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2025年8月

【理絵子の夜話】空き教室の理由 -70-

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 母親は言った。
「あ、はい。どうも」
 担任が頭を下げ、母親は会釈して部屋を辞した。
 理絵子はその間に、自室より父親に電話した。自分に訪れた2つの事象が偶然でないなら、“未遂”である以上、2度あることは……の可能性があり、先手を打っておく必要があるからだ。なお、理絵子から父親へ携帯to携帯で掛けるのは、緊急の場合に限るとの約束にしている。
 少し鳴らして、父は出た。
『どうした』
「2度殺されかけた」
『……大丈夫か。何か確証があるのか?』
「一件は駅で突き落とされた。こっちは警察を呼んだから書面で出ると思う。もう一件は暴走車に突っ込まれた。こっちは自分たちでとっとと逃げたよ。タイヤの跡は残ってると思うけど……ちなみにお父さんって、ウチの学校で女の子が暴走族の抗争がらみで自殺って事件に……」
『ああ関わった。だが幾ら娘でも話すわけにはいかないな。そこは刑事ドラマじゃない。勘弁してくれ』
 しかし理絵子はかまわず続ける。
「そのトラウマが担任にあるらしいの。恐怖で発作を起こしてしまう。取ってあげたくて調べているうちに私にとばっちり。杞憂ならいいんだけどね。無関係にしては偶然すぎる気もして。教頭の影もチラホラしてるし」
『教頭?』
 父親は乗ってきた。
「事件の際学年主任だった」
『そういうことか』
「何か思い当たることない?」
 誘導尋問。娘である。父親が自分に甘いことはよく知っている。
『折角障害を取り除いてやったのに自殺なんかしてと悪態を……おっと、こら』
「ごめんなさい。でもそういうことで気に掛けておいてくれると安心出来る」
『判った。ああひとつだけ。その教頭が、誹謗中傷の手紙が来たと被害届を出していた』
「誹謗中傷?」
『その少女を死に追いやったのは教頭本人だ、という内容のな。教頭がシャカリキになって怒るんでアホくさと感じたのを覚えている。とはいえ少女の死に関して未だに何か動きがあるのかも知れない。そうなるとお前も危険だという見方は出来るな』
 父親のその言は、真相を探る理絵子をうさんくさく思い、排除しようとする人間が存在するのではないか?という意味だ。理絵子が邪魔なのか、あるいは知られては困ることがあるのか。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -030-

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 唸る音がし、ドアが開きだす。接触音の正体は、原動機の出力軸が開閉システムに接続される音だと知れた。揚水ポンプとか、発電機とか、EFMM活動現場でも似たような音は聞く。それに比して要したパワーは桁外れに大きい。
 巨大なエネルギーをこの船は蔵する。レムリアは確信した。
 動き出したドアパネルの合わせ目にスリットが入る。
 左右にスライドし、ドアが開いて行く。中は、金庫ではなく、青白い高輝度ランプの照らす空間。
 まず目に付くのは、左手にそびえる大きなスクリーン。その印象は映画館。
 ただ、劇場と違うのは、スクリーン前は客席が並ぶのではなく、スクリーンの横幅いっぱいに広がる長いコンソール(操作卓)。その卓上にはボタンとレバーと、埋め込まれた小さな画面たち。並ぶイスにはレーシングカーで見るような安全ベルトと、背もたれには酸素マスクが掛けられている。それらはむしろ〝映画の中〟。
 やはり映画に出てくるような宇宙船か。
「魔女さん。初めまして」
 重心の低い男の声があった。
「アルゴへ、ようこそ」
 声の方へ顔を向ける。大きなガラスのテーブル……画面が上に向いた液晶テレビ……があり、男が四名、ずらっと並んで立っている。出自国籍は自分同様に招聘を受けたようで様々。
 ただ、北欧系と思われる金髪碧眼の二人は、どうやら双子のようだ。
「私が船長のコールサイン〝アルフォンスス〟だ。レムリア殿」
 アフリカ系で彫りの深い顔立ちの男が言った。自分の倍はあるのでは?と思うような、極めて大柄な男であり、ワイシャツネクタイに迷彩服。格付きの軍人と見える。但し衣服の下には筋骨の鎧の存在を感じさせ、デスクワークよりは現場側の叩き上げという印象を受ける。
「この殿方達は、あなたと同じく、私どものお願いに応じて下さった〝超絶の人々〟です」
 耳の後ろでセレネが言った。
「オレは、違うがな」
 笑ったのは〝アルフォンスス〟の向かって左側、小柄で浅黒い肌の持ち主。少々脱毛が進んでおり、広くなった額に深いシワ数本。口ひげを蓄え、陽気な雰囲気。言葉にはイタリア訛り。インターホン越しの男性と判じた。
「奇蹟の天使の手助けをするために、わたくしは皆さんのお力添えを頂きたく、ここへお集り願うことにしました」
 セレネは張りのある声で言い、レムリアの背後からするりと歩み出、男達の中に加わった。
「あなたの、超絶の力を貸して下さい。レムリアさん」
 気付く。船長なる男性は自分のことを魔女と呼んだ。
 超絶の人々。奇蹟の天使の手助け。
 看護師、としてではなく?
「両方です」
 セレネは言った。レムリアは思いを意識に浮かべただけだが、思いの答えは言葉で来た。
 レムリアが、そのことに気付くのは、今少し後。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -029-

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〝セレネ〟の先導を受けてスロープを上がって行き、出入り口をくぐる。入った中は外観に応じ湾曲した通路であり、船の前後へ向かって続いている。断面は六角形で床は黒。壁面と天井は純白で、天井は照明を蔵しているらしく、それ自体発光している。
 似たような構造デザインを見たことがあるが、映画館のスクリーンでハリウッドのCGだ。
 意匠性の故に船なのか、はたまた必然の故に船なのか。
 思わず立ち止まり、見回すレムリアをセレネが促す。その歩く姿は装束のせいもあろう、歩くというよりも、浮かび飛ぶようなふわふわした動きだ。そして、どうぞ、と、通路側にセットされたドアをかちゃりと開いた。
 一見したイメージは病院の個室。白一色で統一された壁と天井。簡素なベッドがあり、奥手に小テーブル。ベッドの上にはこっちの壁からあっちの壁へ板が渡してあり、荷棚に使えそうだ。EFMMが有する機能優先の簡易病室と構成が一致し、イメージはその故である。
 ただ、その簡易病室は、金属とプラスティックの〝寝られる箱〟。対しこちらには、〝居住空間〟という雰囲気が漂う。同じものなのに違いはどこから。
「お花はデスクの上の花瓶へどうぞ。荷物を置いたら、メンバーに紹介したいので、操舵室までご案内します。奥手左側がクローゼットになっています。一番奥の扉がユニットバスです」
「あ、はい」
 キャリーバッグの荷を置き、コートを脱いでクローゼットにしまい込み、バスルームで花瓶に水を入れ、オリエンタリスを移す。
 再び先導を受け、今度は船尾方向へ。
「ごめんなさいね狭くて。あなたが女の子と伺って慌ててスペースを割いたものですから。好きに使って下さいね」
「あ、はい……」
 さっきから同じことばかり口にしている気がする。
 しかし、何と返事すれば良い物やら。
 SF宇宙船の通路を行く。出入りスロープの位置を越え、更に船尾へ歩く。
 左手に大きな扉。二枚パネルの組み合わせ。左右に開く日本で言う〝観音開き〟。その有様はやはり映画で見た大銀行の秘密金庫。
「わたくしです。メディア姫、レムリアさんをお連れしました」
 セレネが扉に向かって声を出す。人語を解すロボットドア?
 そうではなかった。ドアパネルにインターホンが仕込んであるのだ。
 了解の旨英語が返る。相手は男性で、声音からして自分の父親くらいの歳か、若干イタリア訛り。
 程なく、大きな金属同士が接触するガチャーンという音がし、伴い、遠くの雷のような、ドーンという余韻を引いた。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -028-

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 コンクリートの大空間に船があった。
 アムステルダム駅の屋根下よりも広いであろう、コンクリートで囲まれた箱の中に帆船が鎮座している。舳先を左手に、船尾を右手に。彼女は左舷側に立っている状態。
 まるで中世の港へタイムスリップしたかの如くであり、王家王宮の地下空間に全く相応しくなく、驚嘆しか与えない光景であり存在である。ただ、三本マストそれぞれが抱く三枚の帆は布地ではない。白い四角四面の板であり、現代工業製品の趣。
 その突拍子の無さからして、当の〝プロジェクト〟に関わりの深い存在であろう事は判った。冠している〝アルゴ〟とは、ギリシャ神話に出てくる帆船の名前だ。果たして目の前のその船は舳先の部分にargoと銘してある。この船を使ったプロジェクトであると理解できる。確かに巨大だ。
 だがこの船で何をする。どこへ行く。
 新大陸を探しに行くコロンブスか。
 それとも現代に相応しく宇宙の大海へ乗り出すのか。
 ……まさか。いや、まさか。
 と、船の陰から人の姿。そういえば王女様自らがお出迎えと。
「お待ちしておりました。メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下」
 冴えた英語に顔を向けると、〝成人の姉〟というイメージを抱かせる、白装束の若い女性がそこに立っていた。
 それは確かこの国の正装と聞いた。アラブ系の民族衣装に起源を持ち、ギリシャ~ローマ系のtoga(トガ)と混交した末の一枚布。
 まるで女神。王女が纏うに相応しい。
 ウェーブの掛かったブラウンの髪、若く静謐な面持ち、自分の姿をブラウンの瞳に収めて微笑む。

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 その国籍不明のミステリアスは。
「アルゴ・ムーンライト・プロジェクトへようこそ。お願いに快諾下さり感謝の念に堪えません。わたくしは当プロジェクトにおいてコールサインを〝セレネ〟。あなた様のコールサインはいかが致しましょう」
 ……考えて来い、のこと。
「あ、では、レムリアで」
「幻の大陸ですね。ではようこそレムリア、私たちの船へ。中にあなたの部屋があります」
 微笑みで招かれると、船の左舷、胴体部に縦方向のスリットが入った。
 そこが動いて口を開くと知った。真の船であれば喫水線の下であり、すなわち、普通の水面を行く船ではない。
 出入り口であるようだ。四角く切り取られ、一段奥へ引っ込み、右方へスライドして開いて行く。
 同時に、開いたその口の下から、プレートが舌出すように出現し、斜めに伸びて床に接し、スロープを形成する。ご丁寧にもその両脇にポールが立ち上がってロープの手すりも付いた。それこそ、港から船に乗るかの如く。
 常識を超越した事態が、今目の前で進行していることをレムリアは意識した。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -04-

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“生徒相談室”は職員室と教頭室の間にあり、廊下を通らず職員室から直接出入りできる。職員室を端まで進んで引き戸の鍵を開ける。
「学年跨いで知られてんだな君は」
「トラブルメーカーですので」
 森本が鍵をガチャガチャする間そんなやりとり……鍵は回ったがドアが開かない。
「あれ?あまり使わないからなぁ」
 姫子は森本の傍から手を出して鍵穴を指でなぞった。
「はっはっは。なんだそれは。おまじないかね?……開いた!」
 何の抵抗もなくカラカラ開いた引き戸に森本は目を白黒。実際のところ“おまじない”そのものなのだが、こちとら時間を割いてここに来ているわけで単なる時短。
「まぁ、いいや。入って」
 中は表皮が劣化してひび割れだらけの皮製ソファとテーブルの応接セット。前回使った時もホコリをかぶっていたが、今日も然り。誰も掃除しないのか。森本が明かりを付ける間に後ろ手で引き戸を閉める。
「座ってくれ」
 促され、ハンカチを取り出して座面を拭って腰を下ろす。
 他方森本は構わずドスン。恰幅に見合った圧力で埃がもうもうと舞い上がる。
「けほ……」
「おお、すまんすまん。いやあ突然呼び立ててすまんね」
「みんなからは、呼び出し居残りシゴキ特訓ではないかと心配されています」
「はっはっは。そんなことはない……ただ、正直もっと面倒かもしれん」
「え?」
 森本は急に表情を曇らせた。それは姫子にとって意外な反応で、コトの深刻さと、“本当に困っているのだ”という認識を強くさせた。
 森本はタブレット型の端末を取り出すと、液晶画面に少女の画像を映し出した。
「ウチの生徒で森宮もりみやのばら、というんだが、知らんよなぁ」
「ええ、はい」
 写真はどうやら生徒手帳に貼り付けるために提出されたものを、端末に取り込んだようだ。“写真の写真”は概してノイズが増えて不鮮明だが、それでも表情や肌の色、髪の毛の様子から、のばら、なる娘の概況がうっすら判る。まず、つまらなそうな表情は“学校”に対する悲観的な意識を匂わせ、髪の毛は三つ編みお下げの“ツインテール”だが、所々枝毛が見え、手入れが不足し、恐らく“自分で”編んでいる。それは大事な身分証明の写真なのに、親の世話を受けている気配が無い。顔色はミドルティーンの娘にしては艶や張りが感じられず沈んだ色合い。それは色黒という書き方あろうが、太陽ガン浴びで色黒の自分と違う、栄養不良の気配。
「あの、いいか?」
 森本はじっと写真を見ている姫子に怪訝な顔をした。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -027-

