ。エンジン掛からないのよ』
「え~!?」
『掛けると掛かるんだけどすぐ止まるの。お父さんに見てもらわないと。甲州街道出てタクシー拾いなさい』
“今度は黒野さんが……”
 まさか。でも引っかからないではない。
「……わかった」
 理絵子は電話を切り、100メートルほど先、信号が見えている交差点を目指す。
 携帯に着信。桜井優子である。
『大丈夫か?例の部屋に行ったって聞いてさ、かけたら話し中だったりかかりませんだったからよ』
 こっちが何か言う前に桜井優子は言った。
……松並木ですれ違った子も言っていたが、どうやら午前の教頭とのイザコザが、そういう形で校内に伝搬しているらしい。学校において4階に行くという行為は、学年クラス問わずそれだけで有名人ということだ。ちなみに、電話はしばらく土崎と繋いでいたし、駅務室はコンクリートの箱の中。現場検証の際には再び土崎にかけたし、電車の中ではポケットに入れて座っていた。繋がらないのは当然の範疇。が、桜井優子的には、4階に行ったというウワサがして電話しても繋がらないから、何かあったのかと心配してくれたわけだ。
「大丈夫だよ。それは単なるウワサ」
 理絵子は笑って答えながら、正面交差点を入ってきたクルマのライトが眩しいので手で覆った。その動作だけで手首がズキッと痛い。
「いたた」
『どうしたっ!』
 バネが弾けるような桜井優子の反応。
「それが駅でホームから落ちて」
「黒野さんこのクルマおかしいよ」
 担任言われて目を向けると、ライト眩しいそのクルマは、あっちへフラフラこっちへフラフラ。
 酔っ払いか薬物かと思わせる。
 そして突如、タイヤを軋らせて加速し、二人のいる歩道の方へ。
「危ない危ない危ない!」
 クルマが段差を乗り越えて歩道の方へ上がって来ると見るや、二人は互いの身体を引き合い、路肩の斜面草むらに転がって回避した。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -19-

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 探しに来てくれたのである。
「この状況でまさか逃げる気じゃないよな」
 逆光の声は 宮越みやこし 、男子学級委員。他に自分に対して最初に好きだと発した野球部 平沢ひらさわ 、奈良井が例示した女子生徒大桑もいる。他にも数人、防空壕を取り囲むように。少し離れたところでは草の中を走る音。「一人逃げただろ!」「こっちも崩れてて下に行けない」……そんなやりとり。
「なんでここが……」
 カマドウマに集られて青い顔の者が言った。
「俺らみんなここが『秘密基地』だったからだよ。えーと相原さん立てるか?」
 彼女はとりあえずちえちゃんの身の上から身体をどかすべく手を突くと、液状化甚だしく、自分がまるで泥遊びをしている幼子のようだ。斜面の上から降りて来るのに難渋する級友たち。青い顔はすっかり観念している。見れば石が当たり皮膚を切って行ったようで、多数の傷が顔面を走り、幾らか出血している。細いが深くて一生消えないであろう傷も見られるが。
 知らんがな。
 そして。
「足……あし……」
 こちらは文字通り血の気の抜けた白い顔をして、自分の右足を両の手で持ち上げようとしている“夕方の朝顔”。その“足”はそばにある大きな石の直撃を受けたようで臑の部分で折れ曲がり骨が露出している。開放骨折という奴だ。臑から下は肉と筋だけで繋がっている状態で“ぶらぶら”である。
 彼女は立ち上がった。ウェストポーチから折り畳まれたシーツのようなアルミシートを取り出し、両の手でパンと叩いて広げてポンチョにし、赤ちゃんの〝おくるみ〟の要領でちえちゃんの身体を包み、陽光が直射せぬよう顔の部分をフードで覆う。外見的には大きなホイル焼きの如し。
「あ……あし……」
 朝顔が自分を見る。助けてくれと言わんばかりに見る。
 保健委員だからか?
「言ったはずだ。何もするなと。生きているだけありがたいと思え」
 転がっているボイスレコーダを発見して拾う。
「あ……」
「黙れ」
 手に持てばサイコメトリが働いて“所業”の全てが明らかになる。録音された音声。
『ちえちゃんひめこだよこれのんでまってて』
 起動したら棒読み風のそんな音声。確かに自分の声だがそんなことを過去に言ったことはないし、そもそも発音が不自然で個々の声が途切れ途切れ。
 録音した自分の声をつなぎ合わせた。
 そして『飲んで』と言った。何を飲ませた。何か飲ませた……失神……毒?……あるいは入眠作用のあるモノ。
 不正に入手したトリアゾラム(ハルシオン)等の強力な入眠剤をネットで売買しているのは看護師の端くれとしてよく知るところ。
「犯罪だ。看過しない」
 姫子はそれだけ言い、アルミポンチョの身体をお姫様抱っこで抱え上げた。
「姫、大丈夫か。代わろうか」
 大桑が斜面をずるっと滑り降りて姫子に声を掛ける。姫子は身長150センチ少々であるから、お姫様抱っこは辛そうに見えよう。ちえちゃんは華奢で軽いとは言え40キロ近くはある。

