【理絵子の夜話】空き教室の理由 -74-
逆光状態が解除され、“まさか”と描いてある顔が普通に見て取れる。
「あゆみちゃんを死に追いやっておいて、返す刀が“折角尻ぬぐいしてやったのに死にやがって”ですか」
理絵子は早速父親の情報に基づきモーションを掛けた。
事実かどうかはどうでもいいのである。図星であれ、間違いであれ、何か真実に繋がることを口にするはずだからだ。
超感覚的には全て判じたが、それだけでは意味がない。
「お前、一体どこまで……」
「さぁ」
理絵子は首を傾げて言い、挑戦的に微笑んだ。
「正直に言え、何を知って、誰に言った。まさかお前の父親……」
ここで理絵子は携帯電話をリダイヤルで発呼した。音を出すスピーカと、光を出す発光ダイオードは指で隠す。
この電話で最後に掛けた相手は彼女の父親である。
指に振動を感じ、親子ホットラインが繋がったと判じる。マイクの部分を指先で叩く。とととん、とんとんとん、とととん。もう一回。
これで父親に意図は通じた。モールス信号のSOSだ。
「父に話したらどうだと?何かお困りでも?教頭先生」
父親に状況が判るように話す。
「そういえばお前は、あのクソッタレな暴走族共と付き合いがあったな」
「ええ、あゆみちゃんと同じくね。彼らからも色々聞きましたよ」
理絵子は2枚3枚とカードを切った。
教頭の発する雰囲気……オーラが変化するのを、理絵子の感覚が如実に捉えた。
「君は高校に進学するんだろう?成績も充分、学級委員としても立派にこなしている。文芸部の部長で先生方の評判も高い。何故そんなことをする」
地位の差を利用し、主題をすり替えて何か迫るのは、不利な状況に陥った大人の取る常套手段。
「担任を守るためです」
こっちも矛先を変えてやる。
「祥子を?ハッ。笑わせやがる。お前みたいな小娘に何が出来る」
教頭は担任を“しょうこ”と名前で呼んだ。朝倉祥子。普通、男性が女性を名前で呼ぶのはどういうシチュエーションか。
そして、お前だの小娘など、抑えきれない感情の表面化と見られる罵詈が、言葉の端々に次第に増えてきている。
真実に近づいていると感じる。そして疑う余地なく、この教頭とやらは何らかの犯罪を隠している。
理絵子は唇の端でフッと笑った。マンガで見た少女心霊探偵の決めポーズの真似。
「真実は自ら姿を現すということです。教頭先生」
「それはどうだろう。先生は悲しいよ。君みたいな優秀な生徒までもが伝説の餌食になるとはね」
教頭はフフフと笑いながら、再び懐中電灯を理絵子に向け、最前より早いテンポで理絵子に近づいてきた。
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