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2025年8月 4日 (月)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -004-

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 招待状の文面をもう一度良く見る。迎えを出す代わりに、この列車を〝用意した〟?
 リーフレットのページをめくる。いかにも豪奢な室内や装飾の写真が目を奪い、説明文には〝アールヌーボー〟〝アールデコ〟といった文字が躍る。列車の歴史が書かれ、利用した王族の写真があちこちに貼ってある。飛行機出現以前、最も高速な移動手段こそは列車であり、国を越えて要人や王族が移動するに際して、内装はもちろん、警備・接客の配慮もなされたのがこの列車である。白い手袋のスチュワードが微笑む写真が添えられ、
〝ディナーにおいては男性はネクタイ着用、女性も盛装でお越し下さるようお願い致します〟
 ドレスコードのある列車レストラン。
 国家が〝自分のためだけに〟高額ツアーの体をした列車をわざわざ用意したとは到底思えない。が、これで来てくれとした意図のようなものは見えてきた。隠密ゆえにSPや警備を用意するのは不可。しかし小娘に乗り換えの労や伴うリスクを排除し、長距離を確実に。
 隠密裡に、されど自分を遇しつつ。
〝マタ・ハリが良く乗っていたと言われますが真実はどうでしょうか。ジェームズ・ボンドが寝台個室で格闘した痕跡も、現在のところ公的には確認されておりません……〟
 オリエント急行に乗って極秘任務。……突然の凄い話ではあるが、断る理由は無いであろう。そもそもこの住所を知っているということは、親も趣旨を了解して住所をコルキス王室に開示したのだ。
 あの服、まだ着られるかな……彼女は身体をひねってクローゼットに目をやった。

 アムステルダム中央駅。
 トラムで降り立つ駅前広場は、まず目立つレンガ駅舎の偉容。
 左右に堂々と翼を広げる、ゴシック様式三階建て、なのだが、〝遊園地のお城〟と言った方が、雰囲気の把握には、とりわけ日本人向けには判りやすいかも知れぬ。ちなみにひところ、東京駅丸の内側駅舎のモデルと言われたこともあった。なるほど一見そう映ってもおかしくはないであろうが、建築史の観点からは、否定的な見方が多いようだ。
 列車の出発は14時。リーフレットには30分前から乗車可能とあった。現在時刻はその〝30分前〟に少々、余裕がある。
 駅舎は広場右手が入口専用になっており、そちらへ回って人波に乗り、中へ入る。コンコースは豪壮な柱が並び、梁が弧を描く広い空間。オープンカフェのテーブルセットが配され、出札窓口には荷物を手にした人々の列。上方の出発案内には国内外の行き先がズラリと並ぶ。40分後にパリ行きの超特急が出るので、人々の多くはそれであろう。プラットホームは2階。そのパリへ向かう瀟洒なワインレッドの列車は見えない。

(つづく)

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