アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -003-
一体何がどういう……彼女は便箋の書状を開く。
中身を要約する。コルキス(Colchis)王国主導で全世界対象の救助ボランティアを立ち上げる。招聘したメンバーの顔合わせと趣旨説明を行いたいが、極秘なので目立つのは避けたく、専用の迎えを用意することが出来ない。その代わりというには不充分かも知れないが、この列車を用意したので乗って来て欲しい。乗車に際しての注意点は添付リーフレットに記載あるので参照のこと。
極秘任務、世界一の列車に乗れ。
まるでどこかのスパイ映画の世界。12歳の小娘相手に何事か。
心臓がドキドキし、鼓動に合わせて手指が震え、便箋がカサっ、カサっと音を立て始める。彼女は深呼吸し、胸を軽く叩き、とりあえず葉が開いたであろうアールグレイをカップに移した。
ガラスを染めるルビー色をひと口含み、深呼吸してもう一度招待状に目を通す。コルキス王国……それはアルプス山懐の小国である。封印の紋章も同国王室の物だ。だったらまぁ、自分の本名を知っているのも理解できる。
便箋の最後には同国王女の名でサインがあり、〝アルゴ・ムーンライト・プロジェクト(Argo Moonlight Project)〟なる文字と、帆船を模した印が添えられている。それが立ち上げる救助ボランティアの団体名という。
コルキス王家は福祉国家として名を知られる。国営の秘密団体、ということであろう。別にそこは驚くに値しない。現時点自分が所属している国際医療ボランティア〝欧州自由意志医療派遣団(European Free-will Medical care Mission……EFMM)〟にも、富豪や大企業などに混じり、幾つか王家の名がパトロンとしてリストされている。
対し、これはちょっと毛色が違うというか、〝真性〟の気配を持つ。EFMMは活動が公開されており、取材報道はもちろん、ウェブサイトにも、よく探すと自分が写っている写真もある。この種の団体は、企業等が〝慈善活動してますよ〟というポーズのために寄付している場合もあり、その辺も重々承知した上での活動・公開であると言える。そこへ極秘と来た。これ見よがしに善意を出すなとは聖書の言だが、その意を汲んだというか、人知れず現れて義をなし、姿を消そうという、映画的〝正義の味方〟を本気でやろうというニュアンスを感じる。
それも非常な大規模で。
彼女は列車のリーフレットを手にする。表紙には〝王国会議加盟三百周年記念〟と銘打たれ、コルキス王家名義で列車をチャーターした、とある。一般(ただし応じた料金体系の!)乗客も参加するツアー列車であり、加盟諸国を通るので、ぜひこの機会に乗車頂き、いにしえの王侯の気分を味わって戴きたく。がコンセプトだそうだ。ルートマップによれば、ベルギー王国のオステンデ及びネーデルランド王国……すなわちこの地、オランダのアムステルダムからそれぞれ一本ずつ列車が発車、途中で連結されて長い一本の列車となり、ドイツのバイエルンを横切り、オーストリアのウィーン、ハンガリーのブダペストを経由して、最終目的地はトルコのイスタンブール。但し自分のチケットは、当然、ここアムステルダム発で途中に位置するコルキスまで。
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