アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -091-
エントランスでドアベルを鳴らすと、シスターの声で応答。
「すぐ行きますからどうぞお入り下さいな」
……教会という性質上、来る者は拒まず、なのだろうが、レムリアとしてはもう少しセキュリティレベルを上げた方がいいのでは?と思うのが正直なところ。アムステルダムは良くも悪くも自由な、自由すぎる都市だからだ。ちありちゃんを連れてきたのも昼だと判っているから。
テレパシーを持つ自分ですら、日が暮れた裏路地は怖い。
ドアを開けて顔を見せる。丁度シスターが現れ、オウ!と、目と口をアルファベットの〝O〟の形に小さく開く。
「(あなたはあの時の)」
通訳の部分は略す。
「お世話になったそうで」
ちありちゃんは頭を下げた。
レムリアが日本の〝お辞儀〟の意味とタイミングを知ったのはこの時である。
この動作は日本においては謝意を表すと、レムリアはシスターに説明した。
「日本からわざわざ?」
シスターはその事実に気付いて更に目と口を開いた。
「ええ、私の魔法で」
レムリアはウィンクして付け加えた。
「あらあらまぁまぁどうしましょう。日本、フジヤマ、キョウト、お茶。そうよお茶をお出ししなきゃ。遠い遠いところいらしたんですもの」
来客が遠すぎて類推が及ばないせいか、悩ましく右往左往するシスターの向こうを、男の子がひとり、通りがかる。
「あ、『ヴァルキューレシルバー』」
その子はすぐにちありちゃんのコスプレに気付いたようだ。指さして声をあげる。
そのまま、周囲に叫びながら、来た道を取って返す。みんな来いよヴァルキューレがいるぞ……。
「さて、見つかっちゃったよ。どうする?」
レムリアはいたずら少女の瞳でちありちゃんに言った。こういう場合、自分としてはやることは一つ。
「え?えっ!」
何事かと戸惑い目を見開くちありちゃん。二人のやりとりにシスターは一歩下がって微笑。
これから何が始まるか、予想が付いているのだ。
正義の味方ヴァルキューレが日本から見参。〝第一発見者〟の子は孤児院中を触れて回り、恐らく孤児院の子ども達が全部集まった。
頃合いである。レムリアはドラキュラ用の付けキバを口にくわえ、シスターの背後に回り、人質よろしく抱きかかえて広い場所へ。
「へっへっへ。シスターは我ら魔族が預かった」
レムリアはちありちゃんにウィンクして見せた。
日本語「活躍してね」。
即席の正義の味方ショータイム。ちありちゃんも了解したようで、頷いてウィンクを返した。
「やっつけるわよ」
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