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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -074-

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 そして、戦場においては、刹那の躊躇が、全てを制する。
『ジャンヌ・ダルクだな。それとも我々を導いてくれるか女神様』
 アルフォンススが、ドラクロワの壮大な絵画を想起したことを、レムリアは知った。
 ジャンヌ・ダルク。彼女は魔女裁判で火あぶりになる。言わば、先輩魔女。
 ただ、自分に死ぬ気はない。比して女神はまさか。
「魔女として、お引き受けします」
 果たしてアルフォンススは笑って寄越した。
『誰も考えつかない作戦として見上げた勇気を買おう。副長、何か感じるところはあるか』
「いえ、彼女もわたくしもある種の確信を得ています。船長の赴くままで問題は無かろうと」
 運命の導き再び。
『良かろう。シュレーター。船の装備で放射線を避けつつ中枢に達する策はあるか』
「敵施設の破壊を厭わぬのであれば」
 シュレーターは即答し、レムリアに向かって親指を立て、後ろを指し示す。
 意図するところ、用意せよ。昇降口へ向かえ。
『構わん、許可する』
 アルフォンススの言を聞きながら、レムリアは巨大な扉を開く。
『では船長、その地下10キロにこの船を突き立てる。光圧シールドチューブを地下に向かって走らせる』
『了解した』

16

 地下空間。コンクリートの構造物であり、剥き出しの地肌はじっとりと湿った印象。
 EFMM団長は、防護服の奥で、金色の眉に困惑の皺を寄せた。
「もう血液が足りんぞ」
 ベッドに仰臥する軍人は口元に呼吸器を付け、激しく息をし、その旨心電図に表示が出ている。
 ポータブルの輸血装置は間もなく残量がゼロになると警告している。
「ない、では困るのだ」
 別の軍人がしゃくるように銃を動かし、団長は金色の口ひげをぴくりと震わせる。
 急性放射線障害で大量の輸血を行っているのである。
「核物質を侮るからだ」
「黙れ」
 引き金に指が掛かり、銃の部品が動いてわずかに音。
「撃てば良かろう。その代わりこの将校は確実に死ぬ」
「理屈だな。では貴殿スタッフの血液を頂戴するとしようか」
 軍人は団長の傍ら、アフリカ系女性スタッフに銃口を向けた。
 大きな音がした。
 発砲ではない。
「またかっ!」
 銃の軍人が叫び、背後を振り返る。
 また……それは核事故の再発懸念を示した。
 縦横に配された配管群の向こうが白銀の光に包まれる。それを〝反応〟と誤認しても確かにおかしくはない。
 しかし正体は強烈な照明である。降ってくるように上方から照射され、地上と結ぶエレベータを包み、見えなくした。
 それは、天とこの地下とを直結する光の筒そのものであった。

(つづく)

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