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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -063-

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 だから、戻って来たこの部屋がいつものようでもいつも通りではなく、どこかしら余所余所しい。何故ならこの部屋、一昨日までの自分の居場所は、とりあえず今日をやり過ごす、そんな日々の繰り返し。更にこの街へ来た動機を反芻すれば〝こんなのはイヤだ〟……すなわち〝これをやりたい〟ではない。
 気付く。船にオリエンタリスを置き忘れてきた。
 どころか、衣装ケースもハンドバッグも置いたままだ。
 〝持って帰る〟という意識がなかったからに相違ない。子ども達の様子を見て、一休みするためにここへ来ただけ。
 寝に来ただけ。
 でも、まぁいいや、と思ってしまう。またあの船に乗るわけだから。私の部屋に行くのだから。
 不思議な話ではある。大陸地塊に載った不動のアパートに浮遊感があって、12分で地球を一周する船に安心安定を覚えるのだ。
 その理由の一つに、彼ら大人達の中に素直に入って行けたし、迎えてくれたという事実があるのは確かだろう。それは都度メンバーが異なり、ある程度〝よそ行き・その場限りのミッション〟であるEFMMとは違う。自分は今この地で一人、孤独な暮らしをしているわけだが、EFMMのよそ行き感はその延長線と言える。比してアルゴは違う。家族的と言えるか。
 それは自分、大人達に迎えられて喜んでいるのか。
 ひとりぼっちの子どもが大人に囲まれて安心しているのか、大人の一員と認められて安心しているのか。
 どちらの見方も恐らく正しいのだろう。そして、どちらにせよ言えることは、自分の居場所が出来た。
 パラダイムシフトという奴だ。
 やれ、自分。
 困難は予想される。ただ、喜びと確信も同時に存在する。
 レムリアはまずメールのリストを各国のEFMM協力機関に転送する。アヘンが抜け次第、この子達を帰したい。
 子ども達とのコミュニケーション能力も高める必要があるだろう。普段ココロを掴む手段は手品であるが、それよりプリミティブな手段は食べ物やお菓子だろう。
 アイディアと課題が湯水のように意識に湧き出す。幾らでも出来ることがあるし、やらねばならないことがある。
 翌日からのひと月。次の活動は当初の話では4日後の満月になるはずだが、燃料を使い切って1回パスとなったのでまるっと一ヶ月。
 彼女は図書館に籠もって手当たり次第専門書を当たった。1年で学習した以上の知識を可能な限り詰め込んだ。まず手を付けたのは世界情勢の掌握、周産期に関わる知識の充実。EFMMであれアルゴ号であれ、出かけて行くのは怪我や疾病、災害が多い地域であり、背景には戦役、貧困がもたらす社会基盤の整備不足がある。可能性の高い地域をあらかじめ把握しておくことは無駄ではない。そして、そうした場所で最も弱い立場にあるのが赤ちゃんとお母さん。栄養が最も必要で、しかも病気に対して最も弱い。

(つづく)

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