アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -002-
本棚の上には分厚い図鑑サイズで銀色に輝くオーディオ装置と、ベッドを挟むように配置されたスタンド一体のオーディオスピーカ。これでテーブルの上に小さなランの花がなければ、殺伐という方が近いかも知れぬ。
彼女は肩下げバッグをベッドに放り出し、そのついでにオーディオ装置の電源を入れた。白い吐息で手先を温め、急いで部屋の片隅へ向かい、温水ヒータの電源を入れる。
オーディオ装置が起動し、女性ヴォーカルを密やかに鳴らし始める。その銀色に輝く無垢のアルミ〝オーラデザイン・ノート〟が、深い木目のスピーカシステム〝ソナスファベール・エレクタ・アマトール〟に送り込むのは、トルコのポップス。
(この子はSonus Faber LUMINA Ⅰ)
哀調を帯びたメロディを鼻歌に、彼女はキッチンに向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、シンクの上、ステンレスの小さなポットに僅かに注ぐ。ポットを電熱コンロに載せ、加熱。その間にバスルームでうがいと手洗い。
戻って、食器棚のガラス戸を開け、ガラス製のティーポットとカップのセットを取り出す。続いてしゃがみ込み、下段の木戸から陶器製の白いポットを取り出す。中から僅かにカサカサと音がする。
ポット類をシンクに置くと、コンロの湯が沸いた。
彼女はステンレスポットの湯をガラスのティーポットに移すと、再度、ミネラルウォーターを今度はカップ一杯分測り、ステンレスのポットで加熱。
次いでテーブルに手を伸ばし、ポストの手紙を手にする。コンロの電熱にかざしてロウの封印を少し溶かし、小指のツメでスッと切る。
招待状、とまず出てきた。グーテンベルクの時代かと思うような、凝った意匠の字体だ。二つ折りのカードであり、中に幾葉か書状が挟み込まれている。
湯が沸いてきたので、手紙をテーブルへ戻す。先にガラスのティーポットに入れておいた湯を捨てる。
空になったガラスのポットから湯気だけ昇る。ポットを温めたのである。彼女は陶器のポットの蓋を開き、ティースプーンを挿し入れ、紅茶の葉を一盛り、湯気立つガラスのポットへサラリ。
コンロで、カップ一杯分の湯が沸いた。
沸いた湯を茶葉の入ったガラスポットへ注ぐ。そのついでに食器棚からコースターを出し、テーブルへ。
ガラスのポットとカップを持ち、ポットをコースターの上に置く。中で茶葉が開き、次第に湯が褐色を帯びて行く。
彼女はテーブルに腰を落ち着けると、カードを封筒から取り出し、次いで挟まれた書状類を取り出した。
中身はペン字で手書きの便箋。折りたたまれたリーフレット。そして硬質紙のバウチャー・チケット(引換券)。
以上三葉。まず目に付いた文字列が、バウチャーチケットのこれ。
ORIENT EXPRESS……オリエント急行。
わ、と声が出てしまう。鉄道に詳しいわけではないが、それがパリをターミナルとする世界一と呼ばれた列車の名だ、ということくらいは知っている。
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