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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -028-

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 コンクリートの大空間に船があった。
 アムステルダム駅の屋根下よりも広いであろう、コンクリートで囲まれた箱の中に帆船が鎮座している。舳先を左手に、船尾を右手に。彼女は左舷側に立っている状態。
 まるで中世の港へタイムスリップしたかの如くであり、王家王宮の地下空間に全く相応しくなく、驚嘆しか与えない光景であり存在である。ただ、三本マストそれぞれが抱く三枚の帆は布地ではない。白い四角四面の板であり、現代工業製品の趣。
 その突拍子の無さからして、当の〝プロジェクト〟に関わりの深い存在であろう事は判った。冠している〝アルゴ〟とは、ギリシャ神話に出てくる帆船の名前だ。果たして目の前のその船は舳先の部分にargoと銘してある。この船を使ったプロジェクトであると理解できる。確かに巨大だ。
 だがこの船で何をする。どこへ行く。
 新大陸を探しに行くコロンブスか。
 それとも現代に相応しく宇宙の大海へ乗り出すのか。
 ……まさか。いや、まさか。
 と、船の陰から人の姿。そういえば王女様自らがお出迎えと。
「お待ちしておりました。メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下」
 冴えた英語に顔を向けると、〝成人の姉〟というイメージを抱かせる、白装束の若い女性がそこに立っていた。
 それは確かこの国の正装と聞いた。アラブ系の民族衣装に起源を持ち、ギリシャ~ローマ系のtoga(トガ)と混交した末の一枚布。
 まるで女神。王女が纏うに相応しい。
 ウェーブの掛かったブラウンの髪、若く静謐な面持ち、自分の姿をブラウンの瞳に収めて微笑む。

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 その国籍不明のミステリアスは。
「アルゴ・ムーンライト・プロジェクトへようこそ。お願いに快諾下さり感謝の念に堪えません。わたくしは当プロジェクトにおいてコールサインを〝セレネ〟。あなた様のコールサインはいかが致しましょう」
 ……考えて来い、のこと。
「あ、では、レムリアで」
「幻の大陸ですね。ではようこそレムリア、私たちの船へ。中にあなたの部屋があります」
 微笑みで招かれると、船の左舷、胴体部に縦方向のスリットが入った。
 そこが動いて口を開くと知った。真の船であれば喫水線の下であり、すなわち、普通の水面を行く船ではない。
 出入り口であるようだ。四角く切り取られ、一段奥へ引っ込み、右方へスライドして開いて行く。
 同時に、開いたその口の下から、プレートが舌出すように出現し、斜めに伸びて床に接し、スロープを形成する。ご丁寧にもその両脇にポールが立ち上がってロープの手すりも付いた。それこそ、港から船に乗るかの如く。
 常識を超越した事態が、今目の前で進行していることをレムリアは意識した。

(つづく)

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