アルゴ・ムーンライト・プロジェクト -078-
コンクリートが溶け出す温度は、摂氏1千度少々。絶対温度に直すと1300ケルビンほど。
『900ケルビンを突破した。船長、どうする』
とはシュレーター。それは今、船を包む光の筒の外側が、応じた高温になっていることを示した。
コンクリートが溶解すれば、支えを失った岩盤が崩れてアルゴ号を潰しに来ようし、放射線は塞ぐ蓋を失い容赦なく地上へ散乱する。そして炉底では核反応が爆発的に加速する。それはガンバレル型(広島型)原子爆弾の起爆機序に近似となる。
船長は断を下さない。迷っていると判る。船は脱出はできる。しかしその後、(不完全な)原子爆弾が炸裂する。それは許されることなのか。しかも水底の多くの亡骸もろとも。
『船長』
とは副長セレネ。
『わたくしも、レムリアも、付近に人の命を感知していません。残念ながら。行きましょう』
進言。レムリアが口に出すのは無理だと判っているから。
プロジェクトリーダーとして。
『1070ケルビン。限界だ』
シュレーター。
『判った』
アルフォンススは重く、引きずるような声で言った。そして。
『アルゴ発進する。但し条件を付す。前進出力最大、同時にリバーサーにて後進出力も発生させ相殺せよ。前進加速度1G設定』
それは前進と後進を同時に指令し、若干前進が勝る程度にせよ、の意。
その意図は。
『光圧で大深度へ掘削する。一気に穴を掘って炉を落とし、ウランを散らして濃集を阻止せよ。地上への影響を極限まで軽減する』
『了解船長。レムリア、穴掘りながらここを脱出する。君らを隔離エリアに収納できないためINSは使用できない。衝撃に備えよ』
「判りました」
シュレーターの注意喚起にレムリアは答え、耳に指を入れてイヤホンのボタンを押し、ピンを打った。
「姫。誰と話しているんだ?」
「リフトを動かします。手近のハンドル類につかまって下さい」
レムリアは必要最小限のみを言い、昇降ゲートのハンドル、隔壁のロック用レバーなどをメンバーに示した。今後こういう場合に備えてベルトやロープなど接続や拘束の道具が欲しい。
各人がそれぞれつかまり、更に手と手を握り合う。
「EFMMはOKです」
『よろしい行け』
『主機関出力漸次増大』
船がぐらぐらと前後(つまり上下)に揺れる。前進と後進をかなりの出力で同時に掛けているので、バランスの関係で多少の振動はどうしても生じる。
「姫、地震では」
「いいえ、このリフトが動いているだけ」
『炉の滑落開始確認。炉心温度1200ケルビン。限界近い』
『船体を振って炉床を打ち砕け、反応済み燃料を散らせ!』
器の底に穴を開け、そこにうずたかく積もっているであろう〝核ゴミ〟を光圧で飛び散らせろ。
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