【理絵子の夜話】空き教室の理由 -76-
「学園ホラーサスペンスってのは、最後に生徒が正義であるように、どんでん返しがあるんですよ。……お父さん、聞いての通りです。彼女たちの検死をもう一度」
「なにっ!」
理絵子が何をしていたか知ったか、教頭が飛びかかってくる姿勢を示す。
理絵子は通話状態の電話を教頭の目に入るように見せ、教頭の視線がそちらに移るのを見て、二つの行動を同時に起こす。
携帯を通話状態のまま部屋の隅に投げ出し、錫杖を振り出し竿よろしく振り回し、遠心力で伸ばしながら、その回転力で教頭の顔をひっぱたいた。
非力な少女とはいえ、1メートルの鉄棒の先に金属リングが幾つもあるのだ。効果は絶大である。
ひょうっと風切り音が聞こえ、次いで金属リングが頭蓋骨にぶち当たり音を立てる。
鈍い音で、ゴツ、と、ぢゃりん。次いでウワッという悲鳴。
こぼれ落ちる懐中電灯。もうもうと舞い上がる綿ぼこり。
「くそっ。目に当たった。畜生。畜生」
教頭が顔を覆う間に理絵子は懐中電灯を拾って消し、グランドピアノの下へ潜った。
さぁ今度はこっちの番だ。理絵子は声色を使う。
「教頭……先生」
揺れ動くような、ゆっくりした口調。
それは担任が一人芝居で演じた、二宮あゆみのイメージ。
「だ、誰だ」
「私です。ずっと、待ってました。ずっと……ずっと……。先生に、伺いたいことがあって。どうして……彼を警察に?」
「お前……」
「二宮です。忘れてないですよね。だって先生、私のために、私の成績を上げようとご尽力下さった。
その結果として、彼を警察に突き出したんですもんね」
理絵子は前半は可愛らしく、後半は声にドスを利かせた。
文芸部の主たる活動は創作である。セリフを作り、感情込めて読むくらい造作もない。
「に、にの……みや……」
果たして教頭は恐怖風に吹かれたようだ。乾いた掠れ声をようやく絞り出す。自分が有利か不利かでここまで言動が変わるのは、一般には卑怯者によく見られる傾向。或いは、弱みと恐怖を押し殺すための行動が、普段の横柄さ、強圧に繋がっているのか。
しかしもはやどうでもいい。矛を収める必要はない。それが弱みなら弱みを攻め立てるまでだ。引き続き、無惨に散った二宮あゆみの悲惨な姿を、教頭の脳裏に送り込んでやる。
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