(次回・最終回)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -64-

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 食べ終わったので、丁重に頭を下げて駅務室を後にし、自宅に向かう。
 歩くのが辛い。応急処置は所詮“応急”処置であって、痛みが治るわけではない。一歩ごとにズキズキいう。バリアフリーで取り付けられた駅エレベータに初めて乗ったが、何とありがたいことか。
 担任の介添えを受けて電車に乗り、来た道を戻る。
 電車は混んでいたが、ぐるぐる包帯に気付いた若いサラリーマン風の男性に“優先席”を譲ってもらい、座る。
 座るとカーディガンのポケットに入った錫杖はお邪魔さん。取り出して膝の上へ。
 立ち客の目を引いたらしい。足首をケガした制服少女とお地蔵さんの杖という組み合わせ。
「これ、あゆみちゃんの菩提寺で頂いたと言ったら、先生どう思われます?」
 理絵子は言った。
「え……」
 担任は目を瞠った。
 理絵子は担任から電話をもらう前の状況について話した。あゆみちゃんが可哀相なので真相を突き止めたいと寺に相談したら、お守りにとこれをもらった。寺は喫茶店のマスターに聞いたことにした。
 マスターに聞いた、と言ったら担任は複雑な顔をした。まぁ出入り禁止の店だからさもあろう。
 構わず続ける。
「お寺で聞いた彼女の話から私の結論を端的に言うと、先生が見ている彼女は彼女そのものじゃありません」
 幽霊、という言葉を避けたため、不思議な日本語になったが、理絵子はキッパリ言った。まずこれを明言して安心させないとならない。
「それは先生の心の中の、申し訳ないという部分が作り出した幻影です。それについてはそういうことで解決です。……でも、そこにたどり着くと同時に、私にはこれがもたらされ、先生は部屋を荒らされ、そして早速、これが役に立ちました」
 理絵子は言って担任を見た。
 担任はギョッとしたように理絵子を見た。
「どういうこと?」
「まだ判らない。判らないけれど、この事件には、違う何かがもうひとつある」
 理絵子は言った。
 下車駅に着く。しかし足が足なのでゆっくり行った結果、バスは出てしまった。
 タクシーも元々少ないのがちょうど出払ったところ。ここは新興住宅地の増加に伴い設置された新しい駅だ。乗降客は多くなく、駅前の交通機関も発展途上で、特に夜間帯のバスはまばら。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -18-

