アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -067-
ウラン鉱山を擁する村。
ウラン、元素記号U、ウラニウム。言わずと知れた核物質であり、原子力発電は勿論、核兵器の燃料として最右翼にある物質である。正規・非正規を問わず外貨の獲得源にも使え、その物流を支配することは、国内権力のみならず国際影響力を高める。それは貧困国家や支配欲の権化、そして、歪曲した主張をテロリズムで掲げる非国家主体にとって、垂涎の的。
従い当然、その村は軍事国家の直轄とされ、政府が軍隊を配置して管理している。しかし、周辺の反政府勢力が奪取制圧を虎視眈々と狙っており、小競り合いが頻発していた。一般に割拠した少数民族が政府正規軍に楯突いて軍事的に勝利を得られる公算はなく、無駄な戦闘は挑まない(奉じる〝神〟の力を信じ込んでいる手合いは除く)ものであるが、この地の勢力は、狙うものの故に、周辺の他の貧困国や国際テロリズムの支援を受け、潤沢な武器と組織を有していた。
「正直、背景が何であろうと私たちには関係ないのです。重要なのはウランの産出に高い賃金で人を募り、放射性物質に関する知識のない人々を危険な作業に従事させていること」
判っているのに看過は出来ぬ。ちなみに政府はEFMMの定期巡回をあっさり許可した。これは国際医療団を受け入れることにより、正当性を主張し、危険作業を押しつける〝核奴隷〟を否定する隠れ蓑にするためと容易に予想できた。
「で、団長殿以下連絡が途切れたと。政府の受け入れ方針が変わったか、蜂起した勢力が君たちの団体を人質として占拠でもしたか。単なる医療器具泥棒か。レムリア……どれにせよ君の判断は的確と言えそうだ。かけ直すと君という存在を連中に知らしめる。或いは虚偽を言ってさらにおびき寄せるなどした可能性がある」
アルフォンススは腕組みし、更にこう付け加えた。
「もう一つ。聞きたくないかも知れないが言うぞ。総員、放射線防御準備。シュレーター。状況、核物質汚染」
「了解。核施設接近警戒」
船は時間的にはとうに現地に到達している頃合いだが、次第に減速し、あと10キロというところで一旦静止した。光圧シールドの出力を最大とし、放射線測定を行いながら徐々に接近開始。
つまり。
「核事故の可能性があるということでしょうか」
レムリアは訊いた。
「否定は出来まい。君の言う通り放射性物質の知識を持たない作業者であれば、不適切な取り扱いで事故を起こす可能性もあり得る。それでインマルサット無線機器や、電話が破損したとも考えられる。EFMMメンバーの放射線防護は?」
「被曝者を診察するので防護服着用で従事しているはずです。ただ、私は随行禁止なので確定的なことは言えません」
そうだよ。レムリアは自分のセリフに〝電話の違和感〟の正体を見た。
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