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 彼女はオリエンタリスを手に衆目に一礼し、馬車に乗り込む。この瞬間、この花一輪の効果の程がどれだけ大輪か。ジェフ列車長、ありがとう。
「今しばらく」
 ハロルド氏は告げて馬車の戸を閉じ、荷物もろとも御者席に上がった。
 ひと鞭。
 駅前の通りを馬車が行く。
 カメラと、指さす手と、どよめきに彼女は笑顔で手を振る。
 石畳の街路は王宮までの半マイル余を真っ直ぐ伸びる。奥手は若干の勾配を持ち、山を背に広大な敷地を有するコルキス王宮へ向かい、その正面城門へ至る。
 門扉の係が二人いて、馬車の接近に合わせて扉を左右に大きく開く。
 蹄鉄が石をリズミカルに叩く音を響かせ、馬車は王宮敷地へと入る。
 芝生の庭園を緩やかに巡り、王宮車寄せに馬車は止まった。
 ハロルド氏が馬車の扉を開き、伸べられた手に手を預け、彼女は馬車から大理石の玄関へ降り立つ。
「奥へどうぞ」
 総大理石の城が彼女を迎える。玄関ホールは吹き抜けの円形であり、両側に丸みに沿って階段が設えられ、中央には遥か高みからシャンデリアが下がる。
 ホール床面には奥へ向かって赤いカーペットが一直線。
 先導されカーペットをゆっくり行く。
 正面そのまま行けば、それこそ舞踏会など開くための大ホールが見える。傍らに説明用のプレートが立っており、普段は一般観光客がここを歩くと推定される。
 しかし、今は自分以外に人の姿はなく、カーペットもホールへ向かわず、途中で左方に曲がり、エジプト王墓の偽扉に似た大理石のレリーフに至った。
 ハロルド氏がレリーフの石に手をする。隠し扉の類であろう。〝自宅〟にもこの手のカラクリは十指を下らない。
 果たして偽扉は左右に開いた。ただし中は時空を飛び越え現代エレベータのイメージ。
「お乗り下さい」
 本当にエレベータであるらしい。中は見慣れた篭のデザインだ。右手に操作ボタンと階層表示。天面近くに現在位置を表示する棒グラフ型のインジケータ。
 それは豪奢な城に似合わず機能優先の意匠である。素っ気ないと言って良いほどで、乗ってきた寝台車と対極に位置する。どちらかというと大学や、企業の研究所(ラボ)の類を思わせる。ここが実は国の先端研究所、だったなら理解できるが。
 え?
 ハロルド氏は彼女の荷物を篭の中へ運び込み。
「さて姫様。申し訳ありませんが、わたくしはこれより先に足を踏み入れる権限を有しません。殿下お一人となってしまいますが、降りた先で王女殿下がお待ちの手はずです」
「え……」
 ちょっと心細くなるというか、王族として迎えられる場合、ひとりぼっちにされることは基本的に無い。
 ただ、ここへ来た趣旨を彼女は思い返す。EFMMでは姫と呼ばれこそするが、現場で何に手を出すかは個々の判断であり、単独行動も当たり前。
 ここで切り替えろということか。
「判りました。ありがとうございました」
 彼女が答えると、ハロルド氏はボタンを押し、ケージ外へ出、恭しく頭を下げたまま、扉が閉まって見えなくなった。
 エレベータが動き出す。感じるベクトルは下方である。城の地下へ向かってエレベータは加速して行く。
 地下に何か設えたのだろう。大規模な救助プロジェクト。
 そのための施設が地下にある。
 エレベータは風切り音を立て、恐らく高速で降下し続ける。米国のシアーズタワー、或いはエンパイアステートビルディング級の長さである。日本的な書き方をすれば大深度地下と言えるか。天面近くの位置グラフが左へ左へ動いて行く。
 ブレーキが掛かった。
 減速し、応じたGを身体に感じ、Gが小さくなり、抜け。
 着床したらしくドア上にランプが点る。
 扉が開く。
 彼女は息を呑む。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -026-

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 オリエンタリス。純白の紙に包まれ、ピンクのリボンを巻かれた窓際の花。
「どうぞ。花はあなたが手にしてこそ相応しい」
 くすぐったい。されど。
「ありがとう」
 彼女は姫の笑顔で小さな花を受け取った。
 花一輪。手にして降り立つ王宮の駅。
 ジェフ氏がLx寝台車乗降ステップに身を戻し、機関車に向かって手をし、機関車が短く汽笛を返して列車が流れ出す。
「さよなら~」
「お姫様、いつかまたどこかで」
「ええ、きっと」
 出会いがあれば別れがある。彼女は加速して行く列車を、人々の一人一人に目を合わせながら見送る。
 ヴィンテージな客車群を率いる新鋭のパワーエレクトロニクスが唸りを上げ、登坂路へ向け力行を開始する。列車はホームを離れ、カーブを切って、そそり立つ山の方へと向かう。その姿が見えなくなるまで彼女は手を振る。
 レールを伝って聞こえてきた、リズミカルな響きが去った。
 壁のように周囲を囲う雪の山々と、冷涼にして峻厳な空気。標高は1200メートルほど。

Lemuria1
 気がつけば結構寒いではないか。彼女はコートの前を併せた。列車の温度がいかに外気に応じたきめ細かいコントロールがなされていたか、良く判った。
「お風邪を召されます。こちらへ」
「ありがとうございます。お世話になります」
 ハロルド氏に先導されプラットホームを歩き、線路を渡って駅建屋へ向かう。建屋と言ってもホームの規模が規模であるから、応じた重厚な趣。美術館の別館か、それこそ賓客のインビテーション・ホールとしても通用しよう。
 コルキス・インターナショナル・ステーション。
 駅長の敬礼を受け、石畳の駅前広場へ出ると、尻尾で身体を拭う白馬が四頭。
 馬車。カボチャが化けた物ではないが、白い球形をモチーフ。
 そして、馬の背の向こうに広がる光景は、文字通りおとぎの国。
 健康回復が主題であるため排気ガスを筆頭に〝有害〟な近代科学文明の産物は極力廃しているのがコルキスである。結果400年前の中世雰囲気がそのまま残っており、これを観光目的に訪れる者も少なくない。当然、クルマを始めエンジン付き動力車は乗り入れ禁止で、緊急車両も電気自動車という徹底ぶりだ。最も、駅前町並みで生活用品の全てが揃い、国のサイズがサイズであるから、エネルギ消費の多いパーソナル移動手段は不要ではある。
 馬車の周囲は既に多数の観光客に囲まれている。おとぎの国の豪奢な馬車に、乗られるお方はどなた様?そんな所であろうか、興味津々の衆目の中へと彼女は歩み出す。
 執事を伴い花咲くような少女が現れ、その姿に感嘆とどよめきが観光客から上がる。通りがかって事態に気付いた他の観光客、恐らく住人までが住居を出て集まってくる。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -025-

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 ドアノック。ジェフ氏の迎えだ。
「お世話になりました」
「ご利用ありがとうございました。この先あなた様がお見えにならないかと思うと、私の人生は永遠のトンネルのようです」
 ジェフ氏はお上手を言い、彼女の荷物を手にし、主なき部屋の花瓶を引き上げる。
 荷物を引き、花を片手に通路を先導。
「また、乗りに来ますから」
 彼女はジェフ氏の背中に言った。
「え……」
 それはジェフ氏に予想外だったようで、立ち止まって目をきょとん。
 この列車は一般観光客向けに走行している他の〝復古オリエント急行〟と性格が異なる。乗車するには列車丸ごとチャーターする必要がある。
「必ず。王女の権限で」
 レムリアは付け加えた。
 するとジェフ氏が笑顔に変わる。
「……あ、はい。是非に。その際は列車長はジェフでとご指定下さい」
「ええもちろん」
 車端ドア前に二人が達し、列車はブレーキを軽くきしらせ、そして、ドアが赤絨毯の前にピタリと止まる。
「ほら、列車もあなた様とのお別れを悲しんで泣いていますよ」
 ジェフ氏のお上手を聞きながら、楕円のドアガラスの向こうで、シルクハットの男性が恭しく一礼。
 王族を運び、送り、迎える。こういうのが保守本流〝オリエント急行の仕事〟なのだろう。ジェフ氏が金ノブのドアを開き、荷物を持って先に降りる。
 プラットホームのシルクハットに敬礼。
「リバイバル・オステンデ・ウィーン・オリエントエクスプレス列車長ジェフ・サマーサイドであります。メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下にあらせられましては、午前10時43分、定刻通りコルキス王国国際駅へ到着であります。こちらが殿下のお手荷物であります」
「ご苦労様でした。これより先、王宮までの案内はわたくしハロルド・シュワルツ・フライヴが承ります」
 シルクハットの紳士ハロルド氏はやんわりしたキングス・イングリッシュで一礼し、荷物を引き受けた。
 以下原語は英語である。邦訳済みであると解されたい。
「では殿下」
「はい」
 手を持たれてステップを降り、プラットホームへ。
 連なる号車の窓から、一夜の舞踏会を共にした皆さん。
「ありがとうございました。おかげでとても楽しい一夜でした」
 レムリアは窓から見ている人々に王女の会釈。
 やんやの拍手。すると。
「姫様、ハロルド様。30秒お待ちいただけますか」
 ジェフ氏が言い、訊いたわりには返事を待たず、Lx寝台車へとって返す。
 乗降ドア脇はミニキッチンであり、お茶を淹れたりケーキをスライス程度は出来る。小窓があり、ジェフ氏がそこでアレコレしているのが見える。
「このくらいしかできませんが」
 戻ってきたジェフ氏の手には小さな花束。いや、一輪であるから〝束〟ではないか。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -024-

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「おはようございます。朝食です。レストランクルーの賄いですが、スクランブルエッグをお付けしました」
 焼きたてパンに濃いコーヒー。そこに追加でタマゴ料理。ちょっとオーストリア風というところか。
 コンパートメントの小さなテーブルは、運ばれたプレートとカップで一杯になり、オリエンタリスは洗面台へ一旦避難。
 観光組に見送られて列車はザルツブルクを離れ、ドナウ川に沿ってウィーンへ向かう。朝食の片付けとベッド解体の間、サロン車に顔を出す。
 ロシアンティーを頂きながら、いろんな国の人たちとお喋り。勿論、姫としてのガイコーで同じようなことはするのだが、フランクの体でも実質フォーマルなのがコッカ間のやりとり。対して。
「姫様と言うより普通の女の子」
 南アフリカから、という女性はこう評した。同じ列車で一夜を過ごした〝仲間同士〟の気の置けない感じがこのサロンには花咲く。往事華やかなりし時代もそうだったのだろうか。
 ウィーンでさらに観光組が大挙下車。乗客はケルン発車時のおよそ四分の一となり、列車は東欧圏へ進路を取る。陽が高くなり、線路沿いには見物目的であろう、カメラの類を持ち、こちらに手を振る人々がチラホラ。
 そろそろ下車の準備だ。
 コンパートメントに戻って最後のお茶を頂き、荷物をまとめる。
 停車のアナウンス。本来的にはスチュワードが担当客の下車駅を把握して個々に案内しており、一斉放送は行わない。
 行うのは異常かイベントであるが、聞こえてきたのは『皆様名残惜しいことですが列車の花とここでお別れです』しかも英語とドイツ語、フランス語で。
 大げさですってば。
 カーブを曲がり、山並みの向こうに白い城壁が見えてくる。
 コルキス王国。
 お城と城下の街並。それだけで成り立つ極めて小さな独立国家である。国の敷地の半分が王宮、一割がコルキスの駅構内。すなわち〝国民〟が住むのは全体の四割。福祉と疾病対策研究を国是とし、各種の治療装置や新しい手術技法の開発で知られる。そうした経緯から王宮に病院が併設。篤志家の付託で国家の規模もあって食い扶持には困らないそう。
 カーブ途中より列車が速度を落とし始め、幾重もの転轍機で線路が左右に開いて輻輳し、大きなドームに覆われたプラットホームへ進入する。国の規模に比してアンバランスな大きさの駅だが、王宮の前にこぢんまり、ではサマになるまい。それと判らないくらい、緩やかに減速し、ゆっくりとホームに入る。2号車停車位置には赤絨毯が敷かれ、シルクハットの紳士が一人。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -69-

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 キーを回してエンジンを始動する。威勢良く回って……と思いきや、すぐに回転が不安定になり、プスプスガクガクとなり、そして止まった。
「エグゾースト系が詰まってる感じだな……いつも路駐かい?」
「今日はそうみたい」
「なるほど」
 マサは頷くと、クルマを降り、後ろへ回った。
 排気管を覗き込む。彼の車では竹槍化されている部分だ。
 手を突っ込む。
「やっぱりだ」
 彼は言い、排気管から何やら薄汚れたシロモノをズルズル引っ張り出した。
 ボロ布。
「これを突っ込まれてエンジン不完全燃焼。イタズラだな」
 マサは結論した。
「……その防止で装甲馬車のはこういう長い」
「俺らのは違うけどな……」
 マサは苦笑し、再度エンジンテストを行った。
 今度はしっかり回り、母親がエンジンの復調に気付く。
「これを突っ込まれたせいだって。路駐もほどほどに」
 理絵子は路上のボロ布を指し示した。放置しておくのもアレなので門扉の内側に。
「あらそう……ああ、どうもありがとね。お兄さん」
 母親はマサに簡潔な礼を述べた。
「いえ。あの、じゃぁ、もういいかな。やっぱりこう警察さんと関わりのあるところはなんだか……」
「後ろめたいことあるなら父が相談に乗りますが?……」
「勘弁してよりえちゃん」
 嘘か本気か、マサは両手を“不要”とばかり左右に振り、首まで振って拒絶し、苦笑した。
「うそうそ。今日はどうもありがとう」
「いいってこって。じゃぁね」
 マサは、やや急いでいる風に見える動きで、米国製装甲馬車に乗り込み、爆音を立てて去った。
「寒いんだから中入ろうよ」
 理絵子はおばさん二人を促し、家へ押し込んだ。
 担任を客間に通す。着の身着のままなので、母親がジャージやらスウェットやら着衣を幾つか用意。
「もう何と申し上げて良いやら」
 担任は座して手を揃えた。
「お礼ご遠慮はお控え願いたく。今、先生に必要なのは、娘も申しております通り、安心と睡眠かと存じます。どうかお気兼ねなく。お茶を用意致しますので、お着替えになったら部屋を出てより左手へどうぞ」