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 上下に走った亀裂が左右に開き、地震動の揺れに合わせてパカパカと開いたり閉じたりし、洞窟天井から土砂や小石が落ち始める。
 円形の入り口が質量に耐えかねたようにぐにゃり。
 潰れる。
「あっ」
 降り注ぐ土砂に気づき、目を上に向けた色狂い男子どもの間に、彼女はラグビー選手のように突進し、虚を突かれた彼らを左右に突き飛ばしながら、文字通りゴールラインにトライの動作に似て洞窟へ飛び込んだ。
 ドーンと重たい音がして土埃が舞う。自分の身体の至近に重い何かが落ち、転がった。までは、感覚で察知できた。落石であろう。ただ、自分や、自分が覆い被さったちえちゃんの身を傷つけてはいない。
 ドサドサと音を立ててかなりの土砂が崩れ、身の回りが小刻みな震えを繰り返し、礫や小石が頭にガチゴチ当たる。目を閉じて息を止め、胸元でちえちゃんの顔を覆い、地鳴りと地震動を身体に感じながらそれらをやり過ごす。30秒くらいならどうにかなる。
 激しく咳き込む声と、ムクの吠え声に気付き、視界に明るさを感じて身体を起こすと、洞窟は崩壊し天井は消え失せ、文字通り白日の下に晒されている。住居の暗がりを失ったカマドウマがあちこちぴょんぴょんと跳ね回り、暗い色の制服ブレザー……すなわち腰を抜かして転がっている色狂い男子らに群がっている。
「うげぇ虫虫虫!」
「便所コオロギ死ぬほどいる!」
 オンナ相手にイキがっていた青い少年達が、ナッツの実ほどの虫に集られて尻餅をついている滑稽よ。
「キショ……あれやべぇ足……足……あ、あ」
「キモい……キモい……」
「クソがぁ!」
 闇雲、とばかり、取り巻きのひとりが拳突き上げ立ち上がろうとする。そこへ、幾つもの人の影が逆光に照らされて伸びて来る。
「やべぇ」
 拳突き上げた奴は走り出した。逃亡である。泥濘の中をこけつまろびつ、姫子が来たのとは反対側、生い茂る草の向こうへ。目で追うとそこにも見張り役であろうか、誰かいる気配はあるが。
「おい待て!裏切るのかてめぇ!」
 術を行使すれば阻止できようが優先すべきはちえちゃんであってどうでもいい。
 どうせどうにかなる。自分の魔法そういうもんだ。
「みんな!ここ!」
 彼女は手を伸ばして左右に振る。斜面の上、逆光で顔は見えないが自分のクラスの男の子達。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -63-

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 担任が半べそになって叫び、他の駅員がタンカを抱えて駆けてくる。ホームには幾らか人がいて、こちらを覗き込んでザワザワ。
 恥ずかしい気持ちが生じるが、怖かったという気持ちの方が勝り、衆目はあまり気にならない。
 担ぎ出されて駅務室で手首足首を応急処置。
 警察が来て調書を取り、担任に肩を借りてホームに上がり現場検証。次いで監視カメラのビデオを見たが、自販機はカメラの視野外である上、怪しい人物等の気配無し。
 そんなことをやっていたらしっかり夜で8時。警察は引き上げたが、駅員が駅前のファストフードでハンバーガーを買ってきてくれたので、そのまま駅務室でご馳走になる。母親に電話したら一言「ドジ」。
 ぶーと膨れて電話を切る。
「今度は黒野さんが狙われているのかしら……」
 担任は不安そうに言った。
「え?」
「携帯、無言電話だったの」
 それはつまり担任の目を引き離し、その間に自分を突き落とす。
 週末から先ほどまでは担任に色々起こった。それが今度は自分に移った。
 でも、その意図は?
「最近、多いんですよ」
 ハンバーガーを買ってきた駅員が言った。
「ちょっとそのなんつーか、頭のネジがというか。先日も代々木で目の不自由な女の子がやっぱりやられてましてね。あ、その子もケガだけで済みましたけどね」
「愉快犯」
 駅員は頷いた。
「警察はあなたの自殺を一切疑いませんでしたでしょ?結構ネタは挙がってるって事です。この沿線で多いですからね。また同じだね、と。しかし彼女、軌道短絡なんて良く知ってたねぇ」
 駅員は、別の駅員が買ってきた缶コーラを差し出しながら言った。軌道短絡とは理絵子がやった線路をショートするという行為のことである。主として事故現場に別の列車が突っ込んで2次災害を起こさないために意図して行う。そのための機械装置もある。なお、故意に行って列車を止めると犯罪である。
「クラスの電車に詳しい子に聞いたんですよ」
「そうかそうか。でも運良くそんなもの…それお地蔵さんなんかが持ってるヤツでしょ?」
 駅員は錫杖を顎で差し示した。
「ええ。はい。来る前にちょっとお寺に用事が」
 そこで駅員は上長に私語を咎められ、ぺろっと舌を出して執務に戻った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -17-

