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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -08-

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 学生カバンを持って立ち上がると、野太い声の平沢と、高いトーンの諏訪と。
 諏訪は福島県郡山こおりやまの病院に通っていたが、東北地方太平洋沖地震で建物や設備が被害を受け、親戚宅のあるこの地へ転居転院。喉の保護でクルマの多い規定の通学路は避けたく、別ルートを使っている。その際、何かあった時のために国際医療ボランティアの看護師資格を有する彼女が付き添い、更にその別ルートは不審者カツアゲが出るのでボディガード名目で平沢が付き合う、というスキーム。なお人通りの少ない下校時のみ。ちなみに野球部というと毎日練習のイメージだが、少子化の影響かチームは近隣複数中学共同になったとかで、全体練習は土曜の午前のみ。その他は自主練、ということでボディガードが出来る、という次第。ただ、ぶっちゃけ姫子に対する平沢の片思いである。
 3人で教室を後にすると口さがない声が聞こえる。付き合ってるんじゃないの?3Pだったりして。やだー勘弁……聞こえてるって。
「何だかんだ言われてるけど、僕、拒否されてないし、声かけてもらえるし、二人のおかげだなって思うよ」
 下駄箱で靴を履き替えながら、諏訪が言った。すると。
「あーそれな。違う。裏のお寺のトワイに顔出したろ。そこにクラスの連中の弟妹おとうといもうとが通ってて諏訪にーちゃんすげーって」
「へ?」
 平沢の言葉に諏訪は瞠目して動作を止めた。平沢家の裏手はお寺であり、お年寄り向けのデイサービス、およびトワイライトスクールに参画し、集会場をトワイライトスクールに充てている。対し、現在諏訪が居候生活している叔父夫婦は70を超す高齢であり、お寺の法話や、お年寄りと子供の交流イベントにも参加している。「叔父夫婦がお世話になっているし、自分もいろんな人にサポートしてもらっているので、せめてもの恩返しに」と、諏訪本人もちょいちょい顔出して手伝っている、という背景。
「ボードゲームの相手をしたりとか、勉強教えたりとか、アレルギーの子と一緒に代替食を食べてくれたりとか、みんな知ってるんだよ」
「そ、そうかな。なんか照れる。でも、僕でも出来ることがあるって思わせてくれたの相原さんだし」
 彼女はニヤッと笑った。
「残念、わたしゃ照れたりしませんよ。偉そうなご高説を垂れるだけなら誰でも出来ます。サッと行動できるのは誰にでも出来ることではありません。私のやってることが何らかの動機になっているならそれはとても嬉しいこと。でも多分、もっと嬉しいのは子供達。以上です」
「うわー、余計照れる」
 諏訪は逃げるように先に早足で歩き出した。

(つづく)

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