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -023-

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 非常用のステップを出してもらって2号車出入り台から自分のコンパートメントへ戻る。ベッドメイキングが完了しており、夜間用の青い電球が小さく点っている。
 列車が出発する。遅れを取り戻すためか若干飛ばし気味。
 パジャマに着替え、据え付けのガウンを羽織ったところでドアノック。
「はい」
 開くと、ジェフ氏とサロン車のチーフ。
「この度は私どもの方で対処すべき所、こともあろうに姫様にお手間を」
「看護師ですから。それよりも私がもう一瞬早く気付けば」
 すると、ジェフ列車長は『信じられない』とばかりに、口をアルファベットの〝o〟の字に開いて見せ、胸元で両手を重ね、首を左右に振った。
「なんという責任感の強いお方でおられるのだろう。おお神よ、この姫君は、まこと天より遣わされた聖なる姫君ではありますまいか」
 跪いて十字を切り、両手を組んで祈るように。
 その一連の動作と言葉は、あまりにも、あまりにもなオーバーアクション。
 しかし、それはジェフ氏の純粋な気持ちの表れなのだとレムリアは理解した。1回きりのスペシャルクルーズ。列車長である彼にとって、乗客の快適な旅が途切れることは任務失敗。
「殿下のおかげさまをもちまして、少々の遅れのみで済みました。わたくしからもお礼を申し上げたく」
 ジェフ氏の代わりといった具合で、サロンのチーフが冷静に加えた。
 そして、二人して見つめられる。
 姫様としては。
 ここはスマートな答礼で応じるのが〝王道〟であろう。
「確かこの列車は中から手紙が出せるんですよね」
「ええ、はい」
「ではキームゼーの病院へ送りたく思います。レターセットをお願いできますか」
 ちょっと澄まして。
「かしこまりました」
「すぐお持ちします」
 テーブルでオリエンタリスに見つめられながら、万年筆を走らせて封筒に収め、蝋を垂らし、アルフェラッツの印で封じる。これでオリエント急行発の消印が押されて病院へ届く。
「これを列車発で」
「確かにお預かりいたします」

 夜明け前に列車はザルツブルクへと到着した。
 臨時列車である故の時間調整なのだが、生かしてそのまま駅で朝を迎えようという演出である。ドイツで眠りにつき、目覚めるとモーツァルトの生まれた街というわけだ。乗客はホテルの朝よろしく街並を眺めながら車中で朝食。供されるのは街の店から列車に届いた出来たてパンだ。ここからは下車客があり、降りて観光する組と、先へ乗る組とに分かれる。ちなみに、彼女の乗る2号車は彼女のみが乗客であって、乗り降りの動きはない。但し、彼女は、Lx寝台車が一輛丸ごと彼女の占有であることを知らない。
 観光組が降りた頃、ドアがノックされてジェフ氏。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -022-

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 町の名はプリーン・アム・キームゼー(Prien am Chiemsee)。〝バイエルンの海〟と呼ばれるキーム湖畔の町だ。
 列車はやがて減速し、汽笛一つを伴い駅構内に進入し、身をくねらせ転線し、小ぶりなプラットホームに滑り込む。ホーム上では駅係員と、レムリアが手配したこの地の総合病院スタッフが待機。寝台下に医療器具を満載したストレッチャー(キャスター付きベッド)が見える。
 機関士が技巧を発揮し、バーサロン車出入り台を病院スタッフの前にピタリと止める。最も、オリエント急行は王侯を運んでいた列車。超一級の機関士でなければ運転が許されない。電子制御の現代をしてこの程度は当然、であろう。
 列車長ジェフ氏が車端に向かい、ドアが開かれる。人の声がし、冬の夜気と共にスタッフが乗り込んで来る。
「Bitte kommen hier.」(こっちへ来て下さい)
「Ich gehe sofort.」(すぐ向かう)
 スタッフは車端からソファまでの僅かな距離をも走り、婦人に呼吸器と心電図装置を装着した。搬出は車輛出入り台が狭く担架が使えないため、シーツに婦人を乗せ、四人で抱えて移動とした。
「ごめん……ごめんなさいね……」
 婦人はレムリアの手を握り、涙を流した。
「折角のあなたの旅行を……汚してしまった……」
「いいえ、ひととき姫の時間が過ごせて幸せでした。この地は温泉が湧いていてクアハウスがあります。ゆっくり養生なさって下さい。後でまたお見舞いに参ります」
 本当は降りて付いて行きたいが、病院の規模からして充分であるし、
 行く手に待つ物が重い。列車と、それらを、自分の都合で投げ出すわけにも行かぬ。
 病院スタッフに託す。ストレッチャーに移す間にスタッフに概況を説明する。
「判りました。後は我々で」
「必ずまた伺います」
 レムリアの声に、奥様は片手を上げて応え、ストレッチャーに乗って去った。
 傍らでジェフ氏が奥様の物と思われる荷物を駅係員に渡している。
 荷物のタグに何事か書き込み、病院スタッフを見送る。
 駅の向こうへ救急車が走り去るのを確認すると、ジェフ氏はレムリアに目を向けた。
「姫、ドレスは如何致しますか?こちらでクリーニングを依頼して、後で届けさせることも可能ですが」
「いいえ、お手間を取らせるつもりはありません。持って行きます」
「判りました。ただせめて納める袋くらいは用意させて下さい。このままプラットホームよりキャビンの方へご案内いたします」
 ジェフ氏が懐中電灯を点し、足下を照らしてくれ、プラットホームを外れた2号車まで、砂利上を歩く。汚れた服で動くホテルを歩くわけにも行くまい。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -021-

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 バーテンダー氏のトランシーバが何事か。
「ああ、僕が代わります」
 出るに出られぬバーテンダー氏に、舞踏会を眺めていたタキシードの男性が挙手し、ソファを立った。
 バーテンダー氏とマッサージを代わる。こういう場合の知識手段の所有率、行動へ移す実行力は、一般に欧州では高く大きい。
 バーテンダー氏は無線機を耳にして唇を噛んだ。
「姫様、残念ながらお医者様は……今列車長が参ります」
 言葉から程なく、担架抱えたジェフ氏と、シーツにタオルを持ったサロンのチーフ。
「ひ、姫様一体何が!?」
 列車長……他ならぬジェフ氏は、驚きながらそれでも担架をカーペットの上に据えた。
「医師の処置が必要です。どこかに列車を止めて……」
「了解いたしました。ただあの申し訳ありません。列車はローゼンハイムを通過しましたので、この次緊急事態契約を結んでいる病院は国境を越えてザルツブルクに……」
「間近の小駅で構いません。私の方で病院と緊急輸送の手配は出来ます。駅に停車の手配だけを。イン川は渡りましたか?」
「承知しました。川はだいぶ前に過ぎています」
「どなたか申し訳ありません。人工呼吸の心得のある方は」
 サロン内に声を出すと、サロンのチーフが彼女の元へ。
「私がやりましょう」
「お願いします」
 彼女は婦人を二人に託し、窓際に向かい、ナイトドレスの下、ウェストポーチから、軍用無線機に近似の機械を取り出す。
 衛星携帯電話。
 発呼した先はEFMMの本部。
「メディアです。列車で移動中急病人です。列車は今、ローゼンハイムからザルツブルクへ向かって走っており、イン川を通過。近場の病院に事態の照会と救急車の手配を願えますか?……はい」
 レムリアは本部の回答を得、ジェフ氏に目を向ける。
「ジェフ列車長、キームゼーに止められますか?」
「あの湖の真ん中に城のある……」
「そうです」
「間に合います。了解しました」
 ジェフ氏が制服の裾下からトランシーバを取り出す。
 他方、レムリアはキームゼー停車可能とEFMMに伝える。
 電話から了解の声が返る。病院からクルマを差し向けるとの由。
「判りました。ではその駅に臨時のオリエント急行が入りますと手配を」
 背後で激しく咳き込む声。
「姫様。ご婦人が息を吹き返された!」
「はい、今すぐ」
 列車は夜の鉄路を征く速度を上げた。それは往年の超特急が蘇った如くであった。
 揺れは若干増えた。しかし高速列車としての実績は安心感の内にあった。
 任務得ての疾走。豪奢なサロンのソファを集め、臨時のベッドとする。
「間もなく、間もなくですから」
 ジェフ列車長が地図を持ってきた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -03-

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「はっはっは!本当に面白いねあなたは。嫌なら断っておこうか?」
「いえ、今後も顔を合わせるわけでその都度気まずいですし、別の誰かがターゲットにされたら」
 すると、奈良井は小さくフッと息をつき、笑みを作った。
「あなたは、誰かのために動いてくれる子ね」
「そんな大袈裟な。断って別の誰かが押し付けられたら恨みを買うの自分ですもん」
 言って気がつく。だから彼奴は皆前で言ったのか。森本おんどりゃあ。
「まぁ、手に負えないと思ったら来て、私からも言うから」
「ありがとがんす」
 小さく吹き出す声を聞きながら教室を出る。がんす、は好きで使っているが、福島出身という諏訪に岩手の方言と教えてもらった。姫子にとって日本語は“知ってる言語のバリエーション”の一つに過ぎず、方言の存在は日本に繁く来るようになって初めて知った。他には大阪、名古屋や福岡の方言を適当に混ぜて使うのが最近のマイブーム。
 職員室のドアをコンコン。
「失礼します」
 と、引き戸をガラリと開くと、待ってましたとばかり立ち上がる恰幅体躯。差し込む西陽に整髪料と額がギラギラテカテカ。
「いやー待ってたよ来てくれないかと思ってなぁ」
 無駄に声が大きい。衆目が集まる。
 何だこの、そこはかとない恥ずかしさ。
「生徒相談室で話すよ。ついて来てくれ」
 それはどうやら一年生教員の島(執務机を学年ごと集めてあって、島と呼んでいる)に、生徒が数名いることから、聞かれては困ると考え、方針を変更したのだ、と判じた。多少なりとも個人情報を隠してあげようという配慮だろうか。すると。
「え?姫先輩?」
「やっぱ陸上やりません?」
 その数名の生徒のうち、細身の娘2人に呼び止められる。彼女姫子は小柄で華奢だが、炎天下をキロメートルの単位で走り回るということを数年間続けて来た。
 その結果、日本に帰化した時点において、並の女子生徒じゃ相手にならない韋駄天の持ち主になっていたらしく、5月の運動会で徒競走を目撃した陸上部が物凄い勢いで誘いに来た。で、この子らは一年の部員。
「ありがたいけどムリムリ。おバカだから放課後は塾に漬物」(缶詰じゃないのか姫子よ)
「えー、残念ー」
「絶対総体無双できるのに」
 総体。東京都の総合体育大会のこと。
 このやり取りに目を剥いたのは森本。
「そんなに速いのか君は」
「そうらしいです無自覚ですが」
「ほう。あ、君たちちょっと相原さんは用があるんだすまんね」
「はーい」
 会話を遮られて不承不承、彼女たちは姫子から目を外した。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -020-

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 レムリアは踊りながら婦人の手首を握って脈を診た。
 速くて浅い。貧血の兆候。つまり前者だ。
「奥様いけません……」
 ダンスを止めようと思ったが少し遅かった。
 スイッチが切れたように婦人が倒れてしまう。
 レムリアはそのまましゃがんで婦人を抱え込む。異変にピアノが途切れ、人々が何事かと覗き込む。
 婦人が嘔吐してしまう。レムリアはドレスを翻し、衆目から婦人の顔を覆い隠す。
「ごめ……ああ……」
 婦人の声が言葉にならない。貧血の故に脳の活動が下がり、事態の認識、言葉の選定、発声、その全てが遅くなり、しかも不完全。
「我慢してはいけません」
 ピアノが止まり、サロンのチーフとバーテンダー氏がカウンターの奥から飛んできた。
「気分を悪くされたようです。タオルと、シーツと、横になれる場所を」
 レムリアはチーフに言った。
「判りました」
 チーフが立ち上がり、そこでジェフ氏と出くわす。二人で何事か相談し、隣接寝台車へ。
「……ドレスを」
 婦人が膝の上で呟いた。
「あなたのドレスを汚し……」
「お気になさらず。私は看護師です。それよりも……」
 言葉を繋ごうとしたその時、婦人が意識を失った。
 バーテンダー氏曰く、婦人がサロンに来て、まずはクスリを飲む水を出したという。それは高血圧のクスリで、バーテンダー氏の母親と同じだからすぐ判ったとか。
「何か関係があるのでしょうか」
 バーテンダー氏が尋ね、レムリアは大きく頷く。高血圧で降圧剤を服用。プラス、アルコールの低血圧。
 レムリアはゾッとするものを覚えて脈に触れ、婦人の胸に耳を当てた。
 事態を罵る声。……知らぬ言語だがそうと判る。
 この状況で言うことか……声の方向に目を向けた瞬間、手のひらから心拍がなくなった。
 心停止。
「すいません。この列車にお医者様は現在おられませんか?」
 レムリアは心配そうなバーテンダー氏に向かって尋ねた。
 バーテンダー氏が制服下、ベルトのホルダーに収まったトランシーバに手を伸ばす。
 レムリアは心臓マッサージを開始する。婦人の胸元に両の手を組み合わせて乗せ、体重を掛けて押す。救急講習で教わる胸骨圧迫式きょうこつあっぱくしきしんマッサージである。
 その動作に乗客達が事態の深刻さを理解したようである。集う人々に心配が宿り、表情を曇らせる。
「姫様、僕がやりましょう」
 バーテンダー氏が代わってくれた。深酒で体調不良。応じたスキルを持っていておかしくない。
「ではお願いします。私は呼吸の方をやります。5回1回で」
 彼女は頼み、婦人の口腔内に手指を入れて吐瀉物を掻きだし、更には口で吸い出して人工呼吸。マッサージ5回に対し呼吸1回。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -019-