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「あんだって?ウンチでろ?」
「あら流石にお怒りのようですねぇ。お得意の“魔法”か?その糞犬がウンチでも噴くんか」
 ゲラゲラ笑う。お望み通り魔法を使えば一発解決だが問題は自分の感情が怒りに支配されていることだ。
 必要以上、の、結果が出る。魔法は魔女の意図を忠実に成就させる。
 ちえちゃんに見せるもんじゃねぇ。
 ムクが吠え掛かる。
「おお、強い強い。どうすんだビッチ」
「念力出すかぁ?」
 ゲラゲラ笑う。が、
 そのセリフに対して、示唆があった。ムクが何かに気付いたように地面に伏せ、幾らかの鳥が鳴きながら飛び上がる。
「出しゃいいか」
 彼女は、言った。
「はぁ?」
 彼女は思惟に浮かぶままに次のように唱えた。
「りん・びょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん」
 臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前。真言密教の護身の呪文である。実際には合わせて指先で特定の形 (印契いんげい ) を作ったり、空中に特定の模様を描く(九字を切る)が、彼女は口元に揃えた指先に向かって九字を唱えると、その指先で横一文字に空を切った。それは最も弱くした魔法の発動。
「ぎゃはは!何言ってんだオマエ」
「かいちん、だってよ。ちんちんかいかい」
 刹那。
 大地自体が大砲となったかのようにドーンと大きな音が響き、地面の下から一発突き上げるような震動。
 地鳴りを伴う地震である。ズドンと一発という塩梅だが、震源が浅いので振幅自体は大きい。雑木林は木々が軋み、木の葉散らしながらバサバサと鳴動し、土煙が舞い上がり、鳥たちがぎゃぁぎゃぁ鳴きながら飛び上がった。
「余震だ」
 誰かが言い、防空壕の入り口がぐにゃりと縦長に歪み、その頂部から亀裂が生じて斜面の上の方へ走るように伸びて行く。程なくザワザワした黒い絨毯のようなモノが洞窟の中からしみ出すというか、あふれ出すように出てくる。
「虫だ!」
 件のカマドウマである。形態としては翅をむしったキリギリスであるが、茶色いナッツの実に足と触角を生やした、と書けば手っ取り早い。湿った暗がりを好む性質があり、そのため防空壕洞窟内にびっしりと貼り付いていたのだが、大地の異変で外へ出てきた。

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 そして。
「やばい逃げ……」
 この時点、未曾有の災害である東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)より2ヶ月。応じた大きな余震の可能性は誰もが知っており、そして、都下においてその揺れと繰り返された余震は、この古い穴にダメージを与えていたであろう。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -62-

