アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -005-
そしてオリエント急行は電光案内にも表示がない。チャーター便を出しても仕方がないからだろうが、どのホームから出るのか判らないのは困る。その前にチケットを引き換える必要があるのだが、それっぽい窓口もない。うろうろして不測の事態に遭うのは御免だ。ちなみに少し前まで、この駅の治安の悪さは世界的にも有名な程であった。
誰か訊いた方が良い。そういう経緯から警備担当が増えたはず……と見回すと、目の前でどこぞの奥様が制帽姿のポーター(小荷物運搬業)氏にチップを渡しているところ。
同氏が日焼け顔に笑みを刻み、奥様を送り出したところで声を掛ける。
「すいません、特別運転のオリエント急行の乗り場は」
「これはこれはお嬢さん。女の子で鉄道好きとは珍しい。撮影用には4番ホームが開放されてるよ」
「いえ、あの、乗る……んですが」
するとポーター氏はオーバーアクション。額に皺を寄せ、目を見開き、口を小さくアルファベットの〝O〟の字に開いて彼女を見回す。
彼女は当然普段着ではない。襟元にふわふわフェイクファーをあしらったコート。キャリーバッグの衣装ケースにハンドバッグ。少なくとも男性はネクタイ着用、なのだ。文字通りの〝女コドモ〟であるが、カジュアルな服装は出来ない。
「……ああ、でしたらご案内致します。そちらお持ちしましょう」
「いえ、軽いから大丈夫です」
「仕事は抜きですよ。リトル・プリンセス」
ポーター氏は言うと、彼女の衣装ケースを手にし、今来た入口へ後戻りを始めた。入ってくる人の流れに逆らい、そのまま入口から一旦駅舎の外へ出てしまう。向かったのは左手、路面電車が出ている広場の東隣。先導されるままついて行くと、そちらにもこぢんまりしているが、しかし車寄せを備えた出入り口がある。但し人の出入りは無い。
彼女は気が付く、というか思い出す。この入口は。
宮廷車寄せである。大きな英文のウェルカムボードがあり、entrance及びOrient Express Limited Specialと見える。
入口から分けてある。しかも宮廷用。破格の扱いである。その旨パンフレットに書いてあったのだろうが見落としたか。
「ありがとう」
彼女はもういい後は自分で、の意で言ったのであったが、しかし、ポーター氏はそのまま表示板のある入り口から中へ。
「こちらのお嬢さんがご乗車だそうだ」
エントランス内にはチェックインカウンターが設けられてあり、濃紺の制服を着た男女の係員がそれぞれ一名。但しオランダ鉄道の制服ではない。
ポーター氏が話しかけたのは、メガネを掛け、ブロンドを後ろで丸くまとめた女性の係員。
メガネの女性は頷き、彼女へ目を向ける。
目が合うと、ハッとしたような表情を見せ、カウンター下を覗くような動作をした。乗客名簿と照合であろう。そして同席の男性に何事か。
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投稿: 作者 | 2025年11月14日 (金) 00時44分