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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -076-

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 船体を、エレベータシャフトに文字通り押し込んだのであった。
「あそこから中へ。リフトを下ろしました」
 リフトとはエレベータのことである。空飛ぶ船とは言えないため、そういう表現になる。船内には光子ロケット機関の異常に備え、幾つか隔壁が設けられている。そんな壁の一枚を通路にセットした。船尾が下向きなので、隔壁は床になる。
 ブザーと赤色回転灯。
 地下の空間に上から下へ風が起こる。何かが空気を動かしている。
 船のものではない。
『気圧低下。原子炉の温度上昇を検知』
「奴らは水を抜くつもりだろう」
 EFMMメンバーの一人が言った。
「水が抜かれると?」
 レムリアは訊いた。メンバーと、マイクの向こうの乗組員に。
『核物質が流れに乗って集まり、反応が暴走する』
「チャイナ・シンドロームだ」
 前者はイヤホンに届いたシュレーターの回答、後者は団長。
「走って!」
 レムリアは言いながら、軍人達はどうすべきかと自問した。
『彼らは、毒を口にしました』
 セレネが言った。彼女の超感覚による分析では、警備する政府軍兵士が自ら支配者に君臨すべく核クーデターを計画し、ここを占拠、際してプルトニウムの生産量を増加させるべく、住民による所定の工程を逸脱させた。結果、水のもつ核反応抑制効果を上回ってウランの核反応が加速、高温が生じて小爆発に至った。
 それは街角の電光ニュースのようにレムリアの意識に流れた。しかしレムリアには、その情報に価値があるとは思えなかった。
 EFMMのメンバーを船へ導く。全員の搭乗を待って、自らも船内に入る。
 昇降口のゲートが閉まり、イヤホンに警報。通路そのものを放射線汚染区域として前後封鎖。基地に戻って処理するまで出るべからず。
 それは良い。問題は基地に帰ること。すなわちここからどうやって脱出するか。
『近傍最高温度720ケルビンに上昇』
 逃げること自体は容易である。ただ、現在ここで進行しているのは、核反応。
 炉心溶融、象の足。放置した|炉《リアクター》の行く末を言う語を幾つか知っている。チャイナ・シンドローム……団長の言ったそれも、行く末を示す語のひとつ。すなわち炉心が冷却剤を失い超高温の火の玉と化し、炉心どころか大地を溶かしながら地中へ進行、そのまま地球内奥をも突き抜けて裏側まで行ってしまう……アメリカの反対側は中国……から来た言葉。
『緊急冷却装置はないのか』
『本船の機能で何か使えないか』
 無線越しの男達の錯綜。
 何も答えを用意できない自分が歯がゆい。仕方がないと判っているが、何も言えないのは辛い。……だから自分はこの地に呼ばれなかったのか、とも思う。

(つづく)

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