アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -047-
こういう場合。くどくど説明するより〝魔法〟とか〝奇跡〟とか言った方が逆に早い。
「いないよ。あ、でも……」
「でも?」
「弟か、妹は、そのうち」
男の子は母親のお腹を指さした。
レムリアは母の腹部に手をする。〝4人目〟は赤ちゃんだ。男の子の顔色が変わる。
「え?……赤ちゃん死んじゃうの?」
そんなことは絶対にさせない。決意を伝えるためにレムリアが選んだのは。
「(月よ我が身に我が思う映し身を)」
彼女は唱え、西の空に傾いて見える〝半月が不満げに膨れたような〟月齢11の月明かりの中に立った。
呪文を原語で記述することは控える。それは、彼女自身と、彼女の母親のみが知る語。
「天使様だ……」
男の子は言った。宗教画さながらの光背を纏った姿に見えていよう。レムリアは月の光に働きかけ、自身を〝天使〟に化身して見せたのであった。いいのか悪いのか判らないが、必要なのは〝怖がらせないこと〟だと思ったからだ。そして、その技は一種の催眠術であり、そのように見える、だけ。
「だから、助けます。どうぞ、パパとママを呼びかけ続けて。君の声が聞こえれば、パパとママも助かります」
「ママ!パパ!」
男の子が呼びかける。
「助かった。ぼく助かったよ。魔法使いが天使を呼んで助けてくれた!次はママとパパが助かる番だよ!天使さんが言うんだ。間違いない」
涙ながらに叫び、揺さぶり、手を引っ張る。回転が脳へダメージ与えた危惧はあるが、男の子は問題がなさそうであり、それよりは五感に伝え続ける効果の方が上回るであろう。
イヤホンにコール。
『間もなくコルキス本部病院屋上。ストレッチャーが待機しています』
「ありがとうございます。さぁ、助かりますよ。間もなく病院です」
船が高度を下げる。夫婦は目覚めるとアメリカより1万キロを隔てたコルキス王国にいる、という事態になるわけだが、まぁ、こじつけはどうにも出来るだろう。男の子はおとぎ話の世界で良いかも知れない。
船は風を纏い、コルキス城内一角、リゾートホテル風の佇まいを示す8階建ての白いビル屋上に着地する。ただちに白衣のスタッフがエレベータホール脇から現れ、移動式のタラップを引っ張ってきた。状況を見てラングレヌスが男の子を抱いたまま飛び降り、タラップの固定作業を手伝う。小型旅客機の乗降でよく見るタイヤ付きであり、大男には造作もない。
続いてキャスター付きの寝台、ストレチャーが2台横付けされ、マットレスの部分をそのまま担架として甲板へ持ち込み、夫婦を載せて順次降ろす。
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