アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -046-
手遅れか。まさか。子どもは?
解こうとして解けぬ二人の手指に、レムリアは息を呑む。
自分たち、この絆に応えてこそ。
その時。
『トレーサー感あり。氷ダムが壊れます』
セレネから警告。すなわち、車の人々をそこから早急に動かせ。
固く結ばれた夫婦の手指。3人で150キロはあるか。
4人で顔を見合わせる。全員で船まで抱えて運ぶ?非現実的。すると。
「帆を使え。こちらに倒せ。シュレーター」
『アイ。メインマスト左舷へ90度倒位』
アルフォンススの指示にシュレーターが即座に回答。帆膜が広がりながら自分たちの方へ倒れてくる。
膜の上に3人乗せるならそう難儀でもない。
滝の上から轟音。ダムで溜まった水が氷を割り、橋を押し流したようだ。
大量の水が来る。
そこでレムリアはアルフォンススにヒョイと抱き上げられ、帆膜の上に載せられた。まるで散歩ルートを外れて捕まった子犬だ。
「わ……」
「船体を横倒しに。直接甲板に上がる」
『了解』
シュレーターが答え、船は転覆の如く船体を倒した。もちろん、帆膜の水平は維持だ。
甲板外周ぐるりと囲うポールとロープの部分に男達が立つ。
「船体このまま浮上」
『アイ!』
滝の上から氷ごと大量の水が落ちてくる。氷混じりの土石流。
船体は帆を広げ、横倒しのまま浮上し、その場を離れる。眼下で幾片かに砕けた氷塊が滝を流れ落ち、大きな水柱が上がってクルマを押し流して行く。次いで橋桁や大量の流木。
一連の動きは一般に間一髪だったわけだが、この船の能力上、インシデントとは言えず、その評価は当てはまらないだろう。
「光圧シールドで船体を包囲し内部を保温せよ、船体を少しずつ復位し、帆膜の人員を甲板上に回収」
横倒しの船体が少しずつ正常位置へ戻って行く。水平だった帆膜が傾くと滑り台のようになり、レムリアは要救護者家族とともに甲板まで滑った。
この間に夫婦の固く結ばれた手指が離れ、挟まれていた男の子が転がり出る。
『本部病院へ向かいます』
「了解」
そのまま甲板で家族の身体状況、いわゆるバイタルサインをチェック。トリアージのシートに書き込んで行く。低体温で意識はないが、それが逆に〝連続回転に晒された状態〟を意識せずに済んだのではないか。
と、ここで船長の言葉を思い出して慄然となる。心拍は〝4〟と。あと1人は?
男の子がう~んと声を発して身じろぎ。気が付く。
「ここは?」
男の子は目を開けるなり、すぐさま半身を起こした。
周りを見回し、気付く。
「あっ!ママ!パパ!……お姉ちゃん誰?」
「私は魔法使い。君を事故から助けたところです。良く聞いてね。君に兄弟姉妹はいますか?」
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