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 内訳は以下の通り。英仏独露、住んでいるオランダ、スペインにポルトガル、イタリーに、これは現世言語と異なるがラテン、後はギリシャ、アラビア、そして、日本語。
 EFMMで活動する分には、英語、及び、医学用語にチラホラ見られるドイツ語が判れば充分である。しかし、彼女はその活動先で現地の、特に子どもとお喋りできればと、多くの言語を身につけた。それぞれ選択の理由は、第一に多く使われていること、そして過去、植民地支配を展開した列強の言語。
 EFMMのような団体を必要とする国の多くが、そうした列強支配によって搾取され、その故に経済発展が遅れたという背景があるからだ。
 不安と背中合わせの子ども達と、せめて笑顔で会話できたら。……最も、それよりも外交的に役立つ方が、今のところは多いのだが。
 ただ、中で日本語を選んだ理由は他と異なる。その国だけでしか使われていない。にも関わらず獲得した背景には、少し書いたが、顔立ちから来るかの国に対する親近感。および。
 平和な国であるから。
 のほほんとしすぎ、という悪口を書くメディアもある。でも、本当はそれが人間のあるべき姿、というのが彼女の信念。また、それは災害や戦役の現場と逆であり、だからこそ学ぶ内容がある。そんな気がする。
 しかし、EFMMの主旨からして、当然、行ったことはない。
 その東京行きオリエント急行に自分が乗れれば良かったのに(作者註・当時の旅費400万円)。
 ロンドが終わった。
 リヒテンシュタインからという顎髭の男性が恭しく会釈して下がり、代わりの踊り手は先のご婦人。
「ああ、やっと私の番ね」
 手を合わせてワルツ。
「舞踏会で……子どもの頃からの夢だったのよ……」
 婦人は目元輝かせて車内を舞った。
「素敵な王子様でなくて申し訳ないんですけど」
 彼女ははにかんでそう返す。
「いいえ、素敵な王子様と踊るならどんなお話にも出てくるの。おばあさんがお姫様と踊れるなんてお話は無いじゃない。それはもっと、とっても素敵で凄いこと……」
 そこで婦人に異変が生じたことに彼女レムリアは気付いた。
「ああ飲み過ぎてしまったかしら……」
 アルコールを召し上がって、踊る。
 一般にアルコールを摂取すると、まずは血管が拡張し、結果血圧が下がる。
 その後、ミネラル分が排出され血管が収縮するため、血圧は上がる。
 運動するという行為は、多くの血液を筋肉に必要とする。このため、血圧が下がる時間帯では貧血を誘発し、上がる時間帯では更に高血圧を招く。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -018-

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 コーヒーカップが空になった。美味しかった。
「姫君」
 レストランチーフがサロン車のチーフを伴い、テーブルの傍らに。
「très bien」(トレビアン)
 彼女はまずレストランチーフに一言。訊かれて初めて答える……では失礼な味だろう。
 そして形容詞をつけたり、個々に細かく説明しなくても、これだけで良いはず。
 王女が言うのだから。
「ありがとうございます。我々一同にこの上なくありがたきお言葉賜りました。つきましては、お食事がお済みでしたら、こちらサロン車よりご招待があるとか」
「はい、そうです」
 サロンのチーフがまずは一礼。
「お集まりのお客様方が、殿下とのダンスを望んでおられまして」
 つまり、舞踏会。
 列車の中で舞踏会。
「喜んで」
 彼女は笑顔で応じた。
(作者註・ディナーのメニューは「オリエント急行」【教育社・1985年】を参考にした)

 彼女の故国、アルフェラッツ王国はアルプス東方、欧亜境界に位置する小国である。
 王家の血統は東アジアの系を引くが、住民の出自や言語文化は欧州側に属した。
 従い、魔法というのは欧州サイドの捉え方〝マジック〟に由来するが、実際的には東洋的シャーマニズムに分類される。欧州は古来諸公国が乱立し、覇を競ったが、アルフェラッツはあくまで中立を守り、むしろ仲裁と安定を請け負う役を担った。平和裏に解決、そのために魔法を求められ、外貨を得て生業とした。
 その特異性は畏怖の対象であったようで、攻め滅ぼし我が国の領土に、と考えた国は歴史にない。それが現代まで二度の世界大戦を越えて同国を存在せしめた。或いはそれこそ魔法の効能と評する向きもある。
 ただ所詮、端境の辺境。
 科学技術文明と巨大産業の発展により、小国の生業は二十世紀以降おとぎ話に封じられた。
 国はそのおとぎ話の故に、観光収入をようやくの糧とし、古来の貯蓄を取り崩して体面を保っている、というのが正直なところである。魔法の国のお姫様というイメージにはほど遠い。
 しかし、しかし。
 その夜は違った。彼女はソファが片付けられた急ごしらえの〝ダンスフロア〟で多く異国の人々とステップを踏んだ。
 それこそ、王女の仕事であった。
 列車の性格上、サロン車の人々は多国籍であった。
 都度、彼女は言語を変え会話を楽しんだ。次々繰り出される異国の言葉に、人々は非常な瞠目を示した。
「殿下は一体いくつの言葉を」
「12です」
 集った上流階級が大きくどよめく。大体、この列車に乗ってくるような地位の人々は、母国語以外に英語位は当然で、フランス語あたりを〝たしなむ〟場合が多いだろう。12という数は、そんな人々ですら大いに驚かせた。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -017-

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「お座り下さい」
 チーフ氏は椅子を引いた。
「ありがとう」
 腰を下ろす。区分けされた中というのは文字通り特別扱いであって気が引けるが、列車側の都合もあろう。
「今夜のメニューになっております」
 フレンチフルコース。
 意図せず表情が硬くなってしまう。その日の食事にすら困窮する子ども達の顔がよぎる。
 チーフは彼女の耳元に顔を寄せ。
「殿下が贅沢なお食事に抵抗をお持ちとのことは承っております。そこで質素にと考え、120年前、この列車の運転開始当初のメニューを用意いたしました」
 彼女は思わず目を見開いた。
「お気遣いさせてしまって申し訳ありません」
「とんでもない。だからこそ私どもの腕の見せ所です。さて、先ほどジェフより単品料理をお一つと密かに聞きました。どうぞカルトからお選び下さい」
 プリンセスだから、と食事を奢られるのも気が引けるが、断ったらジェフ氏のこと「おお耐え難きショック」とか言って「死んでしまう」だろう。大体、密かに丸聞こえだ。
 コースを承知し、ジェフ氏のおごりはサラダをチョイスした。どうしても肉が中心なので野菜が欲しい。ワインはあり得ないのでグレープの生ジュース。
 以下、指紋が付かぬようテーブルナプキンを介して皿が運ばれる。
 
・カキの前菜
・ポタージュスープ
・カルトのサラダ盛り合わせ
・魚のグリーンソース
・若鶏のワインソース
・牛のステーキプロヴァンス風。これに焼きたてのパンを幾つか
・デザートはビターチョコレートケーキとコーヒー
 
「これが19世紀のメニューですか」
 食後のコーヒーにミルクの渦を描きながら、彼女は尋ねた。まぁ確かに、フレンチに付きもののフォアグラは無かったし、ホテルレストランというよりは家庭料理の趣。しかし新鮮な素材をふんだんに使ったという点では贅沢といって差し支えないだろう。しかも、フレンチというと少々味がくどいという印象があったが、これは素材の良さはそのまま、まさに〝味付け〟程度であって、至極上品だ。変な話かも知れないが、同様にシンプルなデザインの皿類までも上品に見える。白地のプレートに、車体と同じブルーのラインをあしらっただけ。但しブルーのラインはよく見るとキラキラ光り、ラピスラズリの含有を感じさせる。でも、本当によく見ないと判らないほど。
 本当の贅沢とは、根本的に良い物を選ぶことと、そのために手間暇を惜しまないことであって、過剰な演出で見せかけを飾ることではない……どこかで聞いたそのままだ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -68-

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 マサがシートを戻し、座り込み、ドアを閉める。
「行きますぜ」
「はい」
 下から腹に突き上げてくるような野太い音と共にクルマが動き出す。音ばかりハデでモッサリした挙動は、住職氏のクルマと対極にあると言ってよく、上下にゆさゆさ揺れてその割にゴツゴツと骨盤に来る。
 ただ、マサは“たこぶえ”のアイドル(?)たる理絵子を乗せているせいか、音の割には極めてジェントルに走り、坂の奥にある理絵子の家に無事到着した。
 家の前の道には母親の車が止めてあり、玄関脇、車庫のシャッターの前に母親が立っている。
「ああお母様、こりゃどうも」
 マサがペコペコ。彼にも父親に“世話”になった過去があるようだ。
「今降ろしますんで」
 マサは先に降り、シートを倒した。
「優子ちゃんから陸軍装甲車が来るからと言われて待ってました。アメリカ製で旭日旗とは恐れ入ったわ」
 母親は腕組みして論評した。
「あの……」
 降車した担任が恐縮そうに頭を下げる。
「あ、先生お待ち申し上げておりました。いつも理絵子がお世話になっております」
「いえこちらこそ。今回はもう何と申し上げて良いやら。理絵子さんは立派なセラピストですわ」
 大人の挨拶から、数秒でおばさん同士のおしゃべりにシフト。
 終わるのを待ってられない。
 と、理絵子は母親の言ったクルマの一件を思い出した。
「マサさんクルマ詳しい?」
「ある程度なら」
「ついでで申し訳ないんだけど、うちのクルマ、エンジン掛けてもすぐ止まるらしいんだ。見てもらうと助かる」
「おうよ」
「お母さんクルマのカギ」
 が、母親はおしゃべりに夢中。……母親に担任を任せるとした自分の判断は正解かも知れないが、まだちょっと待って。
「ええもうですからヒヤヒヤ……え?理絵子何?」
「クルマ見てもらうからカギを」
「ああはいはい」
 母親はおしゃべりを再開しながら、理絵子にカギだけ寄越した。
 理絵子はカギをマサに渡し、マサが母親の国産小型車の運転席に入る。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -016-

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 レムリア……この場だけは王女メディアと書こう、彼女は歓迎に会釈しながら、サロンの光の中へ。
 正装……クローゼットから彼女が選んできたそれは、深いブルーのイブニングドレス。
 裾を持ち上げ、舞うように踊らせ、彼女はグランドピアノ脇をすり抜ける。
 その青は、この列車がまとう、夜明け前の空の色と同じ青。むろん単なる好みであって、意識して故国から持ってきたわけではない。今宵の一致は偶然の悪戯。
 窓越しの月光が彼女を照らし、その故か、ピアニストが一礼して鍵盤に指を立てる。
 ベートーベン〝月光〟。
 旋律に合わせて彼女はカーペットの上を一歩ずつ行く。左右窓際に配されたソファセットから拍手とため息が自分を迎え、そして送る。
「まぁ……本当にプリンセスでいらしたのね」
 それはアムステルダム待合いで声を掛けて下さったご婦人。
「メディアと申します」
 淑女の挨拶。
「まぁ……まぁまぁ……可愛らしくてお綺麗で……何てことでしょう。ため息しか出ませんわ……」
「ありがとうございます」
 婦人は涙すら浮かべて感激してくれた。文字通りのセレブレーションセレモニー。列車側の演出なのであろうが、他の皆様が喜んで頂いているならそれで良い。
「また後でいらしてね」
 誘いの言葉に頷いて応じ、隣接レストランカーに導かれる。手前が厨房であり、過ぎて中央に通路があって左右にテーブル。右側は4人掛け、左側は2人掛けが6セットずつ。純白のクロスにテーブルランプ。窓際で揺れるその赤いシェードが印象的。ただ、椅子の数一杯に座ったテーブルはなく、やや余裕を持って白いプレートとグラスが並ぶ。それらテーブルに着いた人々も、隣接サロン車の拍手とざわめきは気になっていたようであり、全員の目が自分に集まる。
 自然と拍手。思わず照れたら、より好感を持たれたようで更に拍手。
「プリンセスをお願いいたします」
 ジェフ氏が口ひげを蓄えたレストランチーフに一礼。
「カルトを何か私のおごりで」
 一言添える。
「かしこまりました。殿下、今宵は当レストラン〝エトワール・デュ・ノール(※)〟へようこそ。お席はこちらです」
 チーフはレストラン車の奥を手で示し、彼女を誘った。(※Étoile du Nord:北極星の意)
 再度注目を受けて車内を移動して行く。食器の用意された空きテーブルは幾つかあるが、案内されたのはそれらをパスして最も奥、ガラスパネルで仕切られた区分室。なお、こうした造作は本来は贅沢な一等座席車であるプルマン(Pullman)車のものだ。この列車では、プルマン車をそのままレストランカーに使用している。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -015-

