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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -017-

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「お座り下さい」
 チーフ氏は椅子を引いた。
「ありがとう」
 腰を下ろす。区分けされた中というのは文字通り特別扱いであって気が引けるが、列車側の都合もあろう。
「今夜のメニューになっております」
 フレンチフルコース。
 意図せず表情が硬くなってしまう。その日の食事にすら困窮する子ども達の顔がよぎる。
 チーフは彼女の耳元に顔を寄せ。
「殿下が贅沢なお食事に抵抗をお持ちとのことは承っております。そこで質素にと考え、120年前、この列車の運転開始当初のメニューを用意いたしました」
 彼女は思わず目を見開いた。
「お気遣いさせてしまって申し訳ありません」
「とんでもない。だからこそ私どもの腕の見せ所です。さて、先ほどジェフより単品料理をお一つと密かに聞きました。どうぞカルトからお選び下さい」
 プリンセスだから、と食事を奢られるのも気が引けるが、断ったらジェフ氏のこと「おお耐え難きショック」とか言って「死んでしまう」だろう。大体、密かに丸聞こえだ。
 コースを承知し、ジェフ氏のおごりはサラダをチョイスした。どうしても肉が中心なので野菜が欲しい。ワインはあり得ないのでグレープの生ジュース。
 以下、指紋が付かぬようテーブルナプキンを介して皿が運ばれる。
 
・カキの前菜
・ポタージュスープ
・カルトのサラダ盛り合わせ
・魚のグリーンソース
・若鶏のワインソース
・牛のステーキプロヴァンス風。これに焼きたてのパンを幾つか
・デザートはビターチョコレートケーキとコーヒー
 
「これが19世紀のメニューですか」
 食後のコーヒーにミルクの渦を描きながら、彼女は尋ねた。まぁ確かに、フレンチに付きもののフォアグラは無かったし、ホテルレストランというよりは家庭料理の趣。しかし新鮮な素材をふんだんに使ったという点では贅沢といって差し支えないだろう。しかも、フレンチというと少々味がくどいという印象があったが、これは素材の良さはそのまま、まさに〝味付け〟程度であって、至極上品だ。変な話かも知れないが、同様にシンプルなデザインの皿類までも上品に見える。白地のプレートに、車体と同じブルーのラインをあしらっただけ。但しブルーのラインはよく見るとキラキラ光り、ラピスラズリの含有を感じさせる。でも、本当によく見ないと判らないほど。
 本当の贅沢とは、根本的に良い物を選ぶことと、そのために手間暇を惜しまないことであって、過剰な演出で見せかけを飾ることではない……どこかで聞いたそのままだ。

(つづく)

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