アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -026-
オリエンタリス。純白の紙に包まれ、ピンクのリボンを巻かれた窓際の花。
「どうぞ。花はあなたが手にしてこそ相応しい」
くすぐったい。されど。
「ありがとう」
彼女は姫の笑顔で小さな花を受け取った。
花一輪。手にして降り立つ王宮の駅。
ジェフ氏がLx寝台車乗降ステップに身を戻し、機関車に向かって手をし、機関車が短く汽笛を返して列車が流れ出す。
「さよなら~」
「お姫様、いつかまたどこかで」
「ええ、きっと」
出会いがあれば別れがある。彼女は加速して行く列車を、人々の一人一人に目を合わせながら見送る。
ヴィンテージな客車群を率いる新鋭のパワーエレクトロニクスが唸りを上げ、登坂路へ向け力行を開始する。列車はホームを離れ、カーブを切って、そそり立つ山の方へと向かう。その姿が見えなくなるまで彼女は手を振る。
レールを伝って聞こえてきた、リズミカルな響きが去った。
壁のように周囲を囲う雪の山々と、冷涼にして峻厳な空気。標高は1200メートルほど。
気がつけば結構寒いではないか。彼女はコートの前を併せた。列車の温度がいかに外気に応じたきめ細かいコントロールがなされていたか、良く判った。
「お風邪を召されます。こちらへ」
「ありがとうございます。お世話になります」
ハロルド氏に先導されプラットホームを歩き、線路を渡って駅建屋へ向かう。建屋と言ってもホームの規模が規模であるから、応じた重厚な趣。美術館の別館か、それこそ賓客のインビテーション・ホールとしても通用しよう。
コルキス・インターナショナル・ステーション。
駅長の敬礼を受け、石畳の駅前広場へ出ると、尻尾で身体を拭う白馬が四頭。
馬車。カボチャが化けた物ではないが、白い球形をモチーフ。
そして、馬の背の向こうに広がる光景は、文字通りおとぎの国。
健康回復が主題であるため排気ガスを筆頭に〝有害〟な近代科学文明の産物は極力廃しているのがコルキスである。結果400年前の中世雰囲気がそのまま残っており、これを観光目的に訪れる者も少なくない。当然、クルマを始めエンジン付き動力車は乗り入れ禁止で、緊急車両も電気自動車という徹底ぶりだ。最も、駅前町並みで生活用品の全てが揃い、国のサイズがサイズであるから、エネルギ消費の多いパーソナル移動手段は不要ではある。
馬車の周囲は既に多数の観光客に囲まれている。おとぎの国の豪奢な馬車に、乗られるお方はどなた様?そんな所であろうか、興味津々の衆目の中へと彼女は歩み出す。
執事を伴い花咲くような少女が現れ、その姿に感嘆とどよめきが観光客から上がる。通りがかって事態に気付いた他の観光客、恐らく住人までが住居を出て集まってくる。
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