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 演奏が終わったらしく拍手が聞こえる。バー車。アルコールを楽しむバーカウンターと、ソファの並ぶサロンスペースを備えた車輛。日本ではなじみが薄い車種だが、欧州の長距離列車にはよく連結されている。
 車間を渡る。そこは日本であれば蛇腹状の貫通幌に鉄板が渡してあるだけ。輸送機械としての素性が顔を出す部分である。
「少しお待ちいただけます?」
 請われて足を止める。
 この列車では、その貫通路部分もカーペット敷きであり、幌はカーテンが吊られて目隠し。客が正装なのに列車側が機能剥き出しでは興ざめというわけだ。
 まるでステージ袖で出演待機している気分。
 隣接バー車は照度の落とされたシックな光使いの空間。正面にはグランドピアノが見え、そのラウンド形状に向かい合うようにバーカウンターがしつらえてあり、間が湾曲した通路という作り。壁や天井のデザインは蔓バラがモチーフのようで、バラ園のサロンということか。
 ピアニストが自分に気づいてウィンク。
「お集まりの紳士淑女の皆さん」
 ジェフ氏がピアノの傍らからサロン室内に声を出した。
 ソファでくつろぐ紳士淑女の目が集まる。
 無粋な邪魔というよりは、イベントへの期待……そんな目線。
「往事、この列車は多くの王侯にご利用いただき、その必要の故にこのような姿となりました。その後、時と共に翼が発達、このサロンに開いた花々もことごとく空の上へと奪い去られました。しかし、今夜は違います。恐らくはこの月明かりの魔法でございましょう、我々はそんな華やかな花を一輪、空から奪い返すことに成功しました。
 この方を皆さんに紹介できます栄に浴したことは、私にとって終生の誇りであると共に、一晩の旅路をご一緒いただけることは、我々共通の栄誉でありましょう。
 ここに我々は歓迎の言葉を捧げ、皆様にご紹介いたしたいと思います。この列車は、今宵、貴女様をお待ち申し上げていたと言っても過言ではありますまい。中世以後魔女の国として知られたこの旅路遙か彼方、アルフェラッツ王国の姫君、メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下」
 ジェフ氏が言いながら差し伸べた白い手袋の上に、彼女は左手を載せ、右手ドレスの裾を持ち上げた。
 はにかみを持ってサロン車に足を踏み入れる。
 わぁ、という声が一斉に上がり、ソファの客が立ち上がり、拍手の波が広がる。
 彼女の名、メディア・ボレアリス・アルフェラッツ。
 意味するところ、代々女系で〝魔女〟の血を継ぐとされるアルフェラッツ王国のプリンセス。称号、北天の花冠。
 コルキスの王女様から直接手紙が届いた。それは、届いて当然。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -014-

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 ココン、コンというリズミカルなドアノックに、レムリアは準備できましたと応じた。
 ドアを開くとジェフ氏。
「ああこのまま死んでもいい」
 レムリアと目を合わせた氏の開口一番がそれ。
「お手をどうぞ」
 白い手袋を差し伸べる。
「はい」
 彼女は応じて左手を差し出す。エスコートされて通路へ。
 白熱電球で照明された通路は、赤いカーペットとマホガニーがいい色合いに照り返し、ゴージャスそのもの。
「蛍光灯だと興ざめでしょうね」
 レムリアは言った。
「でも世界で最初に電球照明を採用したのはオリエント急行なんですよ。それまではガス灯や蝋燭を使っていました」
 ジェフ氏は言うと、コンパートメント側の壁にある金具を指差した。
 鍵穴のフタを思わせる、花びらを模した板状の金具。ジェフ氏はくるりと回転させ、壁の中から小さな受け皿を引き出した。中心にはピンが立っており、似たような形状をした理科の実験道具を思い出させる。
 蝋燭立て。
「当時の装備です。現代の安全基準からは、当然、ここに蝋燭を立てることは出来ません。しかし、レストアに際して、できるだけ往時の姿に、というオーナーの意志から、忠実に復元しました」
 蝋燭立てを戻し、ジェフ氏の案内で再び歩き出す。
 車端に椅子と机と、机の上には花瓶。
「花があちこちに」
「ええ。ここが私の待機位置ですが、花のある職場は実に和んで良いものです」
「待機……ってここに座ってらっしゃる」
 その椅子は木材意匠こそ凝っているが、長時間座るには向かない。〝喫茶店の腰掛け〟を思わせる簡素な構造。
 運転中ここにずっと座っている。スチュワード……ホテルボーイと同じであるからそうなのであろうが。
「お疲れになりませんか?」
「お気遣いありがとうございます。今の一言でまるでアルプスの夜明けのような気分です。さ、遅れます。お料理も合わせて作っておりますので」
 促され、車両間を移動して行く。こう通路を歩いて行くと、意識したせいもあろうが、とにかく木と花と草葉が目に付く。現物のみならず、先に書いたマーケットリや飾り窓、ランプのシェードに至るまで、それは徹底されている。
 そもそもアール・ヌーボーという運動はそういう方を向いた代物だとレクチャーされた記憶はある。ただ、現物・彫刻・材質に至るまで全て統一されるとエレガントの一言だ。
 と、ピアノの音。しかもオーディオ装置越しではなく、生演奏の鮮烈さ。
「ピアノ?」
「ええそうです。お客様のおくつろぎの一助になればと、バーサロン車にて演奏しております」
 ピアノの音が次第に近づく。アムステルダム発車時より後ろまで来ているから、その車輛はオステンデの方から来たのであろう。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -02-

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「実は占いの申し込みとか」
「ルーンのイングズでも渡したら喜ぶかな?」

20250812-114133

(アングロサクソンルーン文字/Wiki)

 これに爆笑したのが男子の諏訪利一郎すわりいちろうおよび平沢進ひらさわすすむ。大方のクラスメイトはきょとん。
「え?なになに?」
「イングスって元の神様が男の妄想の最たる姿を表してんだよ」
 低いトーンの声は平沢。野球部で身長176。ゴツゴツした体型でスポーツ刈り。喉仏が目立つ。
「レディの前ではとてもとても……」
 幼さを残した声は諏訪。彼は呼吸器系の疾患がある。あまり感情の起伏を前に出さないせいか、大人しい男の子、というイメージが定着している。が、ここは唐突な性的表現の登場に失笑を禁じ得ないというところか。
「判った。ルーン文字で下ネタな意味のある奴渡してやろうかってことでしょ?」
 呆れたようにため息をつくのは女子の学級委員で菊名きくな
 冗談はこのくらいにして。
「まぁ、占い目的とは思いません。福祉活動してるのは知れ渡っているので、多分その辺のことじゃないかなとは思う。プライバシーが出てくるので皆前で言えない。だから、ただ単に“用があるから来てくれ”になった」
「あー」
 衆目、納得。
「行くの?」
「悩んでるんでしょ。話聞いて手に負えなきゃこっちのツテを紹介するまで」
「お達者で」
「ありがとがんす」
 “帰りの会”……帰宅時ホームルームを促すチャイム。

 帰りの会の終わり際、職員室へ行く前にワンテンポ、と思い、事の次第を自分の担任、奈良井ならいに話してみる。キュロットスカートの女性教諭だ。
「何か森本先生から話があったりしますか?差し支えなければ」
「あー、ひょっとして」
 奈良井はマンガのように左の人差し指を立て、自らの頬に添えるようにして。
「クラスに2年の当初からずっと馴染めない生徒がいると。奈良井のクラスに転入生が来たと思うがどうなんだと。なので、あっと言う間に誰とでも友達になれちゃうようで、今やクラスの姫様ですよと答えました」
 その指を姫子に向ける。
 彼女姫子は自らを指差し「あたし?」。
「そうあなたのこと。アドバイスが欲しいんじゃない?独身男性に年頃の女の子の心の機微を読み取れとか難しいでしょうし」
「自分のクラスに訊けばいいような気がしますが」
「できればやってる。でもそうじゃない。馴染めないってそういうことでしょ。ひと肌脱いで差し上げたら?」
「日焼けつるぺた14歳のヌードは幾らで買ってもらえますかね」
 既に半袖に変えた制服ブラウス肘の上、袖口を捲ると、日焼け線がクッキリ。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -013-

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 文字通りマンガやアニメの世界。
「ただでさえ詐称してるからねぇ」
 彼女は見つめるオリエンタリスを指先でつん、とやった。
 在籍する学校に彼女の本名を知る者はない。教えていないからだ。通信制としたが、いわゆるフリースクールで、インターネットによるリモート授業であり、たまに顔出して無事を見せろ、というシステム。なので、級友と話した回数は数えるほど。
 孤児院ではマジックもあって〝魔法使いのお姉ちゃん〟で通っている。
『魔女さんのお名前は?』
 小さな子に訊かれて、答えたのは。
「レムリア」
 Lemuria。言うまでもなく、プレートテクトニクス出現前の動物分布を説明するための仮説であり、その大胆さゆえに幻想の大陸として扱われるようになったものだ。今にして思えば、手品使いである自分と、その幻想性故のミステリアスなイメージと、どこにもない……本名を隠している自分の、根無し草のような認識とが、そう言わせたのか。
 これ以上偽名を増やしてもややこしい。慣れているレムリアでいい。彼女は決めた。その認識は何か、些細だがずっと手つかずで気になっていた仕事を一つ終えたような気分であり、ようやく落ち着いてこのソファに身を預ける気になった。
 従い以後彼女をレムリアと呼ぶ。
 気がつくとまどろんでいたようで、軽いショックに目を醒ますと列車は止まっていた。ケルンの駅で連結作業をしている。この時季欧州の日暮れは日本とあまり変わらない(4時半)が、夜明けが遅い(8時台)。
 撮影と思しきフラッシュが一斉に炊かれ、作業の完了、列車の完成を教える。陽光の去った駅の中、オステンデ発の編成を連結したチャーター便オリエント急行は、10輛編成となった。
 このヴィンテージな客車達が製造された1920年代は、機関車の能力もあって5輌6輌がせいぜいだったようだが、現代の強力な機関車は10輛なら平然と牽引する。個々が美しく仕上げられている車輛だけに、連ねることにより、その美しさは尚一層強調され、長大な編成をなした姿は壮大にして壮麗と言えた。
 程なくヘッドライトを点らせて汽笛一声、一層の歓声と閃光に見送られ列車はケルンを発つ。列車はいや増す流星雨のような夥しい閃光を浴びつつ極めてジェントルにホームを離れ、線路の入り組んだ構内を長い身くねらせゆっくり横切り、月の照らす二条の鉄路へと躍り出る。連なって月明かりの線路の上を行く姿はさながら舞い踊るかの如くであり、その様をして〝青きプリマドンナ〟と呼ばれることもある。次の停車は深夜に国境を越え、オーストリアのザルツブルク。
 ディナータイム。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -012-

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「ご用の際はこちら押して頂ければ、廊下にランプが点きまして、わたくしが参じます。ディナーは7時から。食堂車はオステンデから参ります6号車になります。時間になりましたらわたくしがお迎えに上がります」
「盛装で、ですね」
 応じたら、ジェフ氏は胸を押さえてオーバーアクション。
「迎えに上がったわたくしが感激で気絶したら介抱はお願いしますよ」
 どうやら彼らは万事お上手、である。
 ガラスポットの中で葉っぱが開き、ジェフ氏が一杯目をカップに注いでくれた。口当たりは至極まろやか。

 4

 列車はユトレヒトで黄色一色の電気機関車にバトンタッチし、目に見えて高速走行を開始した。
 オリエント〝急行〟と訳されるわけだが、その位置付けは現代日本における「快速以上、特急未満」といった中途半端なものではなく、機関車の性能と生活用水の許す限り、速度と無停車を目した、「超特急」と表現した方が正しい。文字通り可能な限りぶっ飛ばしたのである。
 その超特急性は、保存運転とはいえ、この列車の〝矜持〟としているのであろう。次の停車は国境を越えてドイツのエメリッヒ。ここで機関車をドイツのものに交換し、一足飛びにケルンへ向かう。到着は夕刻。
 車窓にはユトレヒト近郊の景色が流れる。この辺は時折来ており、改めて眺める風景ではない。しかし乗ってる列車が列車のためか、同じ風景なのにまるで映画。合理化で簡素な内装の快速電車でペットボトル片手……に比して、ソファでくつろぎジャスミンティー。あまりにも世界が違う。
 小駅を通過する。
 彼女は気付いて立ち上がり、車窓に顔を付けて手を振る。
 それはホームで手を振るたくさんの子ども達。先月訪れた孤児院の子ども達。
 彼女は毎週末、列車で行って帰れる範囲で、孤児院や小児病棟を訪問して〝楽しんで〟もらっている。類似の活動は〝ホスピタルクラウン〟として日本でも知られるが、もう少し気楽なものだ。手品は特技と言えるレベルと自覚しており、それを生かしてイベント姉ちゃん、という次第。
 その時の記憶の笑顔と、残像に見るホームの笑顔との一致を見、彼女は安堵の笑みを作る。みんな元気そうだ。
 ソファに戻り、ティーポットのお茶をつぎ足し、サービスというプチケーキに銀のフォークを載せ、さて、と揺れるオリエンタリスに目を向けた。考えておこうと思って、今の今まで決め切れていないことがあった。
『当プロジェクトでは、メンバー相互をコールサインで呼び合おうと思います。スペシャルな皆さんで構成されるスペシャルなチームです。いつもと違う自分となっていただく必要があるかと思いますので』
 これを字面通りに取ると、クラーク・ケントに対するスーパー・マンに相当する名を考えてきて、ということになる。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -011-

