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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -061-

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13

 運用テストはひとまず成功と言って良いだろう。次は満月に燃料満タンで。そう約束して、レムリアはアムステルダムへ戻った。
 燃料はタンク二つを交互に使用する運用であるから、日本からコルキスに一旦戻り、その時点充填中の〝反水素モジュール〟に交換、アルゴ号で送ってもらった。アムステルダム市内は運河が縦横に走っており、加えて真夜中であれば、人のいない場所を見つけて船を下ろすのは造作もない。
 船を降り、街路を少し走り、先ほどの孤児院へ向かう。この街は世界的大都会だが、大麻オーケーといったイメージも手伝い、治安が取りざたされていることを知っている。21世紀になって改善された方だが、深夜帯にローティーンの少女が一人で歩いて安全なわけではない。ただ、彼女は〝危険〟を事前に察知できるという自負がある。
「子ども達はどうですか?」
 チャイムを鳴らし、応対に出た若いシスターに、レムリアはいきなり訊いた。
「あ、子ども達は大丈夫ですが……あの確か魔女さん、先ほど中国だか日本だか極東の方へ」
 数時間で行って戻れる距離ではない。
 常識では。
「日本の技術は流石ですね」
 レムリアはそれだけ言った。超絶技術大国というイメージがあるので、多分これで事足りる。考えてみればオランダと日本の関わりは古い。サムライの時代、日本の唯一の貿易相手はオランダだったと聞くし、コンパクトディスクなど、光ディスクの開発は、オランダの発想と日本の技術力の協業とか。
「あ、ああ、そういうことですか。凄いですね」
 シスターはそう応じ、ニコッと笑った。
 紅茶をもらいながらその後の状況を聞く。子ども達はここで食事を取ってもらい、いわゆる禁断症状の重い子は病院へ搬送されたとのこと。今ここに残っているのは4名。煙をあまり吸わなかったらしい。
 顔を見に行く。ぐっすり寝ており、安心したような表情。
 とは言え怖い目に遭ってきたのだ。念のためそのまま夜明けまで様子を見させてもらい、
 明るくなってから後を託し、トラムに乗ってアパートへ戻る。
 ポストを覗き、いつものように何もなく。
 鉄の階段を上って、カギを開けて入る、自分の部屋。
 一昨日までと変わらないし、実際いつも通りだが。
 なんだか別世界のコピーに来たような感覚。
 余りにも、余りにも短時間に多くの出来事が起こりすぎた。
 そして、その間に、自分が変わってしまったと認識する。
 シャワーを浴びてトーストを口にくわえ、オーラ・ノートとアマトールに歌わせる。
 紅茶をいつもの手順で淹れて落ち着く。の、つもりだが、まるでハイキングから帰った幼児のよう。
 いつもと同じ物を見ているがやはり違う。今の自分には現代版〝アルゴナウタイ(Argonautai)〟乗組員・専属看護師という肩書きが付いて戻った。
 世界を何周も回り、赤道直下の海に、日本に降りたのは夢かまことか。

(つづく)

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