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2025年7月19日 (土)

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -64-

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 食べ終わったので、丁重に頭を下げて駅務室を後にし、自宅に向かう。
 歩くのが辛い。応急処置は所詮“応急”処置であって、痛みが治るわけではない。一歩ごとにズキズキいう。バリアフリーで取り付けられた駅エレベータに初めて乗ったが、何とありがたいことか。
 担任の介添えを受けて電車に乗り、来た道を戻る。
 電車は混んでいたが、ぐるぐる包帯に気付いた若いサラリーマン風の男性に“優先席”を譲ってもらい、座る。
 座るとカーディガンのポケットに入った錫杖はお邪魔さん。取り出して膝の上へ。
 立ち客の目を引いたらしい。足首をケガした制服少女とお地蔵さんの杖という組み合わせ。
「これ、あゆみちゃんの菩提寺で頂いたと言ったら、先生どう思われます?」
 理絵子は言った。
「え……」
 担任は目を瞠った。
 理絵子は担任から電話をもらう前の状況について話した。あゆみちゃんが可哀相なので真相を突き止めたいと寺に相談したら、お守りにとこれをもらった。寺は喫茶店のマスターに聞いたことにした。
 マスターに聞いた、と言ったら担任は複雑な顔をした。まぁ出入り禁止の店だからさもあろう。
 構わず続ける。
「お寺で聞いた彼女の話から私の結論を端的に言うと、先生が見ている彼女は彼女そのものじゃありません」
 幽霊、という言葉を避けたため、不思議な日本語になったが、理絵子はキッパリ言った。まずこれを明言して安心させないとならない。
「それは先生の心の中の、申し訳ないという部分が作り出した幻影です。それについてはそういうことで解決です。……でも、そこにたどり着くと同時に、私にはこれがもたらされ、先生は部屋を荒らされ、そして早速、これが役に立ちました」
 理絵子は言って担任を見た。
 担任はギョッとしたように理絵子を見た。
「どういうこと?」
「まだ判らない。判らないけれど、この事件には、違う何かがもうひとつある」
 理絵子は言った。
 下車駅に着く。しかし足が足なのでゆっくり行った結果、バスは出てしまった。
 タクシーも元々少ないのがちょうど出払ったところ。ここは新興住宅地の増加に伴い設置された新しい駅だ。乗降客は多くなく、駅前の交通機関も発展途上で、特に夜間帯のバスはまばら。

(つづく)

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