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 問いかけに、ジェフ氏は日本茶ウーロン茶ジャスミンティ、と答えた。
 ジャスミン。
 この洒落た空間には一番マッチするのではないか。
「承知しました。すぐ用意して参ります。お持ちした際に、こちら部屋の設備についてご説明いたしますので、お座りになってお待ち下さい」
「はい」
 ソファに腰を下ろし、窓の下にあるハンドルを回すと窓が開くらしい……と、判じたところで、長々とした汽笛が鳴った。
 発車である。
 軽いショックに、ボトルの中の水が揺れ、薄紅の花びらが微笑むように動く。
 ぐいぐいと蒸気シリンダの往復運動に伴うリズミカルな力が加えられ、列車はホームから動き出し加速を開始する。
 人々が対向ホームから手を振り、カメラを向け、列車を眺める。
 ドームの下から陽光へ向かい走り出す列車。
 彼女は席を立ち、ハンドルを回す。窓は下がって開き、上方から十二月の風と共に、〝窯〟の匂いが入り込む。
 それは確信。この旅立ちは何かが変わる、始まる、動き出す合図。
 逃げ出すように故国を離れ。籠もるように過ごしてきた日々。それが終わりを告げ、新しいステージへ移行しようとしている。
 だから、窓を開けて見送りたい。逃げていた今までと袂を分かつ時が来た。その瞬間、座してやり過ごすなんて勿体ない。
「黒髪の彼女!こっちむいて!」
 大きな声に彼女は目を向ける。
 風になびく髪を抑え、ホーム端のカメラ群へ顔を向ける。
「行ってらっしゃい!」
 見知らぬ見送りに思わず微笑む。
 列車はホームから陽光の高架線路へ走り出る。
 背後でノック音。
 ジェフ氏だ。扉を開けるとガラスのポットとカップ。
「煙が入ってきませんか?途中ユトレヒトまでは蒸気機関車です。あ、それともお部屋が暑すぎましたか?」
「いえ……」
 彼女は窓を閉め、ソファに座を戻した。
 欧州人種の大人を目して設計されたソファに、黒い瞳で小柄な彼女はさながら人形のよう。
「こんな心ときめくお客様は初めてです。お茶をどうぞ。わたくしの説明が終わり次第、すぐに注いでよろしいかと」
 ジェフ氏はそんな言い回しをすると、ジャスミンの香り漂うポットとカップを、窓際テーブルにそっと置いた。
 まず、運転時刻の説明。コルキス着は翌日昼前。
 更に部屋の構造と備品について。入口ドア脇のラウンドした柱の様な部分は扉で、左右に開くと三面鏡と洗面台。洗面台は水とお湯が出、石けんも。なお、彼女が乗車したこの寝台車はLx型と呼称される。du luxe……デラックスの略だ。一人用個室を10室備えた定員10名。つまり、1輛で運ぶ乗客は10人だけ。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -010-

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 乗車の頃合い。
「ありがとうございました。そしてよろしくお願いします」
 彼女は二人にそれぞれ顔を向けて言った。
 機関士には手を振ってウィンクを返す。
「何と丁寧なお方だろう」
 ジェフ氏が言い、彼女の荷物を手にする。
 係員同士の引き継ぎがあり、ジェフ氏の先導で2号車へ。楕円窓の下で輝く真鍮のドアノブに、氏の白い手袋が添えられ、カチャリと開かれる。
 ドアは木製の手動。このようにスチュワードが都度開閉。言うまでもなくホテルドアマンの役どころであり、そういう演出。
「足元に気をつけて」
「ありがとう」
 背中にそっと添えられた手のひらを感じながら、二段のステップに足をかけ、車内に入る。床にはカーペット。壁は木製で丁寧に塗られたニスが艶やかに輝く。
 乗り込むとフッと静かになる。木とカーペットの吸音効果だ。
 これは〝家〟だと彼女はまず感じた。移動、ではない。居住、する空間。
 普通の列車ではない。現行国際特急の一等車ですら比較の対象ではない。
 なるほど一線を画する存在という実感が沸く。世界一の……それは喧伝される豪華さそのものだけを捉えて言った意味ではあるまい。
 不思議と足取りがゆっくりになる。
 視界を彩る壁面の飾り窓。窓間のマーケットリー(寄せ木細工)、カーペットはペルシャ絨毯。
 但し、どの装飾も、パッと見のけばけばしさを追求したモノではなく、外見同様、丸み・円に基調を置いた流れの中にある。
 個室6番。車輛の真ん中で一番乗り心地がよい、のだが、彼女は与り知らぬ。
 部屋の扉は既に開かれており、マホガニーの重厚な〝コンパクト・ロビー〟がそこに日射しを受けてある。ハンガーの掛かった壁を背にして配された大振りのソファ。ゴブラン織りのそれは、豪華のみならず力強さと威厳を備え、玉座の佇まいだ。窓際のテーブルにはミネラルウォーターのボトルがアイスバケットで冷えており、ほのかなピンクの花が花瓶に一輪。クリスマスローズ。
 列車に生花。
「ヘレボルス・オリエンタリス(Helleborus orientalis)ですよ」
 花を覗き込む彼女に、背後でジェフ氏が言い、衣装ケースをドアの上、金網で出来た荷棚へ持ち上げる。
 オリエント急行に学名オリエンタリス……金持ち・上流階級が好む知的で小さな言葉遊びだと彼女は気付いた。
「お荷物は必要になったらわたくしまでお申し付け下さい。それと花の姫君、ウェルカムドリンクを用意したいのですが如何致しましょう。コーヒー、紅茶、ジュース類もございますが。東洋のお茶の類も多少」
「いえ……この水で充分ですよ」
「わたくしからのサービスです。殿下の丁重なお心配りに感銘を受けました」
 そこまで言われると逆に断るのも気が引ける。
「東洋のお茶にはどんなのが?」
 だったらその辺。この地にいると滅多にお目にかかれない。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -67-

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 猛然と近づき、交差点をこちらへ折れてくる。
 改造されたアメリカ車である。極端に車高が下げられ、ボンネットには自衛艦よろしく塗装により旭日旗。後部の排気管は宇宙へでも飛んで行くかのように天を向いて突き出している。形状の類似から“竹槍マフラー”。
「やーね、暴走族よ。……まさかあれもまた」
 理絵子は気付いた。この“暴走”は請われて故の必然から。
「かぼちゃの馬車です」
「は?」
「その迎えの友達ですよ」
 猛烈なクルマは二人の前に止まった。
「マサさん」
「ようりえちゃん、せんせー。待たせたな。乗んな」
 左側運転席から特攻服の男が顔を出した。
「しかしスゴイね」
「優子の指定だよ。これだけコワモテなら手を出すバカもいねぇだろうからってよ。バカをもってバカを制す……ってどういう意味だい?」
 担任は唖然として絶句の様子。
 理絵子は失礼と思いつつ、超感覚の状態を確かめるため、担任の心理を探ってみる。

 暴走族と付き合いのある少女。

 つまり担任は、自分のことごとくがあゆみに重なることに、驚愕と躊躇を感じている。
「私が二宮あゆみさんと同じ軌跡を辿っているのだとしたら、何か大きな意味があると思うのです」
 理絵子は言った。
 担任がハッとした表情で自分を見る。
「ただ、私と彼女が違うのは、私はいろんな人に守ってもらっているということ」
 理絵子はまっすぐ担任の目を見返した。
「今私のなすべきことは、先生を私の家に送り、母親と家の警備装置に委ね、安心して休んで頂くこと」
「そそ、なんだか判らないけど、乗りな、先生」
 マサはドアを開けて一旦下車し、背もたれを倒した。2ドア車なので、後席に乗り込むにはこうする必要がある。
「……そうね」
 担任は一瞬の間を置いて理絵子に言った。
「私はあなたに救われたもの。一緒だけど、そこは違う」
 担任は言うと、意を決したようにクルマの後席に潜り込んだ。
 理絵子も隣へ。外見と音が猛烈ならインテリアも猛烈である。ダッシュボードには鳥居と神社の模型があり、天井クロスにはやはり旭日旗が「君が代」の歌詞と共に描かれている。いつぞやインターネットで見た、妖怪イラストに埋め尽くされた軽自動車に匹敵する猛烈ぶりである。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -009-

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 元々自分の家系はアジアに根幹があると聞いている。モンゴルの西征に同行して欧州にとどまった一族とも、それよりもっと古い太陽信仰の巫女とも。街中を歩くと〝ニーハオ〟と声がけされたり、中には東洋人を侮蔑するジェスチャーを示す子供もいる。元より欧州に住まう人々にもそう見えている、ということだろう。日本のアニメを扱うテレビ番組でコスプレしている日本人が映るわけだが、まぁそこに自分が混じっていても違和感あるまいと確信できる。〝カワイイ〟が集まっているというハラジュクを歩いてみたいな。
「ワゴン・リ社を創設したナゲルマケールスは、最終的にシベリア経由で日本へ走らせる腹づもりでいたようです。列車名にオリエントを冠するなら、日本こそ欧州から見た真のオリエントですからね」
 話しているうち、二人はホームを横切り、彼女は2号車出入り台の下に立った。
 ドームの向こうから回り込んでくる陽光に、煌めくような青。
 一輛はさんで向こうは緑色の蒸気機関車。このように動いている蒸気機関車に接するのは初めてである。書いたようなストーブの匂いに加え、時折聞こえるエアやメカの音は〝生き物〟を思わせる。
 と、見ていると、近づく足音があり、傍らに男性。……付けている香水のタイプでそう判断。
「お好きですか?」
 キングス・イングリッシュに振り返ると、金ボタンの青い制服に身を包んだアフリカ系の男性。パンフレットの写真と同じ笑顔。
「2号車スチュワードのジェフと申します。列車内のご案内を仰せつかっております」
 胸に白手袋の手を当て一礼。自分の身長が150センチそこそこというせいもあろうが、見上げるほど背が高く、筋肉も腕っ節強そうという印象。比して、顔立ちは丸っこく穏和な感じ。
「あ、いえ、こうやって動いてるのを間近に見るのは初めてで」
 彼女は答えた。ジェフ氏はエミリーさんと二人並んで〝控えて待機〟みたいな感じ。何だか気が引ける。
 さっさと列車に乗ろうか。すると。
「そうですか。でしたらもう少し近づいてみて下さい」
 ジェフ氏は言って機関車へ向かって手のひらを示した。
「え……」
「体温が感じられますから」
 機関車から発熱しているのだ。なぜなら。
「中で石炭を燃やし、そこに水が流れ込み、蒸気が生まれる……生きている蒸気機関車は血の巡りを持っており、暖かいのです」
「まるで生き物ですね」
 彼女は応じた。思わず見つめてしまった理由はそれだ。やはりそうなのだ。
 機関士の男性が会話する自分たちに気づき、窓から顔を出してウィンク。
 彼女は微笑み返し。
「仰る通りです。だから我々は相応の〝生きているサービス〟を提供するように仰せつかっておるのです」
 機関士がレバーか何か操作し。ピッと短い汽笛。
「10分前ですね」
 エミリーさんが腕時計を見て言った。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -008-

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 列車にこんな感慨を覚えたのは初めてだ。眺めてしまう。これが、夜明けへ向かって走る様は、どれだけ美しいことだろう。
「ええ、オリエント急行は本来パリをターミナルとする列車です。ハイネス」
 彼女が立ち止まって沈黙したのを、〝知識ゆえの違和感〟と捉えたか、エミリーさんが傍らで言った。
 説明を頂く。1883年にワゴン・リ社が欧州各国の鉄道会社と契約、パリ~コンスタンティノープル間に運転開始した国際列車である。それだけの長距離・長時間(3000キロ・89時間)運転される列車は前例なく、記したように利用者がある程度限定されるため、文字通り走る豪華ホテルとなった。加えて、欧亜国境という、英仏から見て文字通り〝東方の果て〟という異世界へ向かうエキゾティシズムも手伝い、列車として他に類を見ない神話的ステータスを獲得するに至った。そして、その名を世界的なレベルまで高めたアガサ・クリスティのサスペンスは触れずにいられないだろう。彼女アガサは自身、この列車の愛好者であったという。しかし、彼女の愛した列車は二次大戦で運転休止を余儀なくされ、その間に発展を遂げた航空機に客を奪われ、1977年にその命脈を一旦絶たれる。
 エミリーさんはそこまで喋り、
「今回の特別運転は、ベルギーのオステンデをターミナルとした、オステンデ・ウィーン・オリエント急行という列車のルートを基本にしています。この列車には、アムステルダム発で、ケルンにて乗り継ぎ出来る連絡列車がありました。往時はそこでお乗り換え、だったのですが、今回は二本の列車を走らせ、そこで連結します」
 それを再現してのチャーター運転なのだ。
 エミリーさんは列車へ向かって歩きながら続けた。今ここに発車を待つ車輛たちは、その1977年の廃止後、オークションに出されたり、欧州のそこここで朽ち果てていたのを、買い集めて復古した物、という。
「日本に買い取られ、そのまま山の中に打ち棄てられていた車輛も含まれてるんですよ」
「日本?」
 彼女は思わず立ち止まり、エミリーさんに問い返した。
「ええ、それだけでなく、実際に日本を走った車輛もあります。香港まで線路を走って、そこから船で運んで。パリ発東京行きの列車が走ったのです。もちろん世界最長です。この列車に相応しい記録ではないでしょうか」
 エミリーさんは少し自慢げにも聞こえるように言い、微笑んだ。
 パリから東京……彼女はこの流麗が日本へ行った様を思う。このユーラシア西端から見て文字通り極東〝真の〟オリエントだろう。トーキョー、キョウト、フジヤマ。大都会を、古い都市を、美しい風景を走ったのか。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -007-

