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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -077-

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「姫……」
 EFMM団長が何か言おうとした時、
『近場に大量の水はないか』
 船長の舌打ち。レムリアは返事の代わりEFMM団長に問うた。
「このウラン村で活動する際、水はどこから」
「ああ、5マイルほど東の……」
 答えに被さりイメージが到来した。
 団長の記憶である。医療団の来訪に合わせ、村の人たちがこぞってその距離を歩き、湯を沸かし茶を用意、活動の準備を手伝う……。
 そこへ銃を乱射しながらこの軍人達が。
 昇降ゲート脇、液晶画面の示す温度が数字を上げて行く。同時に船の下から熱を帯びた高速の気流が上がってくる。
 そして。
 超常の視覚が、正確に言うと、セレネの方が若干早く、次いでレムリアが気づく。
 この〝炉〟の抜かれつつある水の中には、放射線傷害で命を落としたこの地の人々がそのまま遺棄されており、水圧と強力な放射線のゆえにバクテリアが一切存在しないため、亡くなった身体には一切変質が生じない。その時の姿のままになっている。
〈レムリア……なんということでしょう……〉
 衝撃と落胆の意志がセレネから飛んでくる。コンクリートの器に水をたたえた原子炉の下、ウランを掘り出す際に生成された、地下20キロ遙か、大陸地殻断層面にまで続く深い穴。
 そこに今、炉心の減速材として使用されていた水が、滝の勢いで放出されつつあり、人々の亡骸はその水に乗って大地へ還って行く。
 原子炉でウランの核反応が起きると、副産物としてプルトニウムが生産される。このプルトニウムは反応後の物質(核のゴミ)に混ざっているため、より分けて取り出す。この作業を分離或いは抽出と呼ぶ。一般的なのは核ゴミを極めて強い酸である硝酸に溶かし、試薬として市販もされている〝リン酸トリブチル〟等で化学反応を行わせて取り出すものだ。いわゆる原子爆弾の原料には、ウラン235或いはプルトニウム239を用いるが、ウラン鉱からウラン235だけを取り出すには巨大なプラントと高度な技術を要する。対しプルトニウムは原発の排出物から薬品で取り出せる。従って原子炉とウランさえ手に入れば、プルトニウムを取り出す方が技術的障壁は低い。この国はその炉を、天然原子炉を範として水だけで生成し、そして、プラントの運転……核物質の取り扱いを、前述の如く、人手で行ったのである。
 すなわち核奴隷どころか〝人間の使い捨て〟。
 当然、秘密保持のため皆殺しも視野に入れたものと断じて良かろう。従い、放射線事故で死亡した人体は、そのまま水の中に遺棄され〝処分〟。他方、医療団を受け入れ、表面上は健康維持に前向きに見せかけ、という構図が見て取れる。

(つづく)

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