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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -060-

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「ちあり?ちありいぬかい……いぬかいちありか。待った」
 青年は最初首を傾げたが、すぐに気付いたように目を見開き、しゃがみ込んでシュラフの中からノートパソコンを引っ張り出した。
 画面を見ると同好者向けのネット掲示板に投稿していたようだ。曰く『一旦消えてまた現れた流星を観測』とあり、それは船体で隠されたためだろう。透過シールドは船外カメラ画像を反対側に映して〝船がなければ見えるはず〟の画像を作り出すものだが、可視光線で流星を捉えるほどの感度は無かったということか。
 だから青年は双眼鏡をずっと船の方向へ向けていたのである。
 彼は画面を切り替えるとニュースサイトに接続し、日本語で〝犬飼ちあり〟を検索した(これでレムリアは船でのネット検索の限界に気付いた)。
「この子か?」
 果たして見つかったらしくパソコン画面を見せられる。それは犬飼ちありという10歳の少女が行方不明というニュース記事。
 大男が膝を屈し、画面の写真と少女を比べる。
 やつれているが、ほくろの位置や眉毛の感じは写真と一致する。
「でもこの子は奄美大島で……」
「人身売買組織の手になるところでした。彼女は……麻薬をかがされて、何も覚えてはいないでしょう」
「う……何か良く判らんが見つけて届けに来たんだな?承った。任せろ」
 青年は一発結論を寄越した。
 大男が少女を下ろし、青年は自分が入っていた寝袋のジッパーを開くと、そこへ少女を横たえた。
「預かった」
「では、いきなりご面倒ですが」
「確かに面倒だよ可愛い子。天使か妖精か知らないけどさ。一期一会だ。名前訊いてもいいかい?オレは|相原学《あいはらまなぶ》だ」
 青年はレムリアの目を真っ直ぐに見て問うた。
「私は……レムリア」
 彼女は答えた。青年の認識を知る。日本で古来〝神隠し〟と呼ばれる現象が自分の前に発生した。
「幻の大陸だな。夢かも知れないけどな。ともあれ預かった。突っ込まれてもアリバイはあるんだどうにかするさ。行きな天使さん。形而上の存在が地上に長居するもんじゃない」
 青年は薄い笑いを浮かべて言った。折りたたみ式の携帯電話を開く。警察へ掛けると知る。
『レムリア後は任せましょう』
「魔女っ子行くぞ」
「はい」
 セレネとアリスタルコスに促され、レムリアはスロープから船内へ戻る。丸投げで冷たいようだが燃料がない。
「浮上に伴い風が吹きますのでご注意を」
「ああ判った」
 青年は少女を抱え、船に背を向けた。
 船について話すことを忘れたが……まぁ、必要であれば。

(つづく)

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