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 に、加え、このエミリーさんにいつまでも子供相手をさせるわけにも行かぬ。
「あの、じゃぁ列車の方へ……」
「かしこまりました」
 物腰万事控えめで一礼を添える。明らかに自分が何者か知らされている対応である。
 衣装ケースはエミリーさんの手に渡る。エミリーさんはこちら、と、ひとこと添えて歩き出し、そのロビー・スペースを横切って行く。座する上流の目線が彼女に注がれ、おや、とか、〝意外〟の意を多分に含んだ瞳と小声。
「まるでプリンセスね」
 紫の帽子をかぶった、白髪の女性が、白いティーカップ片手に、ニッコリ笑った。
 彼女は白髪女性に小さく笑みを返し、エミリーさんの後について、待合い奥の大理石階段を上がって行く。エミリーさんのヒールが大理石を叩くが、その音は硬く、無闇に響いたりしない。踊り場にはラピスラズリがキラキラ光るフェルメールの絵画。
「こちらです」
 階段を登り切り、エミリーさんが手のひらを空間へ差し示す。列車の音と、人々のざわめきと、そのざわめきを反射し響かせる屋根。欧州ターミナルの屋根は天蓋を思わせるドーム状の構造を持つものが多いが、ここも湾曲したドームが三つ連なって屋根を構成する。そして加えて、どこか懐かしい匂い。
 匂い。それは暖炉、いや、石炭ストーブを思わせる。今日び駅の暖房に石炭ストーブとは思えないが、実際ドームの中には薄い煙が緩やかにたなびいている。
 煙の出元を追い、合点が行った。グリーンに塗られた蒸気機関車がいるのだ。そして、その後ろに、率いられ連なる青い流麗。
 それはドームの下、緩くカーブしたホームに座す、4輛の青い客車列車。
 ただ列車のその青は、空の青でなく、海の青でなく。
 彼女の知る限り、その青は夜明け前の僅かな時間、星と共に天に在する、大気と宇宙の色。
 そして、車体の側面、窓下中央には、向かい合う獅子を月桂樹の枝葉で囲った丸い紋章。
 オリエント急行。その列車を構成する、ワゴン・リ(Wagons-Lits)社製造の客車群。


Ciwl_2
(これは模型です)

 美しい列車だ、それがまずは率直な感想。オランダの国営鉄道は黄色一色だが、それを見慣れた反動ではない。根本的に美しく見せるようデザインされた車輛なのだ。造作そのものは両車端に出入り台(デッキ)があり、ドア間には窓が連続という現代に通ずる外観。しかしその個々の窓枠には金の飾りが入り、窓の上には車輛の端から端まで文字が書いてある。いや、銅の打ち抜きで貼ってある。
 Compagnie Internationale des Wagons-Lits Et Des Grands Express Europeens
 フランス語であり訳すと、国際寝台車欧州大急行会社。車端部は屋根が流れ落ちるように丸みを帯びており、その丸みに合わせたのだろう、出入り扉には楕円の大きなガラス窓が使用されている。流れ。そうこの列車に感じるのは流れだ。風のような、川のような。そして夜明けの……。確かに列車とは、その走る姿は、流れそのもの。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -01-

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 数学の担当は、学年主任で5組の担任をしている森本もりもとという中年男性だ。いわゆる“中年太り”で置物の狸のように腹が出ており、黒縁メガネをかけ、整髪料で頭髪は常にビッタビタ。そのくせスーツ姿で教鞭を執るので、初夏の声を聞くと言うのに暑苦しいったらありゃしない。もしも自分が氏の娘であれば、まぁ邪険に対応してしまうだろう。
「あー、相原あいはらさん」
授業終わり近くで唐突に呼ばれた日にゃ、それを見透かされたのかと心底驚いた。
「はい?私?ですか?」
 自分を指さしてみせると、教室中の目が自分に集まる。彼女はどちらか言うと幼い顔立ちだが、驚いて目を見開いたその仕草は、まるで小ぶりの花がぱっと開いたよう。
「そう。帰りの会が終わったら職員室に顔出してもらえるかな。用事があるならいいんだが」
 言われて、ちょっと自分、眉根が歪んだだろうと意識する。めんどくせーことだという直感。大した用事でなければここでその旨言うはずだからだ。
 でもって、なにがしか“ターゲット”にされたのだとも判ずる。要するに大人の奸計を動員して自分に押しつけたい何かがある。
「顔だけですか?首から上は外せないんですが」
 ダンスのモーションで“首のアイソレーション”と呼ばれる、首から上だけ左右に動かす動作をしてみせる。少し伸びて来た髪の毛ポニーテールにまとめているので、応じて左右に小さく揺れる。
 教室中が吹き出した。
「姫不意打ち禁止!」
「馬鹿野郎面白いことは予告してからやれ!」
 姫というのは彼女が相原姫子ひめこと名乗っているからである。転入して半年ほどだが姫または姫ちゃんで定着。対して教諭森本はその大きな腹をゆっさゆっさと震わせ。
「はっはっは。面白いことが出来るな君は。全体で頼むよ」
「パーツ全揃いだと高く付きますよ」
「はっはっは。じゃ、そゆことで」
 森本は取り合わずに会話を切り上げ、チャイムと共に教室を出て行った。
 程なく級友が机の周りに集まる。
「なんで姫?」
「いやー小テストも8点だったし……素行や成績のことじゃ無いと思うんだけどなぁ」
 小テストは10点満点で、3点以下は居残り追試であったが。
「森本んとこの誰かに因縁付けられてる?」
 彼女はあり余る個性の故に仲間も多いが敵も多い。難癖トラブル巻き込まれているのではないか……。
「ありがとがんす。違うと思う。それ系だったらコッソリ言うでしょうし」
 ぶっちゃけ森本の脳みその中身あらかじめ知る手段がなくはない。ただそれやると態度外見に出てしまい、教員というのは長年の経験でそういうのを察知し、応じた“備え”を講じて事態がややこしいことになりかねない。それにどうせ内容が分かったところで向こうは押しつける気満々なのだ。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -006-

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 男性が軽く頷いた。
「確かに私どものお客様です。後は我々で」
 男性係員はユーロのコインを手にポーター氏にそう告げると、進み出、氏の引く荷物に手を伸ばした。
「そうかい?じゃぁ」
 ポーター氏はコインを受け取らず、衣装ケースを男性に託すと、帽子に手をして軽く一同に挨拶し、エントランスから折り返した。
「良い旅を、お嬢さん」
「ありがとう」
 すれ違いざま彼女に言い、そしてポーター氏はそのまま振り返らず、トラムの広場へ。あっという間に人込みに紛れてしまう。
 本当に厚意で案内してくれたようである。彼女は胸に手をして見えない背中に謝意を示すと、エントランスへ目を戻した。するとそこには、男女の係員が揃ってカウンターの外まで出、自分を〝お迎え〟よろしく待っているという状況。男性は直立不動であり、女性の方はキュロットスカートにヒールを履き、足を前後に揃えたいわゆる〝モデル立ち〟の姿勢。
 エントランスをくぐり、二人と相対あいたいする。中は大都市の中心とは思えぬ別世界だ。この街に越して来てすぐ、美術館へレンブラントを見に行ったが、その時と同じ、タイムスリップにも似た感覚がある。梁や床材は巻き貝の化石まで含んだ本物の大理石であり、ルネサンス調の装飾が柔らかく陽光を迎え、床には奥へといざなう赤いカーペット。
「Welcome」
 男性が英語で。その声が少し硬質な響きを持って、ルネサンスの空間に軽く広がる。
「My name is Alpheratz.Can I check in?」
 彼女が言い、帰ってきた答えは。
「お待ちしておりました、ハイネス」
 バウチャーを出すまでもなく、女性係員は胸に手を当てて一礼すると、厚紙で作られ、レターボックス近似のドキュメントケースを彼女に示した。
 ケースは紫地。金色の縁取りと、列車名と……手紙と同じコルキスの紋章。
 係員女性が蓋を開けると指定券。さすがにコンピュータ印字であるが、自分の名前、性別、年齢があり、2号車6番個室でコルキスまで指定してある。
 以下会話は日本語で記す。女性は彼女が指定券に一通り目を通したと知るや、ドキュメントケースに戻し、
「記載内容に間違いはありませんでしょうか。わたくし、ご乗車までのご案内を担当いたします、プラットホーム・アテンダントのエミリー・スマイスです。よろしくお願い致します。ご乗車は既に可能ですが、発車まで今暫くございます。この奥でご休憩頂くことも可能ですが、如何なさいますか?」
 この奥……エミリーさんの示す背後、カーペットの先には淡い電球照明の待合いがあり、雰囲気はさながらホテルのロビー。大振りなソファテーブルが配され、年配の女性や、タキシード姿のやはり白髪の男性らが談笑している。彼らは一見して上流階級であり、応じた料金でツアーに応募した乗客達なのだろう。失敗して焦げたラザニアに噛みついてる自分は場違い。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -005-

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 そしてオリエント急行は電光案内にも表示がない。チャーター便を出しても仕方がないからだろうが、どのホームから出るのか判らないのは困る。その前にチケットを引き換える必要があるのだが、それっぽい窓口もない。うろうろして不測の事態に遭うのは御免だ。ちなみに少し前まで、この駅の治安の悪さは世界的にも有名な程であった。
 誰か訊いた方が良い。そういう経緯から警備担当が増えたはず……と見回すと、目の前でどこぞの奥様が制帽姿のポーター(小荷物運搬業)氏にチップを渡しているところ。
 同氏が日焼け顔に笑みを刻み、奥様を送り出したところで声を掛ける。
「すいません、特別運転のオリエント急行の乗り場は」
「これはこれはお嬢さん。女の子で鉄道好きとは珍しい。撮影用には4番ホームが開放されてるよ」
「いえ、あの、乗る……んですが」
 するとポーター氏はオーバーアクション。額に皺を寄せ、目を見開き、口を小さくアルファベットの〝O〟の字に開いて彼女を見回す。
 彼女は当然普段着ではない。襟元にふわふわフェイクファーをあしらったコート。キャリーバッグの衣装ケースにハンドバッグ。少なくとも男性はネクタイ着用、なのだ。文字通りの〝女コドモ〟であるが、カジュアルな服装は出来ない。
「……ああ、でしたらご案内致します。そちらお持ちしましょう」
「いえ、軽いから大丈夫です」
「仕事は抜きですよ。リトル・プリンセス」
 ポーター氏は言うと、彼女の衣装ケースを手にし、今来た入口へ後戻りを始めた。入ってくる人の流れに逆らい、そのまま入口から一旦駅舎の外へ出てしまう。向かったのは左手、路面電車が出ている広場の東隣。先導されるままついて行くと、そちらにもこぢんまりしているが、しかし車寄せを備えた出入り口がある。但し人の出入りは無い。
 彼女は気が付く、というか思い出す。この入口は。
 宮廷車寄せである。大きな英文のウェルカムボードがあり、entrance及びOrient Express Limited Specialと見える。
 入口から分けてある。しかも宮廷用。破格の扱いである。その旨パンフレットに書いてあったのだろうが見落としたか。
「ありがとう」
 彼女はもういい後は自分で、の意で言ったのであったが、しかし、ポーター氏はそのまま表示板のある入り口から中へ。
「こちらのお嬢さんがご乗車だそうだ」
 エントランス内にはチェックインカウンターが設けられてあり、濃紺の制服を着た男女の係員がそれぞれ一名。但しオランダ鉄道の制服ではない。
 ポーター氏が話しかけたのは、メガネを掛け、ブロンドを後ろで丸くまとめた女性の係員。
 メガネの女性は頷き、彼女へ目を向ける。
 目が合うと、ハッとしたような表情を見せ、カウンター下を覗くような動作をした。乗客名簿と照合であろう。そして同席の男性に何事か。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -004-

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 招待状の文面をもう一度良く見る。迎えを出す代わりに、この列車を〝用意した〟?
 リーフレットのページをめくる。いかにも豪奢な室内や装飾の写真が目を奪い、説明文には〝アールヌーボー〟〝アールデコ〟といった文字が躍る。列車の歴史が書かれ、利用した王族の写真があちこちに貼ってある。飛行機出現以前、最も高速な移動手段こそは列車であり、国を越えて要人や王族が移動するに際して、内装はもちろん、警備・接客の配慮もなされたのがこの列車である。白い手袋のスチュワードが微笑む写真が添えられ、
〝ディナーにおいては男性はネクタイ着用、女性も盛装でお越し下さるようお願い致します〟
 ドレスコードのある列車レストラン。
 国家が〝自分のためだけに〟高額ツアーの体をした列車をわざわざ用意したとは到底思えない。が、これで来てくれとした意図のようなものは見えてきた。隠密ゆえにSPや警備を用意するのは不可。しかし小娘に乗り換えの労や伴うリスクを排除し、長距離を確実に。
 隠密裡に、されど自分を遇しつつ。
〝マタ・ハリが良く乗っていたと言われますが真実はどうでしょうか。ジェームズ・ボンドが寝台個室で格闘した痕跡も、現在のところ公的には確認されておりません……〟
 オリエント急行に乗って極秘任務。……突然の凄い話ではあるが、断る理由は無いであろう。そもそもこの住所を知っているということは、親も趣旨を了解して住所をコルキス王室に開示したのだ。
 あの服、まだ着られるかな……彼女は身体をひねってクローゼットに目をやった。