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 理絵子の体重は42キロ。身長に比して重い方ではないが。
 起重機のような力強さを持って、身体がぐいっと持ち上げられる。
 駅員が自分を抱えて歩く。しかし、その口からは、一つ歩を進める毎に吐息が漏れ、腕と、その上の自分の身は終始震える。……決して楽なわけではないのだ。
 少しして、坂の下から突如ぬぅっと眼前に現れる特急電車の前頭部。
 速度はもうノロノロである。理絵子の動作で赤信号となり、自動列車停止装置によって非常ブレーキが掛かったのだ。しかし何十トンという金属の塊であり、簡単には止まれない。
 見上げるような高さの鉄の山と化して接近する電車。食い縛っているのか歯をむき出しの運転士の顔が見える。
 ノロノロでも鉄の塊である。接触されたら人間の身体などただでは済まない。
 きぃぃ……と連続的な金属音が聞こえる。駅員はどうにかホーム端までたどり着き、半分投げ出すように理絵子の身体をホームの上へ。
 次いで駅員自らホームの上へ飛び上がる。
 特急電車は理絵子達のいた位置から数メートル先まで進み、ガクンと止まった。
「大丈夫かい」
 歯を食いしばっていた運転士が窓から顔を出した。
 理絵子は顔を上げ、どうにか頷く。
 気が遠くなりそうな気持ち。傍らではナイトな駅員が大の字になってハァハァと肩で息をしている。
 フラフラする意識の中で思う。もしヲタクの彼ではなく、父などに依頼し、父が駅へ電話して状況を説明し、駅員がイタズラと思わず緊急停止の措置をする……とした場合、間に合ったであろうか?
『黒野さん、黒野さん。どうなった?大丈夫かい?』
 握りしめた電話から聞こえる土崎の声。
「……ありがとう。ごめん、助かった。またかけ直す」
 理絵子はそれだけ言い、電話を切った。
 今さらのように身体がぶるぶる震え出す。
「ケガはないですか?」
「黒野さん!」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -16-

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 事の成り行きを見届けるつもりはない。ウェストポーチから白色LEDのライトを取り出して防空壕の中を照らす。
 一人が携帯電話をかざしており、ちえちゃんは乱雑に敷き詰められた段ボールの上に失神状態で横たえられてあり、制服を残り男子2人が脱がそうとしている。ちなみに看護師経験から言うと、完全に脱力した人体40キログラムから着衣を脱がすのは容易なことではない。それなりの順序と方法を要する。
「明るすぎだろ、見つかるぞ」
「自分じゃねえ」
 3人は外部からの照明と気付いたらしく揃ってこっちを向いた。
「何をしている」
 自分自身冷酷な声だと思いながら姫子は問うた。傍らでムクが牙剥いて半身に構えてウー。“まだ、何もされていない”と判断する。しようとした行為を動画にでも撮るつもりだったのだろう。
 対して、男子生徒らはこちらを向いて拳を握り、舌打ちも。
「またおめぇか」
「おめぇがドーテードーテー言うから卒業しようってんだよ。どこにでも顔突っ込んで来やがって糞ビッチが」
 自分に、結婚前提の彼氏があることは公言してある。そこに尾ひれが付いて性経験豊富で売春しているという噂があることは知っている。なお、ビッチは英語圏で最大の侮辱語Son of a bitchから来ており、聖書由来で淫乱を意味する。英語圏では放送禁止用語。
「何もせず出てこい。それ以外は一切許さない」
 魔女が怒りに身を任せると必要以上の結果を招く場合があるため、1回だけ警告・回避の権利を与えることにしている。ちなみにこの瞬間、彼らは気付いていないのか、洞窟内にはキリギリスの仲間の昆虫“カマドウマ”がびっしり貼り付いているのだが、魔女の波動に感応したらしく、ピタリと動きを止めた。
 対して、彼らは下品に笑った。
「バカかお前、命令できる立場か」
 するとここで、“夕方のアサガオ”が、値踏みするように自分を上から下まで見た。
「ちょっと待て。なぁ、おまえでドーテー卒業させてくれるなら考えてもいいぜ。つるぺたで小麦色の肌って最高じゃんか。ヤってんだろ?ヤらせろよ」
 暑い日の犬のように舌を出してハアハア。
「それともカレシってのは生理も来てないガリペタお子ちゃまを隠すための大嘘か?」
「案外そうじゃね?エア婚約」
 ゲラゲラ笑う。その喩える語彙にも困る突き抜けた下品さは、この後元に戻る・戻すつもりがないことを意味した。すなわちこいつらは自分を組み敷き、学校に出て来られないようにしてやる、というのであろう。死んでも構わないくらいのつもりかもしれない。それ以上に小さく弱い者で密かな欲望を果たしたい。
「Ti ucciderò.」(殺すぞの意。イタリア語)
 押し殺しておくと火を噴くので感情を発露させておく。〝啖呵を切る〟って奴を覚えておこうか。

(つづく)

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