 アムステルダム中央駅。
 トラムで降り立つ駅前広場は、まず目立つレンガ駅舎の偉容。
 左右に堂々と翼を広げる、ゴシック様式三階建て、なのだが、〝遊園地のお城〟と言った方が、雰囲気の把握には、とりわけ日本人向けには判りやすいかも知れぬ。ちなみにひところ、東京駅丸の内側駅舎のモデルと言われたこともあった。なるほど一見そう映ってもおかしくはないであろうが、建築史の観点からは、否定的な見方が多いようだ。
 列車の出発は14時。リーフレットには30分前から乗車可能とあった。現在時刻はその〝30分前〟に少々、余裕がある。
 駅舎は広場右手が入口専用になっており、そちらへ回って人波に乗り、中へ入る。コンコースは豪壮な柱が並び、梁が弧を描く広い空間。オープンカフェのテーブルセットが配され、出札窓口には荷物を手にした人々の列。上方の出発案内には国内外の行き先がズラリと並ぶ。40分後にパリ行きの超特急が出るので、人々の多くはそれであろう。プラットホームは2階。そのパリへ向かう瀟洒なワインレッドの列車は見えない。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -003-

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 一体何がどういう……彼女は便箋の書状を開く。
 中身を要約する。コルキス(Colchis)王国主導で全世界対象の救助ボランティアを立ち上げる。招聘したメンバーの顔合わせと趣旨説明を行いたいが、極秘なので目立つのは避けたく、専用の迎えを用意することが出来ない。その代わりというには不充分かも知れないが、この列車を用意したので乗って来て欲しい。乗車に際しての注意点は添付リーフレットに記載あるので参照のこと。
 極秘任務、世界一の列車に乗れ。
 まるでどこかのスパイ映画の世界。12歳の小娘相手に何事か。
 心臓がドキドキし、鼓動に合わせて手指が震え、便箋がカサっ、カサっと音を立て始める。彼女は深呼吸し、胸を軽く叩き、とりあえず葉が開いたであろうアールグレイをカップに移した。
 ガラスを染めるルビー色をひと口含み、深呼吸してもう一度招待状に目を通す。コルキス王国……それはアルプス山懐の小国である。封印の紋章も同国王室の物だ。だったらまぁ、自分の本名を知っているのも理解できる。
 便箋の最後には同国王女の名でサインがあり、〝アルゴ・ムーンライト・プロジェクト(Argo Moonlight Project)〟なる文字と、帆船を模した印が添えられている。それが立ち上げる救助ボランティアの団体名という。
 コルキス王家は福祉国家として名を知られる。国営の秘密団体、ということであろう。別にそこは驚くに値しない。現時点自分が所属している国際医療ボランティア〝欧州自由意志医療派遣団(European Free-will Medical care Mission……EFMM)〟にも、富豪や大企業などに混じり、幾つか王家の名がパトロンとしてリストされている。
 対し、これはちょっと毛色が違うというか、〝真性〟の気配を持つ。EFMMは活動が公開されており、取材報道はもちろん、ウェブサイトにも、よく探すと自分が写っている写真もある。この種の団体は、企業等が〝慈善活動してますよ〟というポーズのために寄付している場合もあり、その辺も重々承知した上での活動・公開であると言える。そこへ極秘と来た。これ見よがしに善意を出すなとは聖書の言だが、その意を汲んだというか、人知れず現れて義をなし、姿を消そうという、映画的〝正義の味方〟を本気でやろうというニュアンスを感じる。
 それも非常な大規模で。
 彼女は列車のリーフレットを手にする。表紙には〝王国会議加盟三百周年記念〟と銘打たれ、コルキス王家名義で列車をチャーターした、とある。一般(ただし応じた料金体系の!)乗客も参加するツアー列車であり、加盟諸国を通るので、ぜひこの機会に乗車頂き、いにしえの王侯の気分を味わって戴きたく。がコンセプトだそうだ。ルートマップによれば、ベルギー王国のオステンデ及びネーデルランド王国……すなわちこの地、オランダのアムステルダムからそれぞれ一本ずつ列車が発車、途中で連結されて長い一本の列車となり、ドイツのバイエルンを横切り、オーストリアのウィーン、ハンガリーのブダペストを経由して、最終目的地はトルコのイスタンブール。但し自分のチケットは、当然、ここアムステルダム発で途中に位置するコルキスまで。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -66-

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 映画のようにお互い抱き合って数回転斜面を転がり落ち、止まる。
 上方で別路線のバスが盛大なクラクション。続いて、突っ込んだクルマであろう。タイヤをスリップさせながらスタートする音。
『りえぼー。大丈夫かりえぼー』
 繋がったままの電話の向こうで叫ぶ声。
「クルマが突っ込んできたよ……」
 2度目であり、さすがの理絵子も我ながら情けない声で言った。
『なんだ女々しい。お前らしくない。大丈夫なんだな』
「うん。朝倉先生が一緒なんだ。ウチへ向かう途中。でも私それでケガしてるし……」
『判った。迎えのかぼちゃ馬車差し向けるからそこにいろ。どこだ』
「甲州街道折れて駅前に入る道」
『東浅川(ひがしあさかわ)の方だな?判った。動くな。しかしお前、“力”でそういうの判るんじゃなかったのか?』
 桜井優子は言い、かぼちゃの馬車を早急に手配するためであろう、電話を切った。
 理絵子はその言に愕然とした。桜井優子の言う通り、何故自分の危機なのに、双方とも事前に超感覚が察知しなかったのだろうか。
“力”そのものは働いてないではない。きちんとあゆみちゃんの記憶を辿り、寺に行き着いている。
 だとすれば。
 もしや、自分が相手にしているのは、同類の“力”の持ち主?
 或いは……いわゆる霊体、
 に、担任の言う通り、狙われている。
 そのことと、あゆみちゃんとおぼしき存在は、当初から感じないという事実。
 まさか。
 あゆみちゃん、あなた、私が、次はあなたと直接、と考えたから?
 それに対する拒絶?
 ここに来てあなたが出てきたの?やっぱりあなたはそういう事をしていたの?
「……さん、黒野さん」
 思考に埋没していたせいだろう。理絵子は肩を揺すられ、それで担任の呼びかけにようやく気付いた。
「大丈夫?」
 庇護する側される側の立場が完全に逆転しているのを感じる。夜露に濡れて貼り付いた葉っぱの類を払い、頭(かぶり)を振って立ち上がる。
「私は何とか。先生は?」
「ええ大丈夫よ。どうしよう。狙われているんだとしたら動かない方がいい」
「それなら友人が迎えに来てくれます」
 理絵子のセリフが終わらぬうち、遠くから暴れ馬を想起させるエンジン音。

(つづく)

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -002-

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 本棚の上には分厚い図鑑サイズで銀色に輝くオーディオ装置と、ベッドを挟むように配置されたスタンド一体のオーディオスピーカ。これでテーブルの上に小さなランの花がなければ、殺伐という方が近いかも知れぬ。
 彼女は肩下げバッグをベッドに放り出し、そのついでにオーディオ装置の電源を入れた。白い吐息で手先を温め、急いで部屋の片隅へ向かい、温水ヒータの電源を入れる。
 オーディオ装置が起動し、女性ヴォーカルを密やかに鳴らし始める。その銀色に輝く無垢のアルミ〝オーラデザイン・ノート〟が、深い木目のスピーカシステム〝ソナスファベール・エレクタ・アマトール〟に送り込むのは、トルコのポップス。

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(この子はSonus Faber  LUMINA Ⅰ)

 哀調を帯びたメロディを鼻歌に、彼女はキッチンに向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、シンクの上、ステンレスの小さなポットに僅かに注ぐ。ポットを電熱コンロに載せ、加熱。その間にバスルームでうがいと手洗い。
 戻って、食器棚のガラス戸を開け、ガラス製のティーポットとカップのセットを取り出す。続いてしゃがみ込み、下段の木戸から陶器製の白いポットを取り出す。中から僅かにカサカサと音がする。
 ポット類をシンクに置くと、コンロの湯が沸いた。
 彼女はステンレスポットの湯をガラスのティーポットに移すと、再度、ミネラルウォーターを今度はカップ一杯分測り、ステンレスのポットで加熱。
 次いでテーブルに手を伸ばし、ポストの手紙を手にする。コンロの電熱にかざしてロウの封印を少し溶かし、小指のツメでスッと切る。
 招待状、とまず出てきた。グーテンベルクの時代かと思うような、凝った意匠の字体だ。二つ折りのカードであり、中に幾葉か書状が挟み込まれている。
 湯が沸いてきたので、手紙をテーブルへ戻す。先にガラスのティーポットに入れておいた湯を捨てる。
 空になったガラスのポットから湯気だけ昇る。ポットを温めたのである。彼女は陶器のポットの蓋を開き、ティースプーンを挿し入れ、紅茶の葉を一盛り、湯気立つガラスのポットへサラリ。
 コンロで、カップ一杯分の湯が沸いた。
 沸いた湯を茶葉の入ったガラスポットへ注ぐ。そのついでに食器棚からコースターを出し、テーブルへ。
 ガラスのポットとカップを持ち、ポットをコースターの上に置く。中で茶葉が開き、次第に湯が褐色を帯びて行く。
 彼女はテーブルに腰を落ち着けると、カードを封筒から取り出し、次いで挟まれた書状類を取り出した。
 中身はペン字で手書きの便箋。折りたたまれたリーフレット。そして硬質紙のバウチャー・チケット(引換券)。
 以上三葉。まず目に付いた文字列が、バウチャーチケットのこれ。
 
 ORIENT EXPRESS……オリエント急行。
 
 わ、と声が出てしまう。鉄道に詳しいわけではないが、それがパリをターミナルとする世界一と呼ばれた列車の名だ、ということくらいは知っている。

(つづく)

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連打と一部リニューアル

レムリアは「14歳の密かな欲望」から引き続き「虫愛ずる姫と姫君」に進みます。ラグ無しで8月6日開始です。なお本作から1回の投稿分の文章量を増やします。

それから、彼女の原点であるところの「アルゴ・ムーンライト・プロジェクト」ですが。90年代の知見で書いてて古さが目立つのでリニューアルします。ダラダラ更新して気がつくと全部変わってる。みたいな。

8月はそんなスタート。

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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -001-

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★「Nola」連携中

 路面電車トラムを降りれば、借りているアパートは3ブロック先である。
 白い息を吐きながら、彼女はすっかり暗くなったレンガの街路を早足で行く。幼さを残した〝ころん〟とした顔立ち。身長150。黒い瞳に黒髪の持ち主であり、その髪の毛は肩に触れない程度にスパッとカット。少女マンガのヒロイン向きという表現が使えようか。渋谷や原宿を歩いていればスカウトが黙っておるまい。しかしここは日本よりユーラシアを隔てて1万キロ。大西洋に接し、その沿岸を埋め立てたことで知られる〝低い土地〟という意味を持つ国の首都。
 12月。
 繁華街はイルミネーションで彩られ、このアパート建ち並ぶ街区でも、見上げる窓や玄関に飾り付けがチラホラ。聞こえ来る子ども達の声も、気のせいか弾んでいるように思える。比して足元に目を落とし、更に街路の行く先を見やると、飾られた灯りとは対照的に、街灯があるにも関わらず明るく感じない。おのずと首をすくめるし、早足になりがち。
 自分のアパートに着く。レンガ造りの3階建て。
 単身者世帯向けで、元より住人に子どもは少ない。数度挨拶した者はいるが、東洋系で童顔の自分を不思議そうに見られたのを覚えている。帰宅の遅い部屋が多く、灯りの点いた窓は2つ3つ。建物の古さも手伝っているだろう。周囲に比して沈んで見える。
 彼女は鉄階段の下、集合ポストを覗き、いつものように何も無いことを確認して階段を上がろうとし、足を止めた。
 封書がある。
 この住所を知る者は少ない。故国の家族と、その家族と付き合いのある一部の知り合いだけだ。今通っている学校にも、通信制ということもあってここの住所は伝えていない。本日現在は、中央駅近くにある図書館からの帰り。
 彼女は封書のあるポストに手のひらを向け、目を閉じ、そのまま数秒保ち、目を開き、ポストを開く。
 流麗な筆記文字で手書きされた宛名……メディア・ボレアリス・アルフェラッツ(Media Borealis Alpheratz)確かに自分宛だ。
 差出人は誰。ひっくり返すと、垂らした紅のロウに印章を押し、封印してある。
 その印章は。
「わぉ」(使い方も発音も日本語のわおとほぼ同一)
 思わず声が出、その場で開こうとし、慌てて中断し、彼女は急いで階段を上がる。
 自室に入る。蝶番の錆びかけた鉄ドアをギィと閉め、施錠し、灯りを付ける。無機な白い蛍光灯が明滅の後に点灯し、ジーッと小さな音を立てる。たったそれだけでも、止まって冷え切っていた部屋に命が甦ったような印象を受ける。
 とはいえ、灯火が照らしたその部屋は、女の子の居室としては地味である。部屋割りは日本で言うところの1K。リビングと、小さなキッチン。および、唯一開いたドア、バスルームだけ。リビングの調度はガラス戸の食器棚と、円い小さなテーブル、窓際のベッド、背の低い本棚、クローゼット。